『セイジ』(辻内智貴)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/04/16 『セイジ』(辻内智貴), 作家別(た行), 書評(さ行), 辻内智貴

『セイジ』 辻内 智貴 筑摩書房 2002年2月20日初版

『セイジ』 が刊行されたとき、辻内智貴は43歳。デザイン学校を出た後はミュージシャンとして活動し、小説も書く芸術家肌の人物です。『セイジ』 を映画で観たという人もたくさんおられることでしょう。ベストセラーになり、太宰治賞の候補にも選ばれたこの作品は後に映画化されています。

この人の小説には他にも映画化されたものがいくつかあり、それは彼の小説が映画を創る人達にとっても如何に魅力的で刺激的な原作であるかということでしょう。

大学最後の夏休み。主人公は自転車で気ままな旅に出ます。その道中、今は行き交う車も少なくなった寂れた国道475号線に佇むドライブイン “HOUSE 475” でセイジという今まで出会ったことがない人物に出会うところから物語は始まります。

ふとしたことから主人公はこの店にしばらく居候することになるのですが、前半はそこでのセイジを囲む地元の常連客とのやりとりが描写されていきます。その過程で、徐々にセイジの人物像が浮き彫りになっていきます。

後半の『セイジ』は、奇蹟の物語です。ある一家が狂った暴漢に襲われ、持っていた斧で父親は胸を抉られ、母親は首を刎ねられて亡くなります。一人残った幼い少女は左手首を切断されて、傷は癒えても心は元には戻らない状態のまま祖父の家で療養しています。

この少女とセイジのあいだに奇蹟が起こります。この物語が実際にあった出来事をモチーフにしたものなのか、全て作者の創作なのかはわかりません。問題は、少女に対しセイジがとった行動でした。その行動は迫真のクライマックスに相応しい、しかし誰もが予期せぬ行動でした。現実にはまず起こり得ない “神憑り” 的な衝撃に、みなさんは如何なる感想を抱かれるでしょう。ぜひにも聞かせてほしいものです。

◆この本を読んでみてください係数  90/100


◆辻内 智貴

1956年福岡県飯塚市生まれ。

東京デザイナー学院商業グラフィック科卒業。

ソロシンガーとして3年間ビクターに在籍。後にライブハウスなどでバンド活動を行う。

作品 「青空のルーレット」「いつでも夢を」「信さん」「ラストシネマ」「帰郷」「僕はただ青空の下で人生の話をしたいだけ」

関連記事

『痺れる』(沼田まほかる)_書評という名の読書感想文

『痺れる』沼田 まほかる 光文社文庫 2012年8月20日第一刷 12年前、敬愛していた姑(は

記事を読む

『幸せになる百通りの方法』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『幸せになる百通りの方法』荻原 浩 文春文庫 2014年8月10日第一刷 荻原浩の十八番、現代社

記事を読む

『十九歳のジェイコブ』(中上健次)_書評という名の読書感想文

『十九歳のジェイコブ』中上 健次 角川文庫 2006年2月25日改版初版発行 中上健次という作家

記事を読む

『地獄行きでもかまわない』(大石圭)_書評という名の読書感想文

『地獄行きでもかまわない』大石 圭 光文社文庫 2016年1月20日初版 冴えない大学生の南里

記事を読む

『夜蜘蛛』(田中慎弥)_書評という名の読書感想文

『夜蜘蛛』田中 慎弥 文春文庫 2015年4月15日第一刷 芥川賞を受賞した『共喰い』に続く作品

記事を読む

『空海』(高村薫)_書評という名の読書感想文

『空海』高村 薫 新潮社 2015年9月30日発行 空海は二人いた - そうとでも考えなければ

記事を読む

『雨の中の涙のように』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文

『雨の中の涙のように』遠田 潤子 光文社文庫 2023年8月20日初版第1刷発行

記事を読む

『青空と逃げる』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『青空と逃げる』辻村 深月 中公文庫 2021年7月25日初版 深夜、夫が交通事故

記事を読む

『君は永遠にそいつらより若い』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『君は永遠にそいつらより若い』津村 記久子 筑摩書房 2005年11月10日初版 この小説は、津

記事を読む

『JR品川駅高輪口』(柳美里)_書評という名の読書感想文

『JR品川駅高輪口』柳 美里 河出文庫 2021年2月20日新装版初版 誰か私に、

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

『羊は安らかに草を食み』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『羊は安らかに草を食み』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2024年3月2

『逆転美人』(藤崎翔)_書評という名の読書感想文

『逆転美人』藤崎 翔 双葉文庫 2024年2月13日第15刷 発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑