『御不浄バトル』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/13 『御不浄バトル』(羽田圭介), 作家別(は行), 書評(か行), 羽田圭介

『御不浄バトル』羽田 圭介 集英社文庫 2015年10月25日第一刷

僕が入社したのは、悪徳ブラック企業!? 過酷な労働と精神的負担で営業部員は半年で辞めていく中、事務職の僕は無難に仕事をこなし二年目に。唯一の楽しみは、会社や駅のトイレでくつろぐこと。素性不明なトイレ常連メンバーたちと静かな個室争奪戦を毎日繰り広げる。しかし、ある電話がきっかけで、日常が一気に崩れ出す。限界に達した僕は、退職を決意するが・・・。(集英社文庫解説より)

一言でいうと「よー書くわぁ・・ 」(すみません、関西人なもんで)です。本編のうち実に32ページがトイレ内の描写に当てられ、中に6ページに亘って延々と続くなんてこともあります。(全体は150ページ余りの作品です)

特に私が爆笑したのは125ページあたり - 個室が満室なため一旦事務所に戻り、数分後に再訪するとラッキーなことに「指定席」- 三つあるうちの奥の窓際にある個室 - だけ空いていた時のことです。

(あたり前ですが)まずするのは、ウンコ。出てきた量は尋常ではありません。ここまで体内に溜まっていたのに便意を感じないでいたのは、緊張状態が続き気づかなかっただけだろうか、などと「僕」は考えています。流水して一息つき・・・

では、なぜ「緊張状態が続いて」いたのかをここで説明すると - 僕(名前は「渡辺丈史」。但し、一人称のため滅多に出てこないので「僕」とします)は元々事務職として「電信教育センター」に採用された唯一の大卒社員で、普段は経理の仕事をしています。

勤め始めてからは、おおよそ1年半が経過しています。働き出してからわかったのですが、この会社はかなりアブナイ会社で、過去に行政処分を受けたことがあり、その後社名を変えて「電信教育センター」になっています。

やっていることは前から同じで、電話と執拗な営業による高額教材の販売。但し、会員になった子供に週一回、電話で学習相談を実施しているという点だけで体裁を保っている悪徳会社。社員の平均在職期間は半年。入社した人間のほとんどが、すぐに辞めて行きます。

今で言う「ブラック企業」なのかどうか - 普通に事務をこなすだけの僕は、最初こそ会社の実態を他人事のように眺めていたのですが、さすがに1年半程も経つと、やはりまともな会社に転職すべきではないかと考えざるを得なくなっています。

そんな時、会員の子供から掛かってきた電話にたまたま出て、僕はちょっとしたミスをします。(わかってはいたのですが)契約更新を言い出せぬまま電話を切ってしまったことで所長に罵倒され、お前がその子の家へ行って教材を売ってこいと命令されます。

初めての営業、しかも家にいたのは(想定していた)母親ではなく父親で、僕はなすすべもなく会社へ戻ってきます。バイトの太田くんがトイレへ行くのに、つられるように便意を覚えた僕が、5階にある男子トイレへ向かった時のことです。
・・・・・・・・・・
(流水して一息つき)、ウェットティッシュで手を拭いた後、コンビニで買ったレタスサンドを食べ始めます。食べている間に、一人出て行ったのが分ります。携帯でいつものサイトへ接続し、自社への破壊活動を始めます。

(何のことかと言えば、僕は会社を辞めたある人物に唆されて、密かに「電信教育センター」の内情をバラすような記事をネットに投稿しています)- すると残る一人の隣人も流水して出て行き、トイレ内はようやく僕一人になります。

巾着袋から取り出したダッチワイフを膨らまし準備を整え、携帯でアダルト動画を再生。ド派手にヤり始めます。勤務時間中に風船女のシリコン製ホールを一突きする度、悪徳教材販売会社に泥を塗るようで、僕は異様な興奮に襲われます。誰もいないことをいいことに、動画の音量を一目盛上げます。

絶頂の到来を予感した僕はダッチワイフの身体を壁のあちこちにぶつけまくりながら激しく腰を振り、射精するとそのまま乱暴にドアへ寄りかかった。合板や金属部品の軋む大きな音が響いたが、外には聴こえていないだろう。

精液やローションで濡れた箇所をトイレットペーパーで拭きとり、ダッチワイフの空気を抜くと巾着袋へしまいます。身支度を整え個室の外に出て・・・、そして凍りつきます。

この話のオチは本編で確認いただくとして、「ダッチワイフの身体を壁のあちこちにぶつけまくりながら・・・」というところで、私は思わず声を上げて笑ってしまいました。

「よー書くわぁ・・ 」だし、「よーやるわぁ、ほんま」です。しかし、覚えがないかと問われれば、そうではありません。ダッチワイフこそないものの、勤務中そっと席を離れてトイレへ行き、タバコを吸って何食わぬ顔をしていたことなら何度でもあります。顧客からのややこしい電話を適当にやり過ごし、無かったようにしたこともあります。

言われてみれば確かに、拘束された時間の中で唯一気が抜けるのはトイレの個室くらいなのかも知れません。仕事ができる人もそうではない人も、便座に座り、諦めに似た長いため息の一つや二つは、吐いた覚えがきっとあるはずです。

この本を読んでみてください係数 80/100


◆羽田 圭介
1985年東京都生まれ。
明治大学商学部卒業。

作品 「黒冷水」「盗まれた顔」「ミート・ザ・ビート」「不思議の国の男子」「走ル」「スクラップ・アンド・ビルド」「メタモルフォシス」他

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