『デッドエンドの思い出』(よしもとばなな)_書評という名の読書感想文

『デッドエンドの思い出』よしもと ばなな 文春文庫 2006年7月10日第一刷

以下は、アマゾンの商品説明にある専門家(文芸評論家)の文章です。いつになく丁寧で、かつ的確な解説に思えますので、まずはそれを読んでみてください。

『デッドエンドの思い出』は、出会いのタイミングや状況の流れが人間の関係を規定していくさまを、5つの短編によってリアルに描いた短編集である。

大学の同級生である男女の出会いと別れ、そして再会に、普遍的な人生の営みを重ねた「幽霊の家」。会社を逆恨みする男によって毒を盛られたカレーを社員食堂で食べてしまった女性編集者の心の動きを描いた「おかあさーん! 」。小説家の「私」が子供時代に実家のある街で体験した男の子とのせつなく甘美な時間を回想する「あったかくなんかない」。そして、同じビルに勤める旅の雑誌を編集する男性への5年間の思いを実らせようとする女性の思いをつづった「ともちゃんのしあわせ」など、痛苦に満ち人生の局面にそれぞれのやり方で向かい合う女性主人公の姿が肯定的にとらえられている。

登場人物の多くはネガティブな状況に置かれるが、そうした状況をやみくもに否定せず、ニュートラルにとらえ、「世界」との和解の可能性として提出するよしもとのスタンスは、本作において首尾一貫している。そうした作品集全体の方向性は、よしもと自ら「これまで書いた自分の作品の中で、いちばん好き」(あとがき)と語る、婚約者から別れを切り出された女性が陥ったデッドエンド(袋小路)的状況の中で掴む「最高の幸せ」の瞬間を描いた表題作「デッドエンドの思い出」に集約している。人生への絶対的な肯定に満ちた短編集である。(榎本正樹)

目次の裏のページには「藤子・F・不二雄先生に捧ぐ」とあります。どおりで「あったかくなんかない」という話の中にも「デッドエンドの思い出」にも、のび太くんとドラえもんのはなしが出てきます。しかもちょっとわざとらしいほどの唐突さで。

「デッドエンドの思い出」では主人公のミミちゃん(もう結構な大人の女性です)が、たまたま知り合った好青年の西山君に「ねえ、西山君にとって、幸せってどういう感じなの? 」と訊ね、逆に「ミミちゃんはどうなの? 」と訊き返されたとき、彼女は、

「私は、のび太くんとドラえもんを思い出すな。」と答えます。

「・・・・のび太くんの部屋のふすまの前で、ふたりは漫画を読んでいるの。にこにこしてね。そのあたりには漫画がてきとうにちらばっていて、のび太くんはふたつに折ったざぶとんにうつぶせの体勢でもたれかかって、ひじをついていて、ドラえもんはあぐらをかいて座っていて、そして漫画を読みながらどら焼きを食べているの。

ふたりの関係性とか、そこが日本の中流家庭だっていうこととか、ドラえもんが居候だってことを含めて、幸せってこういうことだな、っていつでも思うの。

その時、ミミちゃんと西山君は晴れてあったかい芝生の上で、おいしいものを食べ、親しく語らい、くつろいでいます。そんな状況をして、ミミちゃんは「うん、だから今、幸せかも。」と返します。
・・・・・・・・・
白状すると、私は5編ある作品のうち先に挙げた「あったかくなんかない」と「デッドエンドの思い出」の2つしか読んでいません。というか、それで十分な気がしてそれ以上は読む気がしなかったのです。

むろん(著者の他の小説で)好きな作品もあるにはありますが、こんなふうに真っ向から無垢で純真な物語を読まされると、大概は途中で投げ出してしまいたくなります。わかるのですが、しかし、そんなことが知りたくて小説など読んではいないのだと。

もっと違う何かを求めて、(さしあたっての理由もないのに)人は本を読んでいるのではないかと。

のび太とドラえもんがダメだというのではありません。たしかにのび太とドラえもんの漫画が大好きで、見ると優しい気持ちになり、この上ない幸福を感じる人の気持ちはわからぬではありません。

しかし、おそらくその人は、本など読まないだろうと。敢えて読まない人に向けて書く小説などというのは、意味があるのだろうかと。

この本を読んでみてください係数 75/100

◆よしもと ばなな
1964年東京都文京区生まれ。本名:吉本真秀子(よしもとまほこ)
日本大学芸術学部文芸学科卒業。父は批評家、詩人の吉本隆明。

作品 「キッチン」「ムーンライト・シャドウ」「うたたか/サンクチュアリ」「TUGUMI」「アムリタ」「不倫と南米」「ハゴロモ」「とかげ」他多数

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