『GIVER/復讐の贈与者』(日野草)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/12 『GIVER/復讐の贈与者』(日野草), 作家別(は行), 日野草, 書評(か行)

『GIVER/復讐の贈与者』日野 草 角川文庫 2016年8月25日初版

雨の降り続く日、訪ねてきた女に俺は仰天する。彼女は数時間前、俺に殺され、浴室で冷たくなっているはずだ - 。過去に負い目を抱えた人々に巧みに迫る、正体不明の復讐代行業者。彼らはある「最終目的」を胸に、恨む人、恨まれる人を予想外の結末に導く。人間の心を丸裸にする、6つの恐るべき復讐計画とは - 。再読必至の新感覚リベンジ・ミステリ! (角川文庫)

これは、ある復讐代行業者の、恐ろしくも切ない軌跡 -『おすすめ文庫王国2017』(本の雑誌社)国内ミステリー部門第1位に輝く、驚きのリベンジ・ミステリ!  とあります。

時間を遡るようにして6つの連作があり、最後になって、最初あった(『00 シークエル』と題された)プロローグが如何なる状況で語られているかがわかる仕掛けになっています。(しかも、かなり驚くような顛末を伴って)

魅力という点で言うなら、(筋書きよりむしろ)全編を通じて登場する 「義波」 という名の青年 - 彼のキャラクターにこそ負うところが大きいように思います。

彼は名前を言うとき、「義務の義に波と書いて、義波(ぎば)」「正義の義に波と書いて、義波」、あるいは「仁義」や「忠義の義に波と書いて義波、といった具合に自己紹介します。

義波 = GIVER(ギバー)贈与者。 復讐を与える者として、恨む人、恨まれる人の前に現れては裁きを行う裏稼業、「復讐代行業者」としての仮の名前で、もとより「義波」は当て字であるわけです。

この青年にはおよそ「感情」というものがありません。普通ある感情を失ったかのような平静さでもって事を成します。

「お金で誰かの恨みを晴らしてやる」とは、まさに現代版「必殺仕事人」。動機はともかくも、彼はことさらスマートに事を運びます。極めて非情に思える反面、彼には、ある特別な事情があります。それがもとで、彼は「義波」の仕事を請け負っています。

細かな説明はしないでおきたいと思います。この手の本については、なるべくなら、何も知らない状態で読んだ方がいい。そう思うからです。

他人が面白いというから必ず面白いのかというと、そんなことはありません。逆に、あまり評判のよくない本を読んで、とても面白いと感じることがあります。ミステリーやホラーといった類いの本は、特にそうなのではないかと思います。

それぞれ、こんなにも感じ方は違うのかと、あとからよく思うことがあるからです。ですから、とにかく読んでみてください。とだけ言っておきましょう。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆日野 草
1977年東京都生まれ。

作品 「ワナビー」「BABEL」「恋愛採集士」「ウェディング・マン」など

関連記事

『舎人の部屋』(花村萬月)_書評という名の読書感想文

『舎人の部屋』花村 萬月 双葉文庫 2018年1月14日第一刷 過食嘔吐を繰り返す小説家志望の自称

記事を読む

『鑑定人 氏家京太郎』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『鑑定人 氏家京太郎』中山 七里 宝島社 2025年2月15日 第1刷発行 私立鑑定センター

記事を読む

『高架線』(滝口悠生)_書評という名の読書感想文

『高架線』滝口 悠生 講談社 2017年9月27日第一刷 そうやって元のところに留まらないで、次々

記事を読む

『笑う山崎』(花村萬月)_書評という名の読書感想文

『笑う山崎』花村 萬月 祥伝社 1994年3月15日第一刷 「山崎は横田の手を握ったまま、無表情に

記事を読む

『けむたい後輩』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『けむたい後輩』柚木 麻子 幻冬舎文庫 2014年12月5日初版 14歳で作家デビューした過去

記事を読む

『きのうの影踏み』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『きのうの影踏み』辻村 深月 角川文庫 2018年8月25日初版 雨が降る帰り道、後輩の女の子と

記事を読む

『青春とは、』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文

『青春とは、』姫野 カオルコ 文春文庫 2023年5月10日第1刷 目の前に蘇る、

記事を読む

『崖の館』(佐々木丸美)_書評という名の読書感想文

『崖の館』佐々木 丸美 創元推理文庫 2006年12月22日初版 哀しい伝説を秘めた百人浜の断崖に

記事を読む

『勁草』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『勁草』黒川 博行 徳間書店 2015年6月30日初版 遺産を目当てに、67歳の女が言葉巧みに老

記事を読む

『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(辺見じゅん)_書評という名の読書感想文

『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』辺見 じゅん 文春文庫 2021年11月5日第23刷

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『我らが少女A (上下)』 (高村薫)_書評という名の読書感想文

『我らが少女A (上下)』高村 薫 毎日文庫 2025年5月10日

『黒猫亭事件』(横溝正史)_書評という名の読書感想文

『黒猫亭事件』横溝 正史 角川文庫 2024年11月15日 3版発行

『一心同体だった』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『一心同体だった』山内 マリコ 集英社文庫 2025年4月25日 第

『夜の道標』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『夜の道標』芦沢 央 中公文庫 2025年4月25日 初版発行

『フクロウ准教授の午睡 (シエスタ)』(伊与原新)_書評という名の読書感想文

『フクロウ准教授の午睡 (シエスタ)』伊与原 新 文春文庫 2025

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑