『森の家』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『森の家』千早 茜 講談社文庫 2015年12月15日第一刷


森の家 (講談社文庫)

自由のない家族関係を嫌う美里は、一回り年上の恋人と彼の息子が住む家に転がりこむ。お互いに深く干渉しない気ままな生活を楽しむ美里だったが、突然の恋人の失踪でそれは破られた。崩壊寸前の疑似家族は恢復するのか? 血の繋がりを憎むのに、それを諦めきれない三人。次世代を担う女流作家の新家族小説。(講談社文庫)

あとがきには、こんなことが書いてあります。

家族とはなにか。ずっと考えてきたし、これからも考えていくだろう。その問いの答えも変わっていく気がする。
ただ、昔も今も思う。
そこは、正しい場所でなくてもいい。

言わんとするニュアンスは分からぬではないのですが、どこかしら引っかかるものがあり、すっきりしません。

今いる場所(家族)が自分にとって相応しくない(と感じる)から「正しい場所でなくてもいい」というような言い方になるのでしょうが、「家族とはなにか」という問いかけに対する答えになっているかというと、どうもそうは思えないのです。

言いたいことは、本当は「家族」のことではなく、別の何かではないかと。例えば自分自身の生き方であったり、自分が関わる人の人生であったり。ベースにあるのが家族だというのは分かるのですが、家族を語るにはやや事情が特殊に過ぎてリアルではないように感じられます。

そもそも完全無欠な家族などないとするべきでしょうし、家族の形態は時に応じて変化もします。「問いの答えも変わっていく気がする」のは当然なことで、要は「今いる自分に限っての(家族を含む)他者との関係」についてを語ろうとしているのだろうと思うのです。

普通考えるに、誰しもにとって家族とはあらかじめ仕組まれたものであり、抗いたくとも抗えない、それでしかないものであるのだろうと思います。それが正しいか正しくないかを今更に問うても、何がどうなるというのか。そこが釈然としません。

仮にも正しいか正しくないかの境界線があるとしたら、それはどこで引かれるべき線なのでしょう。もし答えが正しくないとした場合、今在る家族と離れ、別の暮らしを手に入れたとして、それですべてはチャラになるとでも言うのでしょうか。

そんなことは金輪際あり得ないことで、千早茜はこの小説で「家族」を描いたつもりでいるのでしょうが、私にしてみれば、奔放なだけの独身女性が思い違いをして家を飛び出し、挙句に途方に暮れているふうにしか感じられないのです。

だってそうでしょう。

頑固で融通の利かない父親、過干渉で口うるさい母親、二十歳を過ぎ十分大人になった今も自由がなく窮屈なばかりに家を飛び出して一人暮らしをする息子や娘がいたとしたら、その元あった家族(家)は正しい場所とは言えず、両親らは何かしら誤謬を犯したことにでもなるというのでしょうか。

そうではないでしょう。家を出たのは、あなたなのですから。この小説でいうなら、美里、美里の恋人の佐藤聡平、聡平に育てられている「まりも」という名の青年もまた、ある意味においては本来あるべき家族の関係を、意図して放棄しています。

放棄しているように見受けられはするのですが、(当たり前すぎて書くのもどうかと思いますが)心の内では何一つ割り切ってなどいないのです。気付いていない、あるいは気付くのが怖いばかりに気付かぬふりをしているのが、よく分かります。

美里も聡平も、まりももそう。三人は、理屈では「家族」であることの理想や「家族とは違う」関係に執着するあまり本心を蔑ろにしてはいますが、そうであるので、尚更に「家族」を欲しているのが分かります。

なら、正直にそう言えばいいのに。如何にも明かされない真実を言うようにして、「そこは、正しい場所でなくてもいい」などと声高に言う必要がどこにあるのでしょうか。

何でもないことを何か特別なことのように書いているだけに思えるのですが、さて皆さんはどうお感じになるのでしょう。こんなことを一々「正しくない」とするなら、世の中に正しい家族などいるはずがないと思うのですが。

 

この本を読んでみてください係数  80/100


森の家 (講談社文庫)

 

◆千早 茜
1979年北海道江別市生まれ。
立命館大学文学部人文総合インスティテュート卒業。

作品 「おとぎのかけら 新釈西洋童話集」「からまる」「桜の首飾り」「あとかた」「魚神」「眠りの庭」「男ともだち」など

関連記事

『この世にたやすい仕事はない』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『この世にたやすい仕事はない』津村 記久子 新潮文庫 2018年12月1日発行 この世にたや

記事を読む

『夢魔去りぬ』(西村賢太)_書評という名の読書感想文

『夢魔去りぬ』西村 賢太 講談社文庫 2018年1月16日第一刷 夢魔去りぬ (講談社文庫)

記事を読む

『さんかく』(千早茜)_なにが “未満” なものか!?

『さんかく』千早 茜 祥伝社 2019年11月10日初版 さんかく 「おいしいね」 を

記事を読む

『ママがやった』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『ママがやった』井上 荒野 文春文庫 2019年1月10日第一刷 ママがやった (文春文

記事を読む

『レディ・ジョーカー』(高村薫)_書評という名の読書感想文

『レディ・ジョーカー』(上・下)高村 薫 毎日新聞社 1997年12月5日発行 レディ・ジョー

記事を読む

『むらさきのスカートの女』(今村夏子)_書評という名の読書感想文

『むらさきのスカートの女』今村 夏子 朝日新聞出版 2019年6月20日第1刷 むらさきのス

記事を読む

『空海』(高村薫)_書評という名の読書感想文

『空海』高村 薫 新潮社 2015年9月30日発行 空海   空海は二人いた

記事を読む

『むかしむかしあるところに、死体がありました。』(青柳碧人)_書評という名の読書感想文

『むかしむかしあるところに、死体がありました。』青柳 碧人 双葉社 2019年6月3日第5刷

記事を読む

『満潮』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『満潮』朝倉 かすみ 光文社文庫 2019年7月20日初版 満潮 (光文社文庫) わた

記事を読む

『ミスター・グッド・ドクターをさがして』(東山彰良)_書評という名の読書感想文

『ミスター・グッド・ドクターをさがして』東山 彰良 幻冬舎文庫 2014年10月10日初版 ミ

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『兄の終い』(村井理子)_書評という名の読書感想文

『兄の終い』村井 理子 CCCメディアハウス 2020年6月11日初

『ドクター・デスの遺産』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『ドクター・デスの遺産』中山 七里 角川文庫 2020年5月15日4

『知らない女が僕の部屋で死んでいた』(草凪優)_書評という名の読書感想文

『知らない女が僕の部屋で死んでいた』草凪 優 実業之日本社文庫 20

『肉弾』(河﨑秋子)_書評という名の読書感想文

『肉弾』河﨑 秋子 角川文庫 2020年6月25日初版 肉弾

『プラナリア』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『プラナリア』山本 文緒 文春文庫 2020年5月25日第10刷

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑