『甘いお菓子は食べません』(田中兆子)_書評という名の読書感想文

『甘いお菓子は食べません』田中 兆子 新潮文庫 2016年10月1日発行

頼む・・・・僕はもうセックスしたくないんだ。仲の良い夫から突然告げられた妻の動揺。〈土下座婚活〉が功を奏して知り合った男性に、会って3時間でプロポーズされた女の迷い。念入りに掃除をし、息子に手作りのおやつを欠かさない主婦が抱える秘密。諦めきれない悟れない、けれど若さはもう去った。中途半端な〈40代〉をもがきながら生きる、私たちの物語。心に深く刻み込まれる6編。(新潮文庫)

あたり!! 大当たり。
いいですねえ - 。何がいいといって、素のままなのがとてもいい。吹っ切れていて、さあどうよ、という感じがして清々しくもあります。

笑えるのですが、ホントはちょっと切なくもなります。男女にかかわらず、40代とはいかばかりか半端な年齢で、まさか若いとは言えないまでも実は心のどこかで「まだまだイケる」- みたいな気持ちが、ありはしないでしょうか?

■ 結婚について私たちが語ること、語らないこと
41歳にして生まれて初めてプロポーズされた女性がいます。名前をベシ子さんと言います。本当は「可子」と書いて「よしこ」と読みますが、「然る可し」の可(べし)なので皆からは「ベシ子」と呼ばれています。

ベシ子さんは、老舗ゴルフ倶楽部で正社員のキャディーとして働いています。高校の新卒で入った25歳ののんちゃんと中途入社の34歳のあやっぴとは飲み友達で、ある日のんちゃんとあやっぴは、ベシ子さんから思いもかけない結婚話を打ち明けられます。

■ 花車
宗太郎は元来気の優しい男性で、何より心から妻の武子を愛しています。売れっ子のビーズ作家である妻の仕事にも理解を示し、子供に対して母らしくあれとか、妻らしくしろなどということは一切口にしません。二人は仲のいい夫婦なのです。

ある夜、(実は昼間にそうした気分になる出来事があるのですが)武子は久方ぶりに宗太郎とセックスしたくなります。当然のこと応じると思いきや、半ば観念したように宗太郎は「悪いとは思うけれど、『おつとめ』は引退したい」と言い出すのでした。

■ 母にならなくてもいい
主人公の名前は、香穂。47歳、バツイチ。彼女は広告代理店の営業部長としてバリバリ働いています。離婚した後の彼女は、現在4匹の猫と一緒にマンション暮らしをしています。会社では有能な管理職、プライベートでは何かと父親の世話を焼いています。74歳の母がクモ膜下出血で急死してからというもの、独り暮らしの父親は随分と気弱になっています。

彼女には、人に言えないある秘密があります。(セックス相手の)紹介所を通じて知り合ったS氏という男性がおり、互いに割り切った上で、時折会って関係を持っています。

■ 残欠 ※ 残欠とは、書物や骨董品など、モノの一部分が欠けたものをいいます。
ここではS氏の正体が明らかになります。「母にならなくてもいい」ではIT企業に勤める39歳のいい男としか分からないですが、名前を「國生」といい、既婚者であることが分かります。彼には中学2年生の息子がおり、アルコール依存症の後遺症に苦しむ妻がいます。

この物語の詳細については、ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏(劇作家・音楽家)の解説を読んでもらいたいと思います。岸田國士をはじめ、加藤和彦や今野雄二といった名前が登場し、大変為になる解説だと思うからです。

■ 熊沢亜理紗、公園でへらべったくなってみました
熊沢亜理紗、49歳。女性用ウィッグを製造販売する小さな会社の営業職をリストラされて無職、独身、ひとり暮らし。結婚歴なし、両親は既に亡くなり、きょうだい無し、彼氏なし、ペット無し、持ち家なし、貯金ほんの少し。ある意味最悪、ある意味最強。あははー。

笑うしかないので、仕方がないので公園へ行き、へらべったくなって寝転んでみたのです。

■ べしみ
私の股間に、男の顔があった。女性器があるべきところに、奇妙なおっさんの小さな顔がくっついている・・・・

べしみとは、鬼神を写した能面のことをいいます。漢字で書くと「癋見」。口をぐっと閉じている「圧し口(へしぐち)」が由来だそうです。これはセックスの話ではありません。女性が語る、女性自身の性欲についての話です。

いずれの話も、主人公はすべて40代の女性。彼女らの、婚約者、夫、セックスフレンド、ゆきずりの相手ら、それぞれの男たちとの関係を描いた物語です。中途半端な年齢故の戸惑いや動揺、そして苦しまぎれの少々の居直り。男の私にも、実によくわかる話なのです。

この本を読んでみてください係数 85/100


◆田中 兆子
1964年富山県生まれ。8年間のOL生活ののち、専業主婦に。2011年「べしみ」で女による女のためのR-18文学賞大賞を受賞。同作を収録した『甘いお菓子は食べません』が初の単行本となる。参加アンソロジーに『果てる』がある。

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