『みんな邪魔』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文
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『みんな邪魔』(真梨幸子), 作家別(ま行), 書評(ま行), 真梨幸子
『みんな邪魔』真梨 幸子 幻冬舎文庫 2011年12月10日初版
少女漫画『青い瞳のジャンヌ』をこよなく愛する〈青い六人会〉。噂話と妄想を楽しむ中年女性たちだったが、あるメンバーの失踪を機に正体を露にし始める。飛び交う嘘、姑息な罠、そして起こった惨殺事件 - 。辛い現実から目を背け、ヒロインを夢見る彼女たち。その熱狂が加速する時、新たな犠牲者が・・・・。殺人鬼より怖い平凡な女たちの暴走ミステリ。(幻冬舎文庫より)
元々の題名を『更年期少女』と言います。
「更年期」のご婦人方をして「少女」とは、まことあっぱれな皮肉っぷりです。現在の『みんな邪魔』も悪くはないのですが、個人的には『更年期少女』の方が断然いいように思います。インパクトがあって、何より嫌味で言っているのがはっきりと分かります。
世の中の中年婦人を全部敵に回して容赦がないふうな様子がとてもいいと思います。対するご婦人方としては当然のことムカつきもするでしょうが、言われたら言われたで、おそらくは薄々そんな自分に気付いてもいるのです。
しかしながら、仮にそうであったとしても - バカにされ、みっともないと罵られたとしてもです。一等こればかりは譲れないのです。それこそが女性というもので、いつまでも少女のようでありたいと願う女心にしてみれば、端から年齢など関係ないのですから。
随分と苦々しい思いでこの本を読んだ女性がたくさんいるのだろうと思います。書いてあるのは概ね40代から50代にかけての女性の[虚像と実像]なわけですが、ではもっと若ければそうではないのかというと、実はたいして変わりはないのです。
自分よりほんの少し若い女性を見かけたとしたら、それが10代同士であろうと20代であろうと同じような按配で、「まだ〇〇歳の△△子ちゃんが羨ましい。私なんかもう死んでもスッピンなんかで出歩けないもん・・・」などと言い合っているのです。
ところが、いかにも自分はもう貴女ほどの若さも魅力もないわと潔く負けを認めるように言い置いて、内心ではまるで逆さなことを思っています。あの程度なら全然大丈夫、あの人になんか絶対負けないわと、言ったこととは反対に勝つ気まんまんなわけです。
それでも若ければまだ慎みというものがあります。言いたいことを言わずにおく遠慮がありますが、段々と年を取るとどうもいけなくなります。思ったことをそのまま口に出し、他人からどう見られようとたいして気にならなくなるのは、どういったわけなのでしょう。
化粧と比例して面の皮は厚くなり、自分が思うほどには上品でも清楚でもなく、どちらかといえば配慮に欠け、空気が読めずに一人浮き足立つような・・・・、往々にして厚かましいだけの「おばさん」になってしまうのは何が元でのことなんでしょう。
「・・・・たぶん、本人たちは真剣なんだと思う。一時は少女を卒業して社会に出て、ある者はキャリアウーマンに、ある者は主婦、そして母親に。でも40を過ぎた頃から、ふと立ち止まる。自分が愛されてないことに気づくんだ。それどころか、邪魔者扱いされていることに気がつく。まあ、更年期障害というのもあるのかもしれないけれど、いずれにしても、自分の立ち位置にたまらない焦燥感と被害妄想を抱く。思春期と同じだね。(後略)」(第二章「エミリーとシルビア」からの抜粋)
さあ、どうでしょう。この小説の中では何件もの殺人事件が起こるような事態になるのですが、そこまでではないにせよ、こんなふうに書かれてしまうと思い当たることがあるという方が大勢おられるのではないでしょうか?
かつて貴女には白馬に跨った王子様が必ずや迎えに来てくれると信じて過ごした少女の頃がきっとあったはずです。その頃の貴女は無垢で、純真で、他人を貶めたり蔑んだりしなかったはずです。人としてそんなことはしてはならないと教わってもいたでしょう。
ところが大人になって気が付けば、まるでそうではない人になっています。思い通りにならないことばかりが重なって、よその暮らしが羨ましく思え、自分と比べて他人の在り様が心底恨めしく思えて来ることがあります。貴女だけではありません。誰だってそんなことはあるのです。
テレビのワイドショーを見て他人の不幸を笑うようにして読んでいると、ひどい目にあうかも知れません。あるとき、ある場面になると「ああ、これって私のことだ」とそれまでのようには笑えなくなる、そんな話です。心して読んでください。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆真梨 幸子
1964年宮崎県生まれ。
多摩芸術学園映画科(現、多摩芸術大学映像演劇学科)卒業。
作品 「孤虫症」「えんじ色心中」「殺人鬼フジコの衝動」「深く深く、砂に埋めて」「女ともだち」「あの女」「人生相談」「お引っ越し」他多数
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