『銃とチョコレート 』(乙一)_書評という名の読書感想文

『銃とチョコレート』 乙一 講談社文庫 2016年7月15日第一刷


銃とチョコレート (講談社文庫)

 

大富豪の家を狙い財宝を盗み続ける大悪党ゴディバと、国民的ヒーローの名探偵ロイズとの対決は世間の注目の的。健気で一途な少年リンツが偶然手に入れた地図は事件解決の鍵か!? リンツは憧れの探偵ロイズと冒険の旅にでる。王道の探偵小説の痛快さと、仕掛けの意外性の面白さを兼ねる傑作、待望の文庫化! (講談社文庫より)

オリジンーヌ氏が大金持ちになったのは戦争のときで、彼はすぐれた弾丸製造器を発明したのでした。機械に鉛を入れると一瞬のうちに何十個もの弾丸が出てきます。やり方は至って簡単。クマのぬいぐみを抱いた女の子でさえ動かすことができます。

弾丸は別の工場に運ばれて火薬や薬莢と組み合わされます。彼の会社で作る弾丸は、安くて、真っ直ぐによく飛び、敵にあたるといい音がしたといいます。

オリジンーヌ氏の所有していた金貨が消えたのは夜中のことでした。物音に気付いて彼が目覚めると、風のせいで窓が開いたり閉じたりしています。彼は不思議に思います。おかしい。寝る前に窓は閉めたはずなのに。オリジンーヌ氏は部屋を見回します。

すると金庫の扉が開いているではないですか。しかも中はからっぽ。彼は大声で使用人を呼びます。豪邸の庭に無数のパトカーがやってきたとき、番犬たちは夢の中 - どうやら何者かに睡眠薬入りのドッグフードを食べさせられたようです。

「金庫の中には、『英雄の金貨』が入っていたはずなんだ! 」
オリジンーヌ氏は顔を青くして警察に説明します。『英雄の金貨』とは、コインマニアなら豪邸を売ってでも手に入れたいと思うほど価値のあるものです。

捜査員たちが金庫の周りを調べます。ほどなくして捜査員のひとりが、机に置かれている赤いカードを発見します。と、誰かが叫びます。
「怪盗ゴディバだ! 本部に連絡を! 」
・・・・・・・・・・
これが「prologue」にある「犯行があった夜のできごと」です。オリジンーヌ氏は、興奮も冷めやらない様子で次のように語ります。

「カードにアルファベットのつづりがあった。【GODIVA】ってね。すぐに警察が持っていったから一瞬しか見られなかったが、たしかそう書いてあった。見まちがいじゃないかって? それはないさ。だってそのあとで、警察が公式に怪盗ゴディバの犯行だって発表したじゃないか。サインのほかになにか書いてなかったか? ふうむ、それは秘密だ。警察に口どめされているんだ」

怪盗ゴディバによる19件目の事件 -『英雄の金貨』盗難事件発生から約1年の後、いよいよリンツ少年の冒険活劇が幕を開けます。ある日のこと、リンツは誰もが憧れる国民的ヒーロー、名探偵ロイズと幸運にも知り合い、憎き怪盗ゴディバが隠し持つ財宝、中でもとりわけ『英雄の金貨』を探し求めて二人で旅に出ることになります。

リンツは、『英雄の金貨』を見つけ出す手がかりになるであろう古ぼけた聖書と、聖書の革表紙の中にあった一枚の紙切れを持っています。聖書というのは、父と二人で市場へ買い物に出かけたとき、胡椒の他に父がついでにと言って買ったものです。

折りたたまれた紙は本と比べるといくらか新しい時代のものに見え、虫くいのような穴が点々と空いています。それはどこかの地図のようでした。

地図の一ヵ所にまるい印があります。男性の横顔を円で囲んだような記号にどこか見覚えがあるのですが、リンツはどこで見たのか思い出すことができません。地図の裏には、風車小屋の絵がペンで描かれています。絵の片隅に文字が記されています。

【神は言われた。「光あれ」こうして光があった】- それはどうやら聖書の一文であるようです。
・・・・・・・・・・
(読者として)乙一が想定したのは小学生の頃の自分 - 漢字のテストができなくて居残りし、脳に欠陥があるんじゃないかと思いつめてうなだれている少年の僕(乙一少年)にむけて書いた本だと言います。道理で、むかしどこかで読んだことがあるような、妙に懐かしい気持ちにもなります。

◎主な登場人物
少年リンツ・・・・・・・11歳の少年。移民の子
怪盗ゴディバ・・・・・・大富豪専門の悪党
探偵ロイズ・・・・・・・国民的ヒーローの名探偵
ディーン&デルーカ・・・リンツの友達
ドゥバイヨル・・・・・・一年上のいじめっ子
デメル・・・・・・・・・リンツの父
メリー・・・・・・・・・リンツの母

 

この本を読んでみてください係数 80/100


銃とチョコレート (講談社文庫)

 

◆乙一
1978年福岡県生まれ。本名は安達寛高。
豊橋技術科学大学工学部卒業。

作品 「失踪 HOLIDAY」「きみにしか聞こえない CALLING YOU」「夏と花火と私の死体」「GOTH リストカット事件」「暗いところで待ち合わせ」「ZOO」他多数

関連記事

『あたしたち、海へ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『あたしたち、海へ』井上 荒野 新潮文庫 2022年6月1日発行 親友同士が引き裂か

記事を読む

『少女』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『少女』湊 かなえ 双葉文庫 2012年2月19日第一刷 少女 (双葉文庫) 親友の自殺を目

記事を読む

『その先の道に消える』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『その先の道に消える』中村 文則 朝日新聞出版 2018年10月30日第一刷 その先の道に消え

記事を読む

『三度目の恋』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『三度目の恋』川上 弘美 中公文庫 2023年9月25日 初版発行 そんなにも、彼が好きなの

記事を読む

『東京零年』(赤川次郎)_書評という名の読書感想文

『東京零年』赤川 次郎 集英社文庫 2018年10月25日第一刷 東京零年 (集英社文庫)

記事を読む

『密やかな結晶 新装版』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『密やかな結晶 新装版』小川 洋子 講談社文庫 2020年12月15日第1刷 密やかな結晶 

記事を読む

『シンドローム』(佐藤哲也)_書評という名の読書感想文

『シンドローム』佐藤 哲也 キノブックス文庫 2019年4月9日初版 シンドローム(キノブッ

記事を読む

『信仰/Faith』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文

『信仰/Faith』村田 沙耶香 文藝春秋 2022年8月10日第3刷発行 なあ、俺

記事を読む

『失はれる物語』(乙一)_書評という名の読書感想文

『失はれる物語』乙一 角川文庫 2006年6月25日初版 失はれる物語 (角川文庫) 目覚め

記事を読む

『絶唱』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『絶唱』湊 かなえ 新潮文庫 2019年7月1日発行 絶唱 (新潮文庫) 悲しみしかな

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『にぎやかな落日』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『にぎやかな落日』朝倉 かすみ 光文社文庫 2023年11月20日

『掲載禁止 撮影現場』 (長江俊和)_書評という名の読書感想文

『掲載禁止 撮影現場』 長江 俊和 新潮文庫 2023年11月1日

『汚れた手をそこで拭かない』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『汚れた手をそこで拭かない』芦沢 央 文春文庫 2023年11月10

『小島』(小山田浩子)_書評という名の読書感想文

『小島』小山田 浩子 新潮文庫 2023年11月1日発行

『あくてえ』(山下紘加)_書評という名の読書感想文

『あくてえ』山下 紘加 河出書房新社 2022年7月30日 初版発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑