『異類婚姻譚』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文

『異類婚姻譚』本谷 有希子 講談社 2016年1月20日初版


異類婚姻譚

 

子供もなく職にも就かず、安楽な結婚生活を送る専業主婦の私は、ある日、自分の顔が夫の顔とそっくりになっていることに気付く。「俺は家では何も考えたくない男だ。」と宣言する夫は大量の揚げものづくりに熱中し、いつの間にか夫婦の輪郭が混じりあって・・・・。「夫婦」という形式への違和を軽妙洒脱に描いた表題作ほか、自由奔放な想像で日常を異化する、三島賞&大江賞作家の2年半ぶりの最新作! (「BOOK」データベースより)

第154回芥川賞受賞作。

もうひとつの受賞作、滝口悠生の『死んでいない者』もそうなのですが、今回はことのほか(一般読者の)評価にバラつきがあります。大変よかった、ためになったという人が半分。あとの半分は、全然よくなかった、何が言いたいのかわからないという人です。

よくなかったという人の中には、(どうせ選ばれるなら)この作品ではなく『ぬるい毒』こそ受賞に相応しいもので、それに比べれば今回の『異類婚姻譚』はありきたりで、凡作と言うほかない、であるとか云々 - 。

「昔話(または説話)を読んでいるような感じ」というのもあります。夫の顔だけでなく、気付くと自分(=語り手である妻のサンちゃん)の顔までが変形している - 各々のパーツが元の位置から微妙にズレている - のに慌てふためく様子などは、今ある世界のことではなく、夢か幻のような、別の世界のことのようにも感じられます。

しかし、それを言うと切りがありません。この小説のそもそもが、ある日夫の顔が変幻自在に形を変えるのに気付いた妻が、どうしたことかと考えあぐねる内に、それまでは全く異なった顔立ちの夫婦2人が、まるで似たような顔になってしまうという話なのですから。

もしもそれが(冒頭の解説にある)「自由奔放な想像で日常を異化する」ことの端緒だとしたら、読者たるわれわれも、まずもってその「異化」された日常とやらに自らを「同化」させなければなりません。実際にそれと似た感覚を肯定できるかどうかが肝要です。

いずれにしても、夫婦なればこその問題です。相応の年月連れ添った者同士だからこその話で、未成年に毛が生えた程度の若者や、未婚の独り者には分かり様のない出来事だろうと思います。

顔かたちより先に、まず似るのが性向(性格ではありません)です。これはある意味当然で、隠しようのない本音を晒して暮らしているからこその妥協(や謙譲)が累積されて、いつしかそれが、(2人にとっては)そうあるべき確かなものへと変化を遂げます。

そうとなれば、それが顔立ちにまで及んだとしても、何ら不思議ではないように思えます。小説ほど極端ではないにせよ、年を経るに従って、互いの面相がどこかしら相手に似てくるようなことが、(近い将来)私ら夫婦にだって起こるかも知れません。

読みはじめた当初は、夫婦となった2人が、夫婦関係を続ける内にいつの間にやら、気付けば2人きりの(都合のいい)時には似たような顔になり、他人の前ではまた元通り(互いが知っている本来)の顔に戻るという、夫婦の不思議を描いているように思えます。

しかし、そうではないのです。赤の他人同士だった男女が夫婦になって、顔までがそっくりになるに及んで - それでも尚2人の間には相容れない領域があり、

十二分に相手のことをわかっていると思ってはいても、実はそれは単なる思い込みに過ぎず、「自分が思うばかり」の相手の在りようなだけで、全部がわかっているわけではありませんよという話。それを言うが為の「変身譚」であるように思えます。

 

この本を読んでみてください係数  85/100


異類婚姻譚

 

◆本谷 有希子
1979年石川県生まれ。
石川県立金沢錦丘高等学校卒業。ENBUゼミナール演劇科に入学。

作品 「嵐のピクニック」「自分を好きになる方法」「グ、ア、ム」「江利子と絶対」「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」「ぬるい毒」「生きてるだけで、愛。」他

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