『白い部屋で月の歌を』(朱川湊人)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2017/12/14
『白い部屋で月の歌を』(朱川湊人), 作家別(さ行), 書評(さ行), 朱川湊人
『白い部屋で月の歌を』 朱川 湊人 角川ホラー文庫 2003年11月10日初版
第10回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作品。
物語の舞台は、霊能力者シシィ姫羅木と除霊のためにシシィに自らの躰を提供するジュンが創り出す現世と来世の空間「白い部屋」。二人の仕事は、現世に未練を残したままの救われない霊魂を、ジュンの体内=白い部屋へ導き入れては速やかに来世へ送り出す(=除霊する)ことです。
霊能力者のシシィとジュンの実像を具体的にイメージできる描写がないまま物語は進行していきます。それがこの小説の不気味で気持ちが悪いところ。それでもどうやらジュンが正常に発育していない男子であることだけは読み取ることができます。
歩くのが困難で、いつもは横になっていること。動物の絵本を与えられて喜ぶくらいの知能の低さ。しかし、子供かと思いきや、シシィとのセックスシーンが出てきたりします。(但し、一方的に忘我で咆哮するシシィには耐えられぬ嫌悪を抱いています)シシィの意のままに操られる玩具のようなジュン - といったところでしょうか。
ある日、特別な依頼が舞い込みます。
いつもの亡くなった人の霊魂を鎮めて来世へ送るのではなく、生きている人間の霊魂を元の躰へ戻してほしいという依頼で、二十歳の女性恵利香の霊魂は、凶行に遭った事件現場の地場につかまったままの状態でした。
何とか恵利香を救うことに成功するのですが、白い部屋で今までになく恵利香と語らったジュンはその面影に恋をしてしまいます。恵利香を白い部屋から出そうと躍起になるシシィに、はじめてジュンは抵抗を示します。恵利香の身代わりにジュンが白い部屋から抜け出ようとした瞬間・・・・・・・
選評のなかで高橋克彦氏は、恐怖小説としての水準の高さを認め、ラストの場面の美しさを評価しています。文庫裏の解説文には、「斬新な設定を意外なラストまで導き、ヴィジョン豊かな美しい文体で読ませる新感覚ホラー小説」とあります。
作品は、文庫でせいぜい120ページ程度の短編。朱川湊人の出発地点が確認できる小説ですので、ホラー小説好きの方はぜひ一読を。
尚、文庫に収められているのは「白い部屋で月の歌を」と「鉄柱(クロガネノミハシラ)」の二作品です。
この本を読んでみてください係数 75/100
◆朱川湊人
1963年大阪府生まれ。
慶應義塾大学文学部国文学科卒業。出版社勤務を経て、専業作家。
作品 「フクロウ男」「花まんま」「かたみ歌」「本日、サービスデー」「太陽の村」「鏡の偽乙女 薄紅雪華紋様」「遊星ハグルマ装置」「さくら秘密基地」「なごり歌」他多数
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