『一心同体だった』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『一心同体だった』山内 マリコ 集英社文庫 2025年4月25日 第1刷

10歳から40歳。女性たちの友情がバトンをつなぐ、シスターフッド文学の最高傑作!

シスターフッドとは 1960年~80年代のアメリカの女性解放運動 (ウーマンリブ) において生まれた言葉。女性同士の連帯や絆を表す言葉で、共通の目的を持つ女性たちの結束を意味します。

体育で誰とペアになるか悩んだ小学校時代。親友への憧れと嫉妬で傷つけ合った中学時代。うちらが最強で最高だった高校時代。女であるが故に、なし崩しに夢を諦めた大学時代。仕事に結婚にコロナに子育てに翻弄される社会人以降の日々・・・・・・・1990年から2020年。10歳から40歳。平成30年史を背景に、それぞれの年代を生きる女性たちの友情をバトンのようにつなぐ、かけがえのない “私たち“ の物語。解説/上野千鶴子 (集英社文庫)

読んだ多くの女性がきっと思うはずです。あの頃、確かに私もそうだったんだと。悩んで悩んで苦しんで、これ以上ないほど落ち込んで、あげく、苦し紛れに誰かを蔑んだりしたことも。

十歳。十四歳。十八歳。二十歳。二十五歳。三十歳。三十四歳。そして、四十歳。“多感“ ではない時などなかったのだと思います。その時々で状況は刻々と変化してはいくものの、「女子」 としての生きづらさは終始つき纏い、消え去ることはありません。

楽しいことはいっぱいあったはずです。この人ならと思える同性にも、何人も出会ったことでしょう。けれど 「友情」 が長続きしなかったのは、お互いの生活環境が著しく変化したからなのかもしれません。二人の中の何かが決定的に食い違い、歩み寄ることさえできなくなったのは何が原因だったのでしょう?

山内マリコさんの 『一心同体だった』 は、十歳から四十歳まで、女性の友情をテーマにした連作短編集である。輪舞 (ロンド) という形式があるように、前作の主題をひきついでゆるやかに物語がつながっていく。前作では脇役だった女性が、次の作品では主役になる。そうやって、いくとおりもの女性の人生の軌跡がくっきり浮かび上がる。そして十歳から始まった物語は、四十歳になったママ友同士の娘たちへとつながっていく。

ж

各話ごとに互いにつながりのある視点人物が入れ替わり、主語が変化し、年齢を重ねるにつれて文体が変わる。女性の群像劇を読んだような読後感に圧倒される。どの登場人物たちもそのへんを歩いている感じのある平凡な女性たちだ。その平凡な女性たちにこれだけの感情や怒りや失望や諦め、そして歓びやしたたかさがあることを知る。その感情の襞に分け入る体験や歓びの大半は、男からではなく、女友だちから来る。(解説より)

※著者の本を久しぶりに読みました。歯切れよくイヤミのない、加えて (不必要な) 遠慮もない彼女の文章は健在で、特に後半、社会人になって以降のそれぞれの主人公が思う心の内や本音を一人呟く場面の描写は圧巻で、他の追随を許しません。これぞ山内マリコ! と、思わず声が出たのでした。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆山内 マリコ
1980年富山県富山市生まれ。
大阪芸術大学映像学科卒業。

作品 「アズミ・ハルコは行方不明」「ここは退屈迎えに来て」「さみしくなったら名前を呼んで」「パリ行ったことないの」「選んだ孤独はよい孤独」「かわいい結婚」他多数

関連記事

『俺たちは神じゃない/麻布中央病院外科』(中山祐次郎)_書評という名の読書感想文

『俺たちは神じゃない/麻布中央病院外科』中山 祐次郎 新潮文庫 2024年11月25日 6刷

記事を読む

『満願』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『満願』米澤 穂信 新潮社 2014年3月20日発行 米澤穂信の『満願』をようやく読みました。な

記事を読む

『アレグリアとは仕事はできない』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『アレグリアとは仕事はできない』津村 記久子 ちくま文庫 2013年6月10日第一刷 万物には魂

記事を読む

『無人島のふたり/120日以上生きなくちゃ日記』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『無人島のふたり/120日以上生きなくちゃ日記』山本 文緒 新潮社 2022年11月30日4刷

記事を読む

『偽りの春/神倉駅前交番 狩野雷太の推理』(降田天)_書評という名の読書感想文

『偽りの春/神倉駅前交番 狩野雷太の推理』降田 天 角川文庫 2021年9月25日初版

記事を読む

『ウエストウイング』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『ウエストウイング』津村 記久子 朝日文庫 2017年8月30日第一刷 女性事務員ネゴロ、塾通いの

記事を読む

『影裏』(沼田真佑)_書評という名の読書感想文

『影裏』沼田 真佑 文藝春秋 2017年7月30日第一刷 北緯39度。会社の出向で移り住んだ岩手の

記事を読む

『王とサーカス』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『王とサーカス』米澤 穂信 創元推理文庫 2018年8月31日初版 2001年、新聞社を辞めたばか

記事を読む

『海の見える理髪店』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『海の見える理髪店』荻原 浩 集英社文庫 2019年5月25日第1刷 第155回直木

記事を読む

『かわいい結婚』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『かわいい結婚』山内 マリコ 講談社文庫 2017年6月15日第一刷 結婚して専業主婦となった29

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『黒猫亭事件』(横溝正史)_書評という名の読書感想文

『黒猫亭事件』横溝 正史 角川文庫 2024年11月15日 3版発行

『一心同体だった』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『一心同体だった』山内 マリコ 集英社文庫 2025年4月25日 第

『夜の道標』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『夜の道標』芦沢 央 中公文庫 2025年4月25日 初版発行

『フクロウ准教授の午睡 (シエスタ)』(伊与原新)_書評という名の読書感想文

『フクロウ准教授の午睡 (シエスタ)』伊与原 新 文春文庫 2025

『長くなった夜を、』(中西智佐乃)_書評という名の読書感想文

『長くなった夜を、』中西 智佐乃 集英社 2025年4月10日 第1

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑