『鎮魂』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『鎮魂』染井 為人 双葉文庫 2024年5月18日 初版第1刷発行

半グレ連続殺人事件 抗争か? それとも・・・・・・・ 『悪い夏』 『正体のベストセラー作家が放つ新時代社会派サスペンス

世間を騒がせている半グレ集団 「凶徒聯合」 のメンバーが殺された。警察は暴力団や半グレ同士の抗争と見て捜査をはじめるが、それを嘲笑うかのように次々にメンバーが殺害されていく。疑心暗鬼になっていくメンバーたち。そして、犯人を持ち上げるSNSの住民たち。犯人の正体はいったい・・・・・・・。大ベストセラーになった 『悪い夏』 や、ドラマ化、映画化などで注目を集める 『正体』 の著者が 「都会の闇」 に斬り込む傑作社会派サスペンス。(双葉文庫)

こんな奴らは世の中からいなくなればいい。(したい放題した後でする) 手前勝手な理屈や弁解など聞きたくもない。もしも、理由なく愛する誰かを傷つけられたなら、あなたは黙っていられるでしょうか。大きな声では言えませんが、復讐したい、死ねばいいときっと思うはずです。

半グレ集団 『凶徒聯合』 の主要メンバーのひとり、坂崎が殺された。凶暴凶悪な行動で知られる 『凶徒聯合』 は、別の殺人の件で、カリスマ・リーダーの石神が海外逃亡を続けている。一方、主要メンバーの多くは、表社会でも上手くやっていた。それでもメンバーは石神に支配され、『凶徒聯合』 から離れることができないようだ。

坂崎が殺された事件を追うのが、警視庁組織犯罪対策部特別捜査隊の古賀と、若い同僚の窪塚である。生活安全課時代から、坂崎たちを知っている古賀。『凶徒聯合』 のメンバーなどを当たるが、捜査は進展しない。そんなとき、やはり元メンバーで、ユーチューバーの田中が、配信中に殺され、世論が沸騰するのだった。

『凶徒聯合』 の主要メンバーと、古賀の視点を交互にしながら物語が進行するかと思ったら、いきなり犯人視点のパートが挿入されて驚いた。(中略) 作者は早い段階で、犯人の行動や動機を露わにする。

しかし、それで面白さが損なわれることはない。現在の生活が大切になり、結束が揺らいでいる、主要メンバーたち。『凶徒聯合』 の動きから見えてきた、警察の内通者の存在。窪塚の不可解な態度。犯人の恋人が抱える秘密。『凶徒聯合』 の本を出そうとしている編集者の天野。自分なりの正義感に突き動かされ、“凶徒聯合被害者の会“ を立ち上げた中尾。さまざまな要素と人物が集まり、物語の先が読めない。作者のミスリードも巧みであり、終盤からエピローグにかけての展開に、仰天してしまったのである。

そしてストーリーを通じて、幾つかの重い問いが、読者に投げかけられる。犯人の動機は復讐 だが、これをどう受け止めればいいのか。中尾の 正義は、歪んでいるのではないか。一連の事件から浮かび上がる人々の罪と罰に、戸惑わずにはいられない。だが、そこに作者の狙いがある。善悪が複雑に入り混じった、現代日本の姿が、ここにあるのだ。(細谷正充/「書籍版ブックレビュー:小説推理2022年7月号掲載」 より)

※染井作品にハズレはありません。もしもまだなら、あなたの愛読書にぜひ加えてください。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆染井 為人
1983年千葉県生まれ。

作品 「悪い夏」「正体」「正義の申し子」「震える天秤」「滅茶苦茶」「黒い糸」「海神」 など

関連記事

『天頂より少し下って』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『天頂より少し下って』川上 弘美 小学館文庫 2014年7月13日初版 『天頂より少し下って

記事を読む

『風葬』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『風葬』桜木 紫乃 文春文庫 2016年12月10日第一刷 釧路で書道教室を営む夏紀は、認知症の母

記事を読む

『よだかの片想い』(島本理生)_書評という名の読書感想文

『よだかの片想い』島本 理生 集英社文庫 2021年12月28日第6刷 24歳、理

記事を読む

『月の上の観覧車』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『月の上の観覧車』荻原 浩 新潮文庫 2014年3月1日発行 本書『月の上の観覧車』は著者5作目

記事を読む

『とんこつQ&A』(今村夏子)_書評という名の読書感想文

『とんこつQ&A』今村 夏子 講談社 2022年7月19日第1刷 真っ直ぐだから怖

記事を読む

『また次の春へ』(重松清)_書評という名の読書感想文

『また次の春へ』重松 清 文春文庫 2016年3月10日第一刷 終わりから、始まる。厄災で断ち切

記事を読む

『身の上話』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文

『身の上話』佐藤 正午 光文社文庫 2011年11月10日初版 あなたに知っておいてほしいのは、人

記事を読む

『戸村飯店 青春100連発』(瀬尾まいこ)_書評という名の読書感想文

『戸村飯店 青春100連発』瀬尾 まいこ 文春文庫 2012年1月10日第一刷 大阪の超庶民的

記事を読む

『起終点駅/ターミナル』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『起終点駅/ターミナル』桜木 紫乃 小学館文庫 2015年3月11日初版 今年の秋に映画にな

記事を読む

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日 初版1刷発行 『悪い夏』

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『小説 木の上の軍隊 』(平一紘)_書評という名の読書感想文

『小説 木の上の軍隊 』著 平 一紘 (脚本・監督) 原作 「木の上

『能面検事の死闘』(中山七里)_書評という名の読書感想文 

『能面検事の死闘』中山 七里 光文社文庫 2025年6月20日 初版

『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』(三國万里子)_書評という名の読書感想文

『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』三國 万里子 新潮文庫

『イエスの生涯』(遠藤周作)_書評という名の読書感想文

『イエスの生涯』遠藤 周作 新潮文庫 2022年4月20日 75刷

『なりすまし』(越尾圭)_書評という名の読書感想文

『なりすまし』越尾 圭 ハルキ文庫 2025年5月18日 第1刷発行

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑