『西の魔女が死んだ』(梨木香歩)_書評という名の読書感想文

『西の魔女が死んだ』梨木 香歩 新潮文庫 2001年8月1日初版


西の魔女が死んだ (新潮文庫)

 

中学に進んでまもなく、どうしても学校へ足が向かなくなった少女・まいは、季節が初夏へと移り変わるひと月あまりを、西の魔女のもとで過ごした。西の魔女ことママのママ、つまり大好きなおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受けるのだが、魔女修行の肝心かなめは、何でも自分で決める、ということだった。喜びも希望も、もちろん幸せも・・・・。その後のまいの物語「渡りの一日」併録。(新潮文庫より)

季節はまさに夏真っ盛り、夏休みになり、8月になりました。私の家と隣り合わせに、すべり台とブランコと雲梯しかない小さな公園があるのですが、さすがにこの暑さのせいで人が来る気配もなく、妙にひっそりとしています。

2階の窓から聞こえるのは蝉の鳴き声ばかりで、通りで交わされる話し声のひとつも聞こえて来ません。田舎の住宅地の中ほどにあって、朝の出勤時を過ぎれば車の行き来もめっきりなくなり、暫しの間、辺りはまるで時間が止まったようにしんとなります。

そう言えば、小学生や中学生だったあの頃、こんな日の午前中には私は何をしていたんだろうと・・・・。小学生の頃なら、午前と午後とに分かれて大概はあるプールの予定に合わせて、プールならプールへ、ない時は仕方がないので宿題をしたりしていたのでしょう。

中学に入ると、部活。それはそれは厳しい先生で、めったに休みがありません。午前中とか午後からとかではなく部活のある日は大抵が終日で、たまに先生の都合かなんかで早く終わろうものなら、もんどり打って(但し勘付かれないようにして)歓喜したものです。

思えばその頃の私といえば如何ばかりか無邪気な、言い方を変えればこれといった考えもなくありのままの毎日を、ただあるようにして過ごしていたのだと思います。学校のことや友人のこと、先生との関係などについては、何ほどの悩みもなかったのです。

この小説の主人公・まいとはまた違うスチュエーションではありますが、私がいっとう孤独を抱えていっそ学校を辞めたいと思ったのは高校1年生の時です。(辞めたいと思っただけではなく、実際に辞めると先生に言いに行きました。しかも二度までも)

今にして思えば辞めずにおいてよかったというものですが、その時はさすがに辛かった。周りに誰一人友だちになりたいと思うほどの奴はおらず、クラスの連中がおしなべて幼く見えて話す気にもならないでいました。

すべては最初に上手く馴染めなかったのが原因なのですが、今更こっちから言い寄るなど死んでもできず、(本当は彼らの方がはるかに高校生らしかったわけですが)心で、「それでもお前ら、高校生かよ」と、一人毒づいていたのでした。

とにもかくにも馴れ合いで(そうとしか思えなかったのです)徒党を組んでいるような様子に我慢がならなかったのです。入学早々まだ名前も知らないでいるような時、朝教室に来たら誰もいません。3階にある教室の窓からふと運動場を見下ろすと、

男女が入り交ざり、輪になってバレーボールのトスのしあいっこをしています。そこにいるのは私のクラスの、私を除いた(その時間までに登校して来た)全部の生徒ではないですか・・・・

その光景を見て(正しく言うと恥ずかしくて見ていられませんでした)、私は一瞬絶望に似た思いに捉われました。そんなにしてまで仲良くしたいか、高校生にまでなってそんなことをしなければ事を始められないのかと、そこにいた奴ら全部を激しく侮蔑したのです。

私の中に何の伏線があってそう思ったのか、上手く説明できないのですが、ただ一点、「そうじゃない。そういうことではないだろうが!! 」という強い疑念だけが残り、いつになっても解消されずに、いっそ別の学校へ行ってしまおうという思いに至ったのです。
・・・・・・・・・・
さて、肝心の本の内容はといいますと - 正直に言うと、話に出てくる「西の魔女」=まいという少女のママのママ、つまりはまいの家とは別に、車で1時間程西へ行った所で暮らしているおばあちゃんを指して「魔女」と呼んでいるのですが、

このおばあちゃん、実際は魔女と呼ぶほどの魔女なんかでは決してありません。昔気質のちょっと頑固なお年寄り - と言った方がしっくりくるやも知れません。魔女がしてみせるほどの奇跡が起こるでなし、まいはまいで、おばあちゃんの言うことをただ素直に聞いているばかりではありません。

まいは、聡明な少女です。中学生になってまだどれほどでもないのに、おそらくは私の高校の頃以上に、自分の置かれた状況を冷静に把握した上で「わたしはもう学校へは行かない。あそこは私に苦痛を与える場でしかないの」ときっぱり言い切ります。

その潔さがいいか悪いかは別に置いて、まいにはそこに至るまでの自覚と覚悟があります。それをもって対峙するのですから、「西の魔女」であるところのおばあちゃんも大抵ではありません。理詰めに言われて、思わず怯んでしまう場面があったりもします。

※ この小説は日本児童文学者協会新人賞、新美南吉児童文学賞、小学館文学賞を受賞しています。ただ私の中には、「ああ、そうなんだ」と思うやや不足な気持ちがなくもありません。

 

この本を読んでみてください係数 75/100


西の魔女が死んだ (新潮文庫)

 

◆梨木 香歩
1959年鹿児島県生まれ。
同志社大学卒業。イギリスへの留学経験あり。

作品「羽生都比売(におつひめ)」「エンジェル エンジェル エンジェル」「裏庭」「からくりからくさ」「家守綺譚」「村田エフェンディ滞士録」「ピスタチオ」他多数

関連記事

『佐渡の三人』(長嶋有)_書評という名の読書感想文

『佐渡の三人』長嶋 有 講談社文庫 2015年12月15日第一刷 佐渡の三人 (講談社文庫)

記事を読む

『農ガール、農ライフ』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『農ガール、農ライフ』垣谷 美雨 祥伝社文庫 2019年5月20日初版 農ガール、農ライフ

記事を読む

『最後の命』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『最後の命』中村 文則 講談社文庫 2010年7月15日第一刷 最後の命 (講談社文庫)

記事を読む

『ニュータウンは黄昏れて』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『ニュータウンは黄昏れて』垣谷 美雨 新潮文庫 2015年7月1日発行 ニュータウンは黄昏れて

記事を読む

『NO LIFE KING ノーライフキング』(いとうせいこう)_書評という名の読書感想文

『NO LIFE KING ノーライフキング』いとう せいこう 新潮社 1988年8月10日発行

記事を読む

『人間に向いてない』(黒澤いづみ)_書評という名の読書感想文

『人間に向いてない』黒澤 いづみ 講談社文庫 2020年5月15日第1刷 人間に向いてない

記事を読む

『ぬるい毒』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文

『ぬるい毒』本谷 有希子 新潮文庫 2014年3月1日発行 ぬるい毒 (新潮文庫) &n

記事を読む

『熱源』(川越宗一)_書評という名の読書感想文

『熱源』川越 宗一 文藝春秋 2020年1月25日第5刷 【第162回 直木賞受賞作】熱源

記事を読む

『連続殺人鬼カエル男ふたたび』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『連続殺人鬼カエル男ふたたび』中山 七里 宝島社文庫 2019年4月18日第1刷 連続殺人鬼

記事を読む

『夏の騎士』(百田尚樹)_書評という名の読書感想文

『夏の騎士』百田 尚樹 新潮社 2019年7月20日発行 夏の騎士 勇気 - それは人

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『ここは、おしまいの地』(こだま)_書評という名の読書感想文

『ここは、おしまいの地』こだま 講談社文庫 2020年6月11日第1

『カウントダウン』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『カウントダウン』真梨 幸子 宝島社文庫 2020年6月18日第1刷

『悪の血』(草凪優)_書評という名の読書感想文

『悪の血』草凪 優 祥伝社文庫 2020年4月20日初版 悪の

『雨の鎮魂歌』(沢村鐵)_書評という名の読書感想文

『雨の鎮魂歌』沢村 鐵 中公文庫 2018年10月25日初版

『メガネと放蕩娘』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『メガネと放蕩娘』山内 マリコ 文春文庫 2020年6月10日第1刷

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑