『僕らのごはんは明日で待ってる』(瀬尾まいこ)_書評という名の読書感想文
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『僕らのごはんは明日で待ってる』(瀬尾まいこ), 作家別(さ行), 書評(は行), 瀬尾まいこ
『僕らのごはんは明日で待ってる』瀬尾 まいこ 幻冬舎文庫 2016年2月25日初版
兄の死以来、人が死ぬ小説ばかりを読んで過ごす亮太。けれど高校最後の体育祭をきっかけに付き合い始めた天真爛漫な小春と過ごすうち、亮太の時間が動き始める。やがて家族となった二人。毎日一緒に美味しいごはんを食べ、幸せな未来を思い描いた矢先、小春の身に異変が。「神様は乗り越えられる試練しか与えない」亮太は小春を励ますが・・・・。(幻冬舎文庫)
兄貴の入院が長くなって繰り返し手術が行われたころ、食欲がなくなった俺に兄貴が言ったことがあった。
「亮太、どんな時だって食べなきゃもったいない。明日、お前のほうが食べられなくなるかもしれないのに」「食べろ、飲め、死は誰にでもくる」兄貴は偉そうに言った。「何それ? 」
「カタルーニャのことわざなんだって」俺は聞いたことがない言葉に首をかしげた。
「スペイン地方の名前」兄貴はそう答えたあとで、「俺って、悲しいだろ」とつぶやいた。「俺、まだ十六歳なんだよ。それに地理にもことわざにも興味なんてない。それなのに、こんなことまで知っている」「俺の知識なんて、テレビ見て本読んで、見ず知らずの人が作ったものから得たものばっかり。本当は何も知らないんだ。もう十六なのに」
優しくて頼りがいのあった兄貴が死んだあと、亮太は人に対して「開く」ことをしなくなります。進んで交わろうとはせず、1年近くの間、人の死ぬ本ばかりを読んでいます。しかし何冊読んでも知りたいことは見つけられず、命の重さを見せつけられるだけで、亮太が本当に知りたいと思うことには出合えずにいます。
そんな亮太の前に現れて「開く」きっかけを与えるのがクラスメイトの小春で、彼女は亮太が一人〈たそがれている〉のもおかまいなしに、ずけずけとものを言います。暗い。亮太をみんなは嫌がっている。残酷な事実を散々言ってから、「あ、ごめん、もしかして傷ついた? 」と、平気な顔で言うようなところがあります。
亮太に反して、小春はことさら明るく振る舞っているように見えます。彼女の背景には何か重大な決意があって、それが為に自分のことを見えない壁で固く覆っているような気配がします。しかし、それは多くは語られないままに話は進んでいきます。
第一章が、「米袋が明日を開く」
第二章が、「水をためれば何かがわかる」
第三章が、「僕が破れるいくつかのこと」
そして最終章が、「僕らのごはんは明日で待ってる」
どれもが意味不明で、何のことが書いてあるか見当がつきません。特に本のタイトルになっている最終章 - 僕らの、ごはんは、明日で(明日で!? )、待ってる・・・・?
何気に読むとおかしな響きに聞こえるのですが、よくよく読むと、なるほどそういうことかというのがわかります。どれもが意味深なフレーズではありますが、読むと案外普通であるのに気付きます。
但し、普通だからといって、それがあなたに真似できるかというと、意外に難しいことに気付かされるのではないかと。できそうで、できない。なれそうで、なかなかにそうはなれない。この小説は、そんな二人の関係を描いてみせてくれています。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆瀬尾 まいこ
1974年大阪府生まれ。
大谷女子大学文学部卒業。本名は瀬尾麻衣子。
作品 「卵の緒」「図書館の神様」「天国はまだ遠く」「優しい音楽」「幸福な食卓」「あと少し、もう少し」「春、戻る」「戸村飯店 青春100連発」など
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