『きれいなほうと呼ばれたい』(大石圭)_書評という名の読書感想文
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『きれいなほうと呼ばれたい』(大石圭), 作家別(あ行), 大石圭, 書評(か行)
『きれいなほうと呼ばれたい』大石 圭 徳間文庫 2015年6月15日初刷
星野鈴音は十人並以下の容姿。けれど初めて見た瞬間、榊原優一は激しく心を動かされた。見つけた! 彼女はダイヤモンドの原石だ。一流の美容整形外科医である優一の手で磨き上げれば、光り輝くだろう。そして、自分の愛人に・・・・。鈴音の「同僚の亜由美より綺麗になりたい、綺麗なほうと呼ばれたい」という願望につけ込み、雄一は誘惑する。星野さん、美人になりたいと思いませんか? (徳間文庫の書き下ろし)
久々の大失敗をやらかしました。- 最近けっこう「当たり」が続いていたのですが、「タイトル買い」をしているとままこんなこともあります。それにしてもこの人が出す本ときたら、表紙といいタイトルといい、煽るわ、煽るわ・・・・、
見かけ倒しでたいして面白くもないのではと思いつつ、それでもつい買ってしまいます。ひと際目を引く表紙(たいていは若い女性の露わな姿態が載っています)もさることながら、付いたタイトルが如何にも誘い込むような妖しさで、
(おそらく世の男性諸氏は)あらぬ妄想を抱きつつ、読まずにはおくまいと確かに思わせるものがあります。
初めて読んだ『地獄行きでもかまわない』もそうですが、「きれいなほうと呼ばれたい」などというタイトルを見ると、なまじキワモノのエロティック・サスペンスに目が無い人ほどころりと騙されてしまいます。
読むより先に想像して、勝手に興奮しているようなザマなわけです。
ですから、ある意味真面目一辺倒の文芸書などと比べて、読む前の期待値ははるかに高いとも言えます。手に入れた瞬間から、ページを開くまでのわくわく感やまさか他人に勘付かれてはならない背徳の気持ちを隠しつつ、
現実には決してあり得ない、めくるめく世界へと誘われて行く自分を思ってしばし陶然ともなるわけです。そこにある倒錯と官能、如何ばかりか歪んだ愛憎劇を思って・・・・
ところが、この本についてのあらましをごく簡単に紹介すると - 腕が立つ美容整形外科医と自分の容姿やスタイルにまるで自信のない女性が出会い、外科医は貴女はダイヤモンドの原石だ、私の手になれば誰よりも光り輝く美しい女にしてみせると女性を誘惑します。
最初女性はそれと引換えに提示された外科医の愛人になるという条件に躊躇するのですが、今までの惨めな自分を思い返し、世界が違って見えるほどに綺麗にしてみせるという外科医の言葉を信じ、遂にはそれまでの容姿とはまるで異なる絶世の美女へと変貌する、
エゴと異常と狂気を孕んだ変身譚 - そう思い切って読み始めたのですが、残念にも、いっとう期待した「常軌を逸した」ところがまるでありません。それらしい場面があるにはありますが、とてもじゃないが緩すぎて、気持ちが悪くも何ともありません。
およそB級のエロ小説を読まされているような気分になります。エロならエロで、もっとエロい小説が山ほどあります。書くのもどうかと思いますが、外科医の榊原と鈴音の情交シーンなどはあまりに普通すぎて、読んでるこちらがかえって恥ずかしくなるくらいです。
これほどの酷評を書くのは初めてで、何だか大石圭さんには申し訳なくも思うのですが、どうかご容赦ください。だって、本当のことなんですから。
この本を読んでみてください係数 65/100
◆大石 圭
1961年東京都目黒区生まれ。
法政大学文学部卒業。
作品「履き忘れたもう片方の靴」「蜘蛛と蝶」「女が蝶に変るとき」「奴隷契約」「殺意の水音」「甘い鞭」「殺人鬼を飼う女」「地獄行きでもかまわない」「人を殺す、という仕事」他多数
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