『きれいなほうと呼ばれたい』(大石圭)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/12 『きれいなほうと呼ばれたい』(大石圭), 作家別(あ行), 大石圭, 書評(か行)

『きれいなほうと呼ばれたい』大石 圭 徳間文庫 2015年6月15日初刷

星野鈴音は十人並以下の容姿。けれど初めて見た瞬間、榊原優一は激しく心を動かされた。見つけた! 彼女はダイヤモンドの原石だ。一流の美容整形外科医である優一の手で磨き上げれば、光り輝くだろう。そして、自分の愛人に・・・・。鈴音の「同僚の亜由美より綺麗になりたい、綺麗なほうと呼ばれたい」という願望につけ込み、雄一は誘惑する。星野さん、美人になりたいと思いませんか? (徳間文庫の書き下ろし)

久々の大失敗をやらかしました。- 最近けっこう「当たり」が続いていたのですが、「タイトル買い」をしているとままこんなこともあります。それにしてもこの人が出す本ときたら、表紙といいタイトルといい、煽るわ、煽るわ・・・・、

見かけ倒しでたいして面白くもないのではと思いつつ、それでもつい買ってしまいます。ひと際目を引く表紙(たいていは若い女性の露わな姿態が載っています)もさることながら、付いたタイトルが如何にも誘い込むような妖しさで、

(おそらく世の男性諸氏は)あらぬ妄想を抱きつつ、読まずにはおくまいと確かに思わせるものがあります。

初めて読んだ『地獄行きでもかまわない』もそうですが、「きれいなほうと呼ばれたい」などというタイトルを見ると、なまじキワモノのエロティック・サスペンスに目が無い人ほどころりと騙されてしまいます。

読むより先に想像して、勝手に興奮しているようなザマなわけです。

ですから、ある意味真面目一辺倒の文芸書などと比べて、読む前の期待値ははるかに高いとも言えます。手に入れた瞬間から、ページを開くまでのわくわく感やまさか他人に勘付かれてはならない背徳の気持ちを隠しつつ、

現実には決してあり得ない、めくるめく世界へと誘われて行く自分を思ってしばし陶然ともなるわけです。そこにある倒錯と官能、如何ばかりか歪んだ愛憎劇を思って・・・・

ところが、この本についてのあらましをごく簡単に紹介すると - 腕が立つ美容整形外科医と自分の容姿やスタイルにまるで自信のない女性が出会い、外科医は貴女はダイヤモンドの原石だ、私の手になれば誰よりも光り輝く美しい女にしてみせると女性を誘惑します。

最初女性はそれと引換えに提示された外科医の愛人になるという条件に躊躇するのですが、今までの惨めな自分を思い返し、世界が違って見えるほどに綺麗にしてみせるという外科医の言葉を信じ、遂にはそれまでの容姿とはまるで異なる絶世の美女へと変貌する、

エゴと異常と狂気を孕んだ変身譚 - そう思い切って読み始めたのですが、残念にも、いっとう期待した「常軌を逸した」ところがまるでありません。それらしい場面があるにはありますが、とてもじゃないが緩すぎて、気持ちが悪くも何ともありません。

およそB級のエロ小説を読まされているような気分になります。エロならエロで、もっとエロい小説が山ほどあります。書くのもどうかと思いますが、外科医の榊原と鈴音の情交シーンなどはあまりに普通すぎて、読んでるこちらがかえって恥ずかしくなるくらいです。

これほどの酷評を書くのは初めてで、何だか大石圭さんには申し訳なくも思うのですが、どうかご容赦ください。だって、本当のことなんですから。

この本を読んでみてください係数 65/100


◆大石 圭
1961年東京都目黒区生まれ。
法政大学文学部卒業。

作品「履き忘れたもう片方の靴」「蜘蛛と蝶」「女が蝶に変るとき」「奴隷契約」「殺意の水音」「甘い鞭」「殺人鬼を飼う女」「地獄行きでもかまわない」「人を殺す、という仕事」他多数

関連記事

『てらさふ』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『てらさふ』朝倉 かすみ 文春文庫 2016年8月10日第一刷 北海道のある町で運命的に出会っ

記事を読む

『殺人カルテ 臨床心理士・月島繭子』(大石圭)_書評という名の読書感想文

『殺人カルテ 臨床心理士・月島繭子』大石 圭 光文社文庫 2021年8月20日初版1刷

記事を読む

『幸福な遊戯』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『幸福な遊戯』角田 光代 角川文庫 2019年6月20日14版 ハルオと立人と私。

記事を読む

『業苦 忌まわ昔 (弐)』(岩井志麻子)_書評という名の読書感想文

『業苦 忌まわ昔 (弐)』岩井 志麻子 角川ホラー文庫 2020年6月25日初版

記事を読む

『朽ちないサクラ』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『朽ちないサクラ』柚月 裕子 徳間文庫 2019年5月31日第7刷 (物語の冒頭)森

記事を読む

『噛みあわない会話と、ある過去について』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『噛みあわない会話と、ある過去について』辻村 深月 講談社文庫 2021年10月15日第1刷

記事を読む

『乙女の家』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『乙女の家』朝倉 かすみ 新潮文庫 2017年9月1日発行 内縁関係を貫いた曾祖母、族のヘッドの子

記事を読む

『噂の女』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『噂の女』奥田 英朗 新潮文庫 2015年6月1日発行 糸井美幸は、噂の女 - 彼女は手練手

記事を読む

『不時着する流星たち』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『不時着する流星たち』小川 洋子 角川文庫 2019年6月25日初版 私はな

記事を読む

『平場の月』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『平場の月』朝倉 かすみ 光文社 2018年12月20日初版 五十歳の再会 『平

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『ジウⅡ 警視庁特殊急襲部隊 SAT 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ジウⅡ 警視庁特殊急襲部隊 SAT 』誉田 哲也 中公文庫 202

『ジウⅠ 警視庁特殊犯捜査係 SIT 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ジウⅠ 警視庁特殊犯捜査係 SIT 』誉田 哲也 中公文庫 202

『血腐れ』(矢樹純)_書評という名の読書感想文

『血腐れ』矢樹 純 新潮文庫 2024年11月1日 発行 戦慄

『チェレンコフの眠り』(一條次郎)_書評という名の読書感想文

『チェレンコフの眠り』一條 次郎 新潮文庫 2024年11月1日 発

『ハング 〈ジウ〉サーガ5 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『ハング 〈ジウ〉サーガ5 』誉田 哲也 中公文庫 2024年10月

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑