『鸚鵡楼の惨劇』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/13 『鸚鵡楼の惨劇』(真梨幸子), 作家別(ま行), 書評(あ行), 真梨幸子

『鸚鵡楼の惨劇』真梨 幸子 小学館文庫 2015年7月12日初版

1962年、西新宿。十二社の花街に建つ洋館「鸚鵡楼」で惨殺事件が発生する。しかし、その記録は闇に葬られた。時は流れて、バブル全盛の1991年。鸚鵡楼の跡地に建った高級マンションでセレブライフを送る人気エッセイストの蜂塚沙保里は、強い恐怖にとらわれていた。「私は将来、息子に殺される」- それは沙保里の人生唯一の汚点とも言える男の呪縛だった。2013年まで半世紀にわたり、因縁の地で繰り返し起きる忌まわしき事件。その全貌が明らかになる時、驚愕と戦慄に襲われる!! 〈イヤミス〉の女王史上最も危険なサスペンス。(小学館文庫解説より)

一章 1962年 新宿十二社
ここでは昭和37年(1962年)の11月、東京都新宿区十二社の料亭「鸚鵡楼」で発生した殺人事件の発端が語られます。語り手は当時12歳、小学6年生の「僕」。「僕」は十二社通りの商店街にある洋食屋「十二社亭」の息子で、「こうちゃん」と呼ばれています。

「僕」と同じクラスに「ミズキ」という名の少女がいます。ミズキは置屋の娘。すでに客の相手をしているのが分かったのは、「僕」が出前を頼まれたときのことです。小太りオヤジにいたぶられる彼女の姿を、見てはならぬと思いつつ「僕」は見ずにはおけません。

章の最後 - 友達から「こうちゃんは、将来は、何になるの? 」と訊かれた「僕」は、密かにこんなことを思っています。

僕は、きっと、犯罪者になるだろう。
より大きな興奮を求めて、次々と獲物を見つけ、そして罪を犯すのだ。そして、ついには、蛆虫のように、ゴミの中で死んでいくのだ。きっと、それが僕という人間のあり方だ。誰にも止められない。

二章 1991年 テレゴニー
この物語の主たる人物が続々と登場します。まず冒頭では「河上航一」なる被告人の罪状が縷々述べられます。幼い女児を狙い、暴行や強迫を加え、着衣を脱がせ、その乳房や陰部を触り、陰茎を押しあてるなどした罪により、彼には懲役7年の刑が言い渡されます。

その河上とかつて交際していたのが、沙保里。沙保里はすでに「蜂塚祥雄」と結婚して「蜂塚沙保里」になっています。OL時代にたまたま社内報に寄稿したエッセイが女性誌に転載され、それが評判で連載が始まり、今では誰もが知るエッセイストになっています。

沙保里は、現在31歳。4歳になる「駿」という息子がおり、今また妊娠中の身です。駿はたいそう利発な子供なのですが、沙保里には少々心配なことがあります。男の子なのに、女の子のお友達が持っている着せ替え人形に興味を示すのが気になって仕方ありません。

沙保里のマネージャー的な仕事をしているのが「南川千鶴子」で、彼女は、沙保里には人が見えないものが見えると言います。例えば人の後ろにいる人の影であるとか、人の過去とか未来とかが - そして、不確かながらも、沙保里自身にもそんな覚えがあります。

そんな覚えがあってかどうかは分からないのですが、沙保里の駿に対する気懸かりは、実は少々程度のものではありません。誰にも言えない心の内では、沙保里は駿のことをひどく恐れています - あの子が、私を睨みつけている。憎しみを宿した目で・・・と。

沙保里が今住んでいるのは、甲州街道から十二社通りに折れてすぐの場所にある高級マンション。9階の部屋を月50万円払って借りています。この「ベルヴェデーレ・パロット」と名づけられたマンションは、以前そこにあった洋館「鸚鵡楼」の跡地に建っています。

※「テレゴニー」とは、前に交尾したオスの特徴が、他のオスとの間にできた子供に遺伝するという説。メスが雑種と一度でも交尾してしまうと、そのあとサラブレッドと交尾して仔馬を産んでも、その仔馬は厳密にはサラブレッドとは言えないという説のこと。

三章 2006年 マザーファッカー
四章 2013年 再現
五章 2013年 鸚鵡楼の晩餐

二章では紹介し切れなかったのですが、沙保里の義妹にあたる「依子」や義母の「京子」のこともしっかり頭に入れた上で読み進めてください。物語の始めに登場する「大倉悟志」という若い編集者も忘れずにいてください。後半、立場を変えて再び登場します。

他にも沙保里と同じマンションのママ友連中や、催眠術で記憶を遡らせて心の闇を治療するというセプノセラピストのREIKO、彼女に寄り添う黒スーツの女といった得体の知れない人物などが登場します。

いずれにしても、蜂塚祥雄と沙保里が殺害された通称「鸚鵡楼の惨劇」の真相を解明することが全てを解くカギになります。1991年9月15日。そのとき、河上航一は、駿は、あるいはそれ以外の関係者達は、どこで何をしていたのでしょう。

その全容が、三章からあと詳細に語られます。そこには、ここに登場しない、また別の人物が登場します。どうかみなさん、くれぐれも作者の仕掛けた罠に嵌らないでください。

この本を読んでみてください係数 80/100


◆真梨 幸子
1964年宮崎県生まれ。
多摩芸術学園映画科(現、多摩芸術大学映像演劇学科)卒業。

作品 「孤虫症」「殺人鬼フジコの衝動」「深く深く、砂に埋めて」「女ともだち」「あの女」「えんじ色心中」「人生相談」「お引っ越し」他多数

関連記事

『往復書簡』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『往復書簡』湊 かなえ 幻冬舎文庫 2012年8月5日初版 高校教師の敦史は、小学校時代の恩師の依

記事を読む

『悪果』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『悪果』黒川 博行 角川書店 2007年9月30日初版 大阪府警今里署のマル暴担当刑事・堀内は

記事を読む

『あくてえ』(山下紘加)_書評という名の読書感想文

『あくてえ』山下 紘加 河出書房新社 2022年7月30日 初版発行 怒濤である。出口のない

記事を読む

『アカガミ』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

『アカガミ』窪 美澄 河出文庫 2018年10月20日初版 渋谷で出会った謎の女性に勧められ、ミツ

記事を読む

『火花』(又吉直樹)_書評という名の読書感想文

『火花』又吉 直樹 文芸春秋 2015年3月15日第一刷 又吉直樹は、今年でちょうど35歳に

記事を読む

『殺人者』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『殺人者』望月 諒子 新潮文庫 2022年11月1日発行 連続する猟奇殺人、殺害さ

記事を読む

『猫を棄てる』(村上春樹)_父親について語るとき

『猫を棄てる 父親について語るとき』村上 春樹 文藝春秋 2020年4月25日第1刷

記事を読む

『心淋し川』(西條奈加)_書評という名の読書感想文

『心淋し川』西條 奈加 集英社文庫 2023年9月25日 第1刷 「誰の心にも淀み

記事を読む

『ふたり狂い』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『ふたり狂い』真梨 幸子 早川書房 2011年11月15日発行 『殺人鬼フジコの衝動』を手始

記事を読む

『信仰/Faith』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文

『信仰/Faith』村田 沙耶香 文藝春秋 2022年8月10日第3刷発行 なあ、俺

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『マッチング』(内田英治)_書評という名の読書感想文

『マッチング』内田 英治 角川ホラー文庫 2024年2月20日 3版

『僕の神様』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『僕の神様』芦沢 央 角川文庫 2024年2月25日 初版発行

『存在のすべてを』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『存在のすべてを』塩田 武士 朝日新聞出版 2024年2月15日第5

『我が産声を聞きに』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『我が産声を聞きに』白石 一文 講談社文庫 2024年2月15日 第

『朱色の化身』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『朱色の化身』塩田 武士 講談社文庫 2024年2月15日第1刷発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑