『つまらない住宅地のすべての家』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『つまらない住宅地のすべての家』津村 記久子 双葉文庫 2024年4月13日 第1刷発行

朝日新聞 週刊文春 王様のブランチなど 各メディアで話題となった注目作、ついに文庫化!

とある住宅地に、刑務所を脱獄した女性受刑者がこちらに向かっているというニュースが飛びこんでくる。路地をはさむ10軒の家の住人たちは、用心のため夜間に交代で見張りを始めることに。事件をきっかけに見えてくるそれぞれの家庭の事情と秘密。だが、新たなご近所づき合いは知らず知らず影響を与え、彼らの行動を変えていく。生きづらい世の中に希望を灯す、ささやかな傑作。(双葉文庫)

なかなかに、こんな話を思いつく人はいないだろうと。津村記久子だからこその小説だと思います。普通に暮らす普通の人にも、実はとても普通とは思えないようなことがいろいろあって、それはたとえ隣同士であったとしても気づかない、その家だからこその悩みであったり事情であったりします。

コの字になった住宅地で暮らす10軒の人々は、それまではほとんど干渉らしき干渉がないままに暮らしています。かといって、互いの家の様子や暮らし向きなどについて、関心がないわけではありません。それなりに思うところがありはするのですが、“深入りする“ きっかけがありません。挨拶ついでにする、これといった話題がありません。

とある住宅地の路地。ここに建つ十軒の家に住まう人々によって、物語は編まれている。二人暮らしの老夫婦、母親が彼氏のもとに入り浸って半ば育児放棄されている幼い姉妹、警備員をして生計を立てる一人暮らしの壮年男性、失恋の痛手を抱えて実家に戻り、母と二人で暮らしている三十代男性。戸建てながら両親子供が揃ったいわゆる 「ファミリー層」 は稀、一人暮らしも三軒あるが、これは古い住宅地ならではの景色なのだ。新築の建売や分譲地であれば、似た年代、同じような構成の家族がずらりと並ぶだろう。が、時を経ると、親の介護のために戻ったり、実家を引き継ぐ形で暮らしたり、中古を購入したり借りたりと、世代にも家族構成にもばらつきが出てくる。

その希薄な人間関係が、二つ隣の県の刑務所から女性受刑者が脱獄したというニュースによって、にわかに活気づいていく。活気づく、という表現は語弊があるかもしれないが、逃亡犯がこちらに向かっているという情報を受けて、住人有志が自警を試みていく過程には、そこはかとない高揚感が漂っている。

日置昭子というこの逃亡犯が、凶悪な人物ではなさそうだという安心が担保されているのも、理由のひとつだろう。横領の罪で捕まるも、その額十年間で約一千万円。一年百万円ほどである。しかも横領した金には手を付けず、質素な生活をしていたらしい。(中略) きっとなにか事情があって逃げたのだろうと、犯人を恐れる気持ちよりも興味が先に立つのだ。

昭子の背景が解き明かされる過程が縦軸となって物語を引っ張る一方で、横の軸では、路地の住人たちの、ひとつとして同じではない人生が少しずつ露わになっていく。

彼ら家族はいずれも、万全とは言いがたい。どこかが欠けたり、崩れたりしているように見える。そうしてそれぞれが、自分ではいかんともしがたいものを抱えている。喪失やいらだちや侘しさといった、抜き差しならない感情にも見舞われている。(解説より抜粋)

※読み始めはちょっと戸惑うかもしれません。目次のページを捲ると、小説の舞台となる 「住宅地地図」 があり、10軒並ぶ家それぞれの家族構成 (名前と年齢・年代 関係等) が記されています。ここを何度か、行ったり来たりすることになると思います。

どこの家の誰のことか・・・・・・・がおおよそ頭の中に定着すると、俄然話は面白くなります。そして段々と、著者が何を伝えようとして (この小説を) 書いたのかがわかってきます。念のために言っておきますが、劇的なことは何も起こりません。なのに、きっとあなたは 「奇跡」 を見ます。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆津村 記久子
1978年大阪府大阪市生まれ。
大谷大学文学部国際文化学科卒業。

作品 「まともな家の子供はいない」「君は永遠にそいつらより若い」「ポトスライムの舟」「ミュージック・ブレス・ユー!! 」「とにかくうちに帰ります」「浮幽霊ブラジル」「ディス・イズ・ザ・デイ」他多数

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