『風の歌を聴け』(村上春樹)_書評という名の読書感想文(書評その1)

公開日: : 最終更新日:2019/11/01 『風の歌を聴け』(村上春樹), 作家別(ま行), 書評(か行), 村上春樹

『風の歌を聴け』(書評その1)村上 春樹 講談社 1979年7月25日第一刷


風の歌を聴け (講談社文庫)

もう何度読み返したことでしょう。この本を買ったのは、地元の町の駅前にある 「栄文堂」 という小さな本屋でした。35年前のことです。

駅周辺はまだ再開発前で、高い建物はほとんどありません。名の知れた大型スーパーが開店したのも、数年後のことでした。

帰りに「栄文堂」へ立寄るのは高校生の頃からの日課で、大学生になってからもそれは相変わらずの習慣でした。

大学がある京都には大きな書店がいくつもありました。大学の生協にも書店がありました。さすがに栄文堂で買うことは少なくなっていましたが、なけなしの小遣いで買える文庫を探していた高校時代の癖で、びっしり並んだ岩波文庫などを眺めたりしていました。

その頃、ただ安いというだけで 『共産党宣言』 やら 『国家と革命』 などという本を買いました。『共産党宣言』は100円、『国家と革命』 は200円でした。ついでに言うと、角川文庫の 『改訳 方法序説』は140円でした。(笑)

ある日、いつものように時間つぶしのつもりで栄文堂に入り、いつものように漫然と書棚を眺めていたときに、この本が偶然目に入りました。

タイトルが何気にスマートでいいなというのが第一印象で、村上春樹という名前は聞いたことがありませんでした。

初版がその年の7月で、私は8月に入ってすぐに出た第二刷の本を買っています。群像新人文学賞の受賞作であることが帯に書いてあったはずですが、確かな記憶はありません。

「村上春樹」 という名前の字面が整いすぎて、やや興醒め気味であったのをよく覚えています。さほど大きな期待はしていませんでした。

ところがページを開き、読み出すや否や、そんな気持ちが一瞬にして吹っ飛んでしまいました。

ビンゴ!  探していた何かを遂に捕まえた!! そんな気持ちになりました。そのときのことは、35年経った今でも映像としてはっきり私の記憶に残っています。

多くの村上ファンがこの小説について語るとき、冒頭の一行を引合いに出します。村上春樹自身も、その一行が書きたくてこの小説を書いたと言っています。

それは確かに、読み手を惹き込む 「殺し文句」 であり、この小説のはじまりに相応しい一行だと思います。

その意味するところもさることながら、スマートに言い切る文章のリズムに、多くの人は若く新しい知性を感じ取ったのだと思います。それまで出会ったことのない文体に、震えたことでしょう。

最初のページ、冒頭のたった九行ばかりの文章で、自分の探していたものがここにある。私は確かに、そう感じたのでした。

※思い入れが強い作品なので、二部構成です。その2も良かったら読んで下さい。

『風の歌を聴け』(村上春樹)_書評という名の読書感想文(書評その2)

この本を読んでみてください係数 100/100


風の歌を聴け (講談社文庫)

◆村上 春樹

1949年京都府京都市伏見区生まれ。兵庫県西宮市、芦屋市で育つ。

早稲田大学第一文学部演劇科を7年かけて卒業。在学中にジャズ喫茶「ピーター・キャット」を国分寺に開店する。

作品 「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」「TVピープル」「ねじまき鳥クロニクル」「1Q84」「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」「女のいない男たち」他多数

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