『銃とチョコレート 』(乙一)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/12 『銃とチョコレート 』(乙一), 乙一, 作家別(あ行), 書評(さ行)

『銃とチョコレート』 乙一 講談社文庫 2016年7月15日第一刷

大富豪の家を狙い財宝を盗み続ける大悪党ゴディバと、国民的ヒーローの名探偵ロイズとの対決は世間の注目の的。健気で一途な少年リンツが偶然手に入れた地図は事件解決の鍵か!? リンツは憧れの探偵ロイズと冒険の旅にでる。王道の探偵小説の痛快さと、仕掛けの意外性の面白さを兼ねる傑作、待望の文庫化! (講談社文庫より)

オリジンーヌ氏が大金持ちになったのは戦争のときで、彼はすぐれた弾丸製造器を発明したのでした。機械に鉛を入れると一瞬のうちに何十個もの弾丸が出てきます。やり方は至って簡単。クマのぬいぐみを抱いた女の子でさえ動かすことができます。

弾丸は別の工場に運ばれて火薬や薬莢と組み合わされます。彼の会社で作る弾丸は、安くて、真っ直ぐによく飛び、敵にあたるといい音がしたといいます。

オリジンーヌ氏の所有していた金貨が消えたのは夜中のことでした。物音に気付いて彼が目覚めると、風のせいで窓が開いたり閉じたりしています。彼は不思議に思います。おかしい。寝る前に窓は閉めたはずなのに。オリジンーヌ氏は部屋を見回します。

すると金庫の扉が開いているではないですか。しかも中はからっぽ。彼は大声で使用人を呼びます。豪邸の庭に無数のパトカーがやってきたとき、番犬たちは夢の中 - どうやら何者かに睡眠薬入りのドッグフードを食べさせられたようです。

「金庫の中には、『英雄の金貨』が入っていたはずなんだ! 」
オリジンーヌ氏は顔を青くして警察に説明します。『英雄の金貨』とは、コインマニアなら豪邸を売ってでも手に入れたいと思うほど価値のあるものです。

捜査員たちが金庫の周りを調べます。ほどなくして捜査員のひとりが、机に置かれている赤いカードを発見します。と、誰かが叫びます。
「怪盗ゴディバだ! 本部に連絡を! 」
・・・・・・・・・・
これが「prologue」にある「犯行があった夜のできごと」です。オリジンーヌ氏は、興奮も冷めやらない様子で次のように語ります。

「カードにアルファベットのつづりがあった。【GODIVA】ってね。すぐに警察が持っていったから一瞬しか見られなかったが、たしかそう書いてあった。見まちがいじゃないかって? それはないさ。だってそのあとで、警察が公式に怪盗ゴディバの犯行だって発表したじゃないか。サインのほかになにか書いてなかったか? ふうむ、それは秘密だ。警察に口どめされているんだ」

怪盗ゴディバによる19件目の事件 -『英雄の金貨』盗難事件発生から約1年の後、いよいよリンツ少年の冒険活劇が幕を開けます。ある日のこと、リンツは誰もが憧れる国民的ヒーロー、名探偵ロイズと幸運にも知り合い、憎き怪盗ゴディバが隠し持つ財宝、中でもとりわけ『英雄の金貨』を探し求めて二人で旅に出ることになります。

リンツは、『英雄の金貨』を見つけ出す手がかりになるであろう古ぼけた聖書と、聖書の革表紙の中にあった一枚の紙切れを持っています。聖書というのは、父と二人で市場へ買い物に出かけたとき、胡椒の他に父がついでにと言って買ったものです。

折りたたまれた紙は本と比べるといくらか新しい時代のものに見え、虫くいのような穴が点々と空いています。それはどこかの地図のようでした。

地図の一ヵ所にまるい印があります。男性の横顔を円で囲んだような記号にどこか見覚えがあるのですが、リンツはどこで見たのか思い出すことができません。地図の裏には、風車小屋の絵がペンで描かれています。絵の片隅に文字が記されています。

【神は言われた。「光あれ」こうして光があった】- それはどうやら聖書の一文であるようです。
・・・・・・・・・・
(読者として)乙一が想定したのは小学生の頃の自分 - 漢字のテストができなくて居残りし、脳に欠陥があるんじゃないかと思いつめてうなだれている少年の僕(乙一少年)にむけて書いた本だと言います。道理で、むかしどこかで読んだことがあるような、妙に懐かしい気持ちにもなります。

◎主な登場人物
少年リンツ・・・・・・・11歳の少年。移民の子
怪盗ゴディバ・・・・・・大富豪専門の悪党
探偵ロイズ・・・・・・・国民的ヒーローの名探偵
ディーン&デルーカ・・・リンツの友達
ドゥバイヨル・・・・・・一年上のいじめっ子
デメル・・・・・・・・・リンツの父
メリー・・・・・・・・・リンツの母

この本を読んでみてください係数 80/100


◆乙一
1978年福岡県生まれ。本名は安達寛高。
豊橋技術科学大学工学部卒業。

作品 「失踪 HOLIDAY」「きみにしか聞こえない CALLING YOU」「夏と花火と私の死体」「GOTH リストカット事件」「暗いところで待ち合わせ」「ZOO」他多数

関連記事

『ほどけるとける』(大島真寿美)_彼女がまだ何者でもない頃の話

『ほどけるとける』大島 真寿美 角川文庫 2019年12月25日初版 どうにも先が

記事を読む

『サキの忘れ物』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『サキの忘れ物』津村 記久子 新潮社 2020年6月25日発行 見守っている。あな

記事を読む

『犯罪調書』(井上ひさし)_書評という名の読書感想文

『犯罪調書』井上 ひさし 中公文庫 2020年9月25日初版 白い下半身を剥き出し

記事を読む

『静かに、ねぇ、静かに』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文

『静かに、ねぇ、静かに』本谷 有希子 講談社 2018年8月21日第一刷 芥川賞受賞から2年、本谷

記事を読む

『工場』(小山田浩子)_書評という名の読書感想文

『工場』小山田 浩子 新潮文庫 2018年9月1日発行 (帯に) 芥川賞作家の謎めくデビュー作、

記事を読む

『背高泡立草』(古川真人)_草刈りくらいはやりますよ。

『背高泡立草』古川 真人 集英社 2020年1月30日第1刷 草は刈らねばならない

記事を読む

『ザ・ロイヤルファミリー』(早見和真)_書評という名の読書感想文

『ザ・ロイヤルファミリー』早見 和真 新潮文庫 2022年12月1日発行 読めば読

記事を読む

『くちなし』(彩瀬まる)_愛なんて言葉がなければよかったのに。

『くちなし』彩瀬 まる 文春文庫 2020年4月10日第1刷 別れた男の片腕と暮ら

記事を読む

『ふじこさん』(大島真寿美)_書評という名の読書感想文

『ふじこさん』大島 真寿美 講談社文庫 2019年2月15日第1刷 離婚寸前の両親

記事を読む

『死にぞこないの青』(乙一)_書評という名の読書感想文

『死にぞこないの青』乙一 幻冬舎文庫 2001年10月25日初版 飼育係になりたいがために嘘をつい

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑