『歩いても 歩いても』(是枝裕和)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/12
『歩いても 歩いても』(是枝裕和), 作家別(か行), 是枝裕和, 書評(あ行)
『歩いても 歩いても』是枝 裕和 幻冬舎文庫 2016年4月30日初版
今日は15年前に亡くなった横山家の長男の命日。いい歳をして、現在失業中の次男・良多は、久々の帰郷に気が重い。家長としての威厳にこだわり続ける父、得意料理で皆をもてなすも、未だ息子の死を受け入れられない母、自由きままな姉とその一家。老いた両親の家に久し振りに笑い声が響くが、それぞれが家族には言えない小さな後悔を抱いていた。(幻冬舎文庫)
かつてその家族には絶対的な存在として父がおり、父と寄り添う母がいました。(父の意志を継ぎ)医者になった兄がおり、姉がいて、もう一人の息子、(この物語の主人公である)次男・良多がいました。
この小説は、ありふれた家族の、ある夏の日の物語です。
それは今から7年も前のことで、僕は40歳を超えたばかりだった。確かにもう若くはなかったけれど、人生をマラソンにたとえれば、まだ折り返し点を過ぎてはいない。
そのとき良多は失業中で、(どうしたって負け惜しみにしか聞こえないのですが)ともかくもそう思っています。彼はこの年の春に結婚し、夫になると同時にいきなり小学5年生の男の子の父親になっています。つまり、結婚相手の女性が子連れの再婚だったわけです。
相手の名前はゆかり、男の子はあつしと言います。別に珍しいことじゃない。「普通」だ - 良多はそう思い、姉からは「上出来よ。あんたにはもったいない」とからかわれ、まんざらでもありません。彼は、姉には小さい頃からいつも子供扱いされていたのです。
良多の結婚について、父は何も言いません。もっとも父はそれ以外のことも、良多についてはほとんど何も言わないでいます。おそらく興味が無かったのだろう、と良多は思っています。ある時期から父の関心は兄だけになり、たぶんそれは今も変わらないのだろうと。
母は、相手がどんな女性かというよりも、ともかく結婚したという事実に肩の荷を降ろしたように見えます。もっとも、本心では、どうやらこの結婚に納得してはいなかったようなのですが。
父も母も70歳を超えてはいたのですが、まだその頃は健在で、いつか彼らは先に逝くのだということはもちろん承知していたのですが、それはあくまで「いつか」であって、具体的に自分が父や母を失う状況など想像出来てはいなかったのです。
不慮の事故で亡くなった兄の命日に久しぶりに実家を訪れた日、何か決定的な事件が起きたわけではないのですが、しかし水面下ではもういろいろなことが始まっていて、実は良多はそのことに気付いてなくはなかったのです。
老夫婦だけが暮らす実家はいつ知れず古びたものになり、あちらこちらに傷みが目立つようになっています。姉はそれを建替えさせ、二世帯で暮らそうと画策しているようなのですが、思うほどに事は運ばず、どうやら母が乗る気ではないらしい。
母は良多にこそ期待しているようなのですが、良多は良多で、まるでその気がありません。いずれ時が来れば関わらざるを得ないと分かりつつ、あやふやな態度で、あくまで気付かぬ振りを通します。
そして、やがてはっきりと気付いた時には、彼の人生は随分先までページが捲られていて、どうすることも出来なくなっています。なぜなら、その時父と母は、もう亡くなってしまっていたのですから・・・・
あれからかなり長い歳月が流れたような気がするけれど、と良多は思います。あの時こうしていればとか、今ならもっとこうしてやれたのにとか -
未だにそんな感傷に襲われることがしばしばあり、その感情は消え去ることなく、時間とともに淀み、むしろ流れを遮ってさえしまう。失うことの多かった日々の中で、彼が得たものがひとつだけあるとしたら、人生はいつもちょっとだけ間に合わない - 。そんな諦めにも似た教訓かも知れない - 良多はそのとき、そう思い返しています。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆是枝 裕和
1962年東京都生まれ。
早稲田大学卒業後、テレビマンユニオンに参加。初監督作品は「幻の光」。「誰も知らない」で第57回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞、「歩いても 歩いても」で第51回ブルーリボン賞監督賞、「そして父になる」で第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門審査員賞、「海街 diary」で第39回日本アカデミー賞最優秀作品賞など多数の賞を受賞。
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