『暗いところで待ち合わせ』(乙一)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/13
『暗いところで待ち合わせ』(乙一), 乙一, 作家別(あ行), 書評(か行)
『暗いところで待ち合わせ』 乙一 幻冬舎文庫 2002年4月25日初版
視力をなくし、独り静かに暮らすミチル。職場の人間関係に悩むアキヒロ。駅のホームで起きた殺人事件が、寂しい二人を引き合せた。犯人として追われるアキヒロは、ミチルの家へ逃げ込み、居間の隅にうずくまる。他人の気配に怯えるミチルは、身を守るため、知らない振りをしようと決める。奇妙な同棲生活が始まった - 。(幻冬舎文庫解説より)
少し古い作品ですが、今でも変わらず高い支持を集めています。特に若い人が読むと、おしなべて感動し、また共感もするらしい。映画にもなったくらいですから、おそらく人の機微に触れる、若者の心を掴んで離さない何かを秘めた小説だということでしょう。
物語は、暗く静かなトーンで進行します。決して華やかな場面が準備されているわけではありせん。ほとんど目が見えなくなったミチルは、今で言う「引きこもり」。家から出ようとせず、炬燵で寝ているだけの毎日を過ごしています。
父親とは死別、離婚した母親はとうに家を出ています。父親と過ごした一軒家で、ミチルは現在一人で暮らしています。居間にある窓を開ければ、間近に駅のホームがあります。物語は、電車を待つ人の顔さえよく見える、線路のすぐ傍にあるこの家から始まります。
・・・・・・・・・・
印刷会社で働いているアキヒロは、いつまで経っても人と馴染めず一人浮いたような存在です。先輩格の松永トシオからは、明らかに目の敵にされています。日頃の態度で、それがよく分かります。そればかりか、アキヒロは松永を慕う後輩からも舐められています。
彼は、あまり人の名前を覚えません。中学生の頃からそうで、働き出してからもそれは変わらず、相手は自分の名前を知っているのにこちらは知らないということがときに起こります。それは自分が周囲に無関心である証拠なのだろう、とアキヒロは考えています。
周囲が何かの話題で弾んでいても、会話に加わりたいと思わない。会話の中身にも興味が湧かない - 普通の人なら自分も会話にまぜてもらおうと近寄るのだろうかなどと思ったりするのですが、しかし、実際のアキヒロは遠ざかろうとするばかりです。
アキヒロは一人でいることをいつも望んでいるような少年で、それが為にいつの間にか孤立しています。みんなの会話につき合わされるのを苦痛に感じ、集まって群れているクラスメイトたちがときに自分と違う生き物に思えたりしたことがあります。
その傾向は働き出した今もそうで、誰かと話していると、なぜかは分らないのですが、自分が否定され続けているように感じたりします。アキヒロは、仕事終わりの同僚からの誘いをその度断っています。当然のこととして、誰もが声をかけなくなっています。
しかし、彼はそれでいいと思っています。なまじ誰かと話すと、話している最中はいいのですが、一人になると、自分の言ったことには自己嫌悪し、相手の言葉については様々な疑問が溢れます。
会話をしているときには気付かなかった意思や価値観のすれ違いに気付いては打ちのめされ、自分の考えや想像していたものが浸食されて、破壊されていくような気持ちになるのです。だから・・・
結局のところ、孤立しているのが一番穏やかな気持ちでいられる方法で、アキヒロにはいつも群れになって行動している人々のことが理解できません。大勢の中にいて、自分が埋没していても平気でいるような仲間には決して入るまい、と彼は思っています。
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主人公の一人であるアキヒロのことを長々と書きましたが、おそらくは彼の、これら諸々の心情こそが若い人たちの共感を呼ぶところだと思い、敢えてつらつらと書き出してみました。
「人とうまく馴染めない」「行き場を失くして、仕事(勉強)より何より、その場に留まっているのが耐え難い」「寂しいけれど、思い悩むよりは一人の方が良いではないか」「誰にも邪魔されず、迷惑もかけずに一人でいることのどこがいけない? 」・・・
そんなことは感じたことも考えたこともない - という人は、おそらく、小説などというまわりくどいものを好んで読んだりはしないのでしょう。読む必要もないのです。一度でもそんな経験があり、アキヒロが抱く思いに同感してしまう、そんな若者が今も大勢いるからこそこの小説が読み継がれているだと思います。
乙一なのでゾワッとするミステリーなのかと思いきや、まるでそうではありません。ミステリーを装った、とてもヒューマンな物語です。ミチルのことが疎かになりましたが、既に読んだ方の中には、ミチルのファンも数多くいます。
最初のうちは、人をホームから突き落とした犯人が目の不自由な一人暮らしの若い女性の家に忍び込んで、さあ何が始まるのかと思います。しかし、終わってみれば、それはそれは清々しい結末です。安心して読んでください。
◆この本を読んでみてください係数 80/100
◆乙一
1978年福岡県生まれ。本名は安達寛高。
豊橋技術科学大学工学部卒業。
作品 「失踪 HOLIDAY」「きみにしか聞こえない CALLING YOU」「夏と花火と私の死体」「GOTH リストカット事件」他多数
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