『能面検事の死闘』(中山七里)_書評という名の読書感想文
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『能面検事の死闘』(中山七里), 中山七里, 作家別(な行), 書評(な行)
『能面検事の死闘』中山 七里 光文社文庫 2025年6月20日 初版1刷発行
“どんでん返しの帝王“ が贈る大人気シリーズ第三弾

大阪地検のエース・能面検事 対 連続爆弾犯 〈ロスト・ルサンチマン〉 息を呑む対決の行方は!?
南海電鉄岸和田駅で無差別殺人事件が発生。七名を殺害した笹清政市は、自らを 〈無敵の人〉 と称する。数日後、大阪地検で郵送物の爆発事件が発生。被疑者 〈ロスト・ルサンチマン〉 は笹清の釈放を求める。不破俊太郎一級検事も新たな爆破に巻き込まれ - 連続爆破事件は止められるか? 〈ロスト・ルサンチマン〉 の真の目的は? 大人気検察官シリーズ第三弾! (光文社文庫)
いくつかあるシリーズの中でも特にお勧めの一冊。文庫が出るのをいつも心待ちにしています。今回は主人公がどうにかなってしまうのではないかとハラハラドキドキしましたが、ギリで何とか無事で、しかも近々第四弾が出るらしい。実に頼もしく、楽しみなことです。
物語の舞台は大阪である。
度肝を抜かれる幕開けで、つかみは完璧。平穏な日常を切り裂く震撼の場面。現場は南海電鉄岸和田駅前である。耳をつんざくクラッシュ音、逃げ惑う人々の絶叫と慟哭、そして血の臭い。情け容赦ない惨劇に打ち震える。白昼の悪夢のような無差別大量殺人事件。
これは犯人・笹清政市 (三十二歳) の責任能力の有無を問う、「心神喪失者の行為は、罰しない。」 と定めた 「刑法第三十九条」 の解釈を軸とした物語になるかと思いきや、ことは単純に運ばない。まったく予想だにしない展開が待ち受けていたのだ。笹清は自らを 〈無敵の人〉 と称した。もはや己には失うものなどなにもない。だからどんな犯罪を起こし、いかなる刑罰を受けようが恐れはしない。この考え方も非常にやっかいだ。しかも、ネット上では、そうした人間を生み出した 「社会」 にこそ罪がある、空白の世代ともいえるロスジェネ世代こそが被害者である、といった偏向した意見が渦巻いていく。(以下略/話は第二の事件へと続いていきます)
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主人公は大阪地検一級検事の不破俊太郎。作品の中には、これでもかというほどデンジャラスな仕掛けが組み込まれており、命がけの 「死闘」 の連続。そして終盤にはまさかの絶体絶命のシーンまで用意されており、高鳴る鼓動が抑えきれなくなる。まさにシリーズ最大のピンチが訪れるのである。しかしどんな苛烈な状況下にあっても彼は常にクールだ。第一作から登場している事務官の惣領美晴が感情豊かだけに、不破の尋常ではない落ち着きが際立って見える。(解説より)
目次
一 無辜の人々
二 無敵の者たち
三 無道の罪業
四 無妄の悪夢
五 無法の誓約
※中山作品には概ね 「ハズレ」 がありません。その上出版頻度が高く、長く待たされもしません。こんな作家は滅多にいないだろうと。私は天才だと思っています。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆中山 七里
1961年岐阜県生まれ。
花園大学文学部国文科卒業。
作品 「切り裂きジャックの告白」「七色の毒」「さよならドビュッシー」「闘う君の唄を」「嗤う淑女」「魔女は甦る」「連続殺人鬼カエル男」「護られなかった者たちへ」「人面島」他多数
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