『雨の夜、夜行列車に』(赤川次郎)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/12 『雨の夜、夜行列車に』(赤川次郎), 作家別(あ行), 書評(あ行), 赤川次郎

『雨の夜、夜行列車に』赤川 次郎 角川文庫 2017年1月25日初版

「今夜、九時の列車よ - 」組織の金を盗んで命を狙われている逃走中の宮部は、自宅で彼を待ち続けている妻の亜紀子と、夜行列車で落ち合う約束をしていた。しかしその列車には、宮部を逮捕しようとする刑事たち、地方へ講演に出かける元大臣とその秘書、自殺しそうな元サラリーマンと駆け落ちしようとしている元部下など、各々の幸せを掴むための人たちが、乗り込もうとしていた。彼らを待ち受ける衝撃の結末とは - 。(角川文庫)

何を血迷ったのか(!?)、普段は決して買わない本を買いました。ある朝新聞を開くと角川文庫の新刊を紹介する欄があり、いつもは気にもとめないでいるものがその時はどういうわけか目にとまり、何気に読んでみたいと思ったのだからしょうがない。

最後に読んだのは、おそらく40年近く前のことになります。私にとっては若かりし頃の懐かしい作家で、当時、私よりむしろよく読んでいたのはその頃私が付き合っていた彼女の方、今は私の妻であったように思います。

久しぶりに読んだ感想はといえば - やっぱり、軽い。そして、薄い。コーヒーでいうと、“アメリカン”を飲んでいるような。薄味で重くないので何杯でも飲めてしまうような、そんな感じがします。

よくよく読めば、(登場人物らの)状況はかなりシリアスに思えるのですが、深刻さであるとか、追い詰められた感というのが、(昔読んだときと何も変わらず)まるで希薄であるのを(ある意味)脅威に感じてしまうのは私ばかりのことなのでしょうか。

何を置いても読みたいとは思わない代わりに、あれば(気楽に読めるだけに)つい読んでしまう。読めば読んだですらすら読めて、あっという間に読んでしまえる。

後を引かない。あっけないといえばあっけないのですが、時と場合によってはそれが大いに役立つことがあります。手持ち無沙汰でいるとき、深刻な話などとても読む気にならないときには、もってこいの本なのでしょう。

でなければ - 執筆作品は580冊を超え、著作の累計発行部数が3億3,000万部(いずれも2015年時点)- になんてなろうはずがありません。日本人作家で唯一人、赤川次郎だけが成し得た、これは驚くべき数字なのです。

軽いからといって、決して軽んじてはなりません。読む読まないはあくまでも人の好みで、自分が読まないことを良いことに、読んでいる人を見て、「ああ、あんなものしか読んでないのか」などと、莫迦にするようなことがあってはならないのです。

いつもは忘れているけれど、ある時、それは無性に食べたくなることがあります。一気に一袋も食べると大いに満足し、当分は食べなくてよくなります。しかしまたある人にとっては必要不可欠な食べ物で、手元にないと安心していられない、そんなことであったりします。

決して高価でもなく、一番の贅沢ともいえない。手を伸ばせばそこにあり、誰もが食することができる至極お手ごろなスナック菓子 - 赤川次郎が書くミステリーは、私には、どこかあの“ポテチ”に似ているように思えるのですが、さてどうなんでしょう???

この本を読んでみてください係数 80/100

◆赤川 次郎
1948年福岡県生まれ。
桐朋高等学校卒業。

作品 「幽霊列車」「三毛猫ホームズ」シリーズ、「天使と悪魔」シリーズ、「鼠」シリーズ、「ふたり」「怪談人恋坂」「記念写真」他多数

関連記事

『王とサーカス』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『王とサーカス』米澤 穂信 創元推理文庫 2018年8月31日初版 2001年、新聞社を辞めたばか

記事を読む

『イモータル』(萩耿介)_書評という名の読書感想文

『イモータル』萩 耿介 中公文庫 2014年11月25日初版 インドで消息を絶った兄が残した「智慧

記事を読む

『終わりなき夜に生れつく』(恩田陸)_書評という名の読書感想文

『終わりなき夜に生れつく』恩田 陸 文春文庫 2020年1月10日第1刷 はじめに、

記事を読む

『その愛の程度』(小野寺史宜)_書評という名の読書感想文

『その愛の程度』小野寺 史宜 講談社文庫 2019年9月13日第1刷 職場の親睦会

記事を読む

『少女奇譚/あたしたちは無敵』(朝倉かすみ)_朝倉かすみが描く少女の “リアル”

『少女奇譚/あたしたちは無敵』朝倉 かすみ 角川文庫 2019年10月25日初版

記事を読む

『君のいない町が白く染まる』(安倍雄太郎)_書評という名の読書感想文

『君のいない町が白く染まる』安倍 雄太郎 小学館文庫 2018年2月27日初版 3月23日、僕は高

記事を読む

『グラジオラスの耳』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『グラジオラスの耳』井上 荒野 光文社文庫 2003年1月20日初版 グラジオラスの耳

記事を読む

『間宵の母』(歌野晶午)_書評という名の読書感想文

『間宵の母』歌野 晶午 双葉文庫 2022年9月11日第1刷発行 恐怖のあまり笑い

記事を読む

『あおい』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『あおい』西 加奈子 小学館文庫 2007年6月11日初版 西加奈子のデビュー作です。「あお

記事を読む

『不時着する流星たち』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『不時着する流星たち』小川 洋子 角川文庫 2019年6月25日初版 私はな

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

『羊は安らかに草を食み』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『羊は安らかに草を食み』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2024年3月2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑