『七緒のために』(島本理生)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/13 『七緒のために』(島本理生), 作家別(さ行), 島本理生, 書評(な行)

『七緒のために』島本 理生 講談社文庫 2016年4月15日第一刷

転校した中学で、クラスメイトとは距離をおく多感な少女・七緒と出会った雪子。両親の離婚危機に不安を抱える雪子は、奔放な七緒の言動に振りまわされつつ、そこに居場所を見つけていた。恋よりも特別で濃密な友情が、人生のすべてを染めていた「あの頃」を描く、清冽な救いの物語。他に「水の花火」収録。(講談社文庫解説より)

「小説」を書き出したのが小学生の頃で、15歳で『鳩よ! 』掌編小説コンクールに当選し、年間MVPを受賞。18歳で群像新人文学賞を受賞し、『リトル・バイ・リトル』が芥川賞候補になり、併せて野間文芸新人賞を受賞したのが20歳と言うではないですか!?

まさに、早熟。才気煥発を絵に描いたような、島本理生という作家はちょうどこの物語の主人公・雪子のように、聡明で多感な少女であったに違いありません。

幼い頃の島本理生と雪子 - おそらく2人の少女には、他の同級生たちには見えないものが見えていたのだと思います。ほとんどのクラスメイトにとってその頃はまだ無縁の、(たとえ感じていたとしても)言葉にならない思いを、自在に語ることができたのでしょう。

雪子がそうなら、雪子が知り合った一人のクラスメイト、七緒もまたその年齢には相応しくないほどに多感な少女です。但し、七緒のそれは目立って歪であるような、相手が言うのを見越した上でわざと先手を打つようなところがあります。

七緒は、時に予測のつかない言動をします。出会った当初は翻弄されてばかりいる雪子ですが、それでもその内に心を通わせていきます。やがて2人でいるのがあたり前のようになるのですが、一方で、七緒が明らかにクラスから浮いていることにも気付かされます。

何より七緒は嘘をつきます - 雑誌の読者モデルをしている。小説家である大人の女性と文通しており、とても親しくしている。声をかけられた男性とキスをした - まるで選ばれてそこにいる人ででもあるかのような、見え透いたでたらめを並べ立てます。

そのせいで嘘つきと笑われ、クラスの誰にも相手にされない七緒に対して、雪子は雪子で十分憤ってはいるのですが、それでも突き放すことができません。2人は、ややこしくてやっかいな関係 - まるで「恋愛中」のカップルのようにも思えます。
・・・・・・・・・・
雪子と七緒には、ある共通した「事情」があります。自分ではどうすることもできない大人(親)との関係において、他人(ひと)には言えない思いがあって身動きが取れないでいます。

互いの事情はわかっているのですが、それ故かえって関係はもつれ、疎遠になり、やがて関係そのものが壊れてしまうまでになります。あれほど寄り添っていたのに、まるで恋人同士みたいに付き合っていたはずなのに、最後になって雪子はこんなことを言います。

どうでもよかったのだ。自分さえ守れれば。他人も、七緒のことさえも。幼い笑顔もわざとらしい振る舞いも綺麗すぎる少女小説もむしろ好みじゃなかった。一番大きな嘘をついていたのは私だった。(本文より)

何より危ういのは14歳という年齢で、14歳であるからこその純粋さは、時に自分にしか思いが至らず他者を傷つけ、傷つけたことにも気付かずにいます。気付けば気付いたで死ぬほどの呵責に苦しみ、身の置き場を失くしてしまうような痛みを被ることになります。

その痛みはその年齢でしかわかりようがなく、彼女たちが救いを求める先にいるのは、間違っても「大人」ではありません。心を開こうとすれば、おそらくは彼女ら自身の手で始末をつけるしか、他に方法などありはしないのです。

この本を読んでみてください係数 80/100


◆島本 理生
1983年東京都板橋区生まれ。
立教大学文学部中退。

作品 「シルエット」「リトル・バイ・リトル」「Red」「生まれる森」「ナラタージュ」「君が降る日」「アンダスタンド・メイビー」「よだかの片想い」「夏の裁断」など

関連記事

『この年齢(とし)だった! 』(酒井順子)_書評という名の読書感想文

『この年齢(とし)だった! 』酒井 順子 集英社文庫 2015年8月25日第一刷 中の一編、夭折

記事を読む

『プラスチックの祈り 上』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『プラスチックの祈り 上』白石 一文 朝日文庫 2022年2月28日第1刷 「これ

記事を読む

『正体』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『正体』染井 為人 光文社文庫 2022年1月20日初版1刷 罪もない一家を惨殺し

記事を読む

『♯拡散忌望』(最東対地)_書評という名の読書感想文

『♯拡散忌望』最東 対地 角川ホラー文庫 2017年6月25日初版 ある高校の生徒達の噂。〈ドロ

記事を読む

『永遠の1/2 』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文

『永遠の1/2 』佐藤 正午 小学館文庫 2016年10月11日初版 失業したとたんにツキがまわっ

記事を読む

『また、同じ夢を見ていた』(住野よる)_書評という名の読書感想文

『また、同じ夢を見ていた』住野 よる 双葉文庫 2018年7月15日第一刷 きっと誰にでも 「やり

記事を読む

『にらみ』(長岡弘樹)_書評という名の読書感想文

『にらみ』長岡 弘樹 光文社文庫 2021年1月20日初版 窃盗の常習犯・保原尚道

記事を読む

『謎の毒親/相談小説』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文

『謎の毒親/相談小説』姫野 カオルコ 新潮文庫 2018年11月1日初版 命の危険はなかった。けれ

記事を読む

『悪い夏』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『悪い夏』染井 為人 角川文庫 2022年1月5日8版発行 クズとワルしか出てこな

記事を読む

『庭』(小山田浩子)_書評という名の読書感想文

『庭』小山田 浩子 新潮文庫 2021年1月1日発行 夫。どじょう。クモ。すぐそば

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『嗤う淑女 二人 』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『嗤う淑女 二人 』中山 七里 実業之日本社文庫 2024年7月20

『闇祓 Yami-Hara』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『闇祓 Yami-Hara』辻村 深月 角川文庫 2024年6月25

『地雷グリコ』(青崎有吾)_書評という名の読書感想文 

『地雷グリコ』青崎 有吾 角川書店 2024年6月20日 8版発行

『アルジャーノンに花束を/新版』(ダニエル・キイス)_書評という名の読書感想文

『アルジャーノンに花束を/新版』ダニエル・キイス 小尾芙佐訳 ハヤカ

『水たまりで息をする』(高瀬隼子)_書評という名の読書感想文

『水たまりで息をする』高瀬 隼子 集英社文庫 2024年5月30日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑