『大好きな人、死んでくれてありがとう』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文

『大好きな人、死んでくれてありがとう』まさき としか 新潮文庫 2026年3月1日 発行

元アイドルが廃ホテルで殺害された イヤミスの神髄を極める驚愕のラスト!

50万部突破あの日、君は何をしたシリーズ著者最新刊

解散した男性アイドルグループの一員、南田蒼太が何者かに殺された。北海道Y市の廃ホテルで、めった刺しの遺体で発見されたのだった。メディアは騒ぎ立て、警察は地道な捜査を開始する。事件当夜に南田と会った同じ職場のパート女性、グループの元メンバーたち、十代で孤児となった南田を引き取った伯母とその娘・・・・・・・。誰もが昏い秘密を抱えるなか、驚愕のラストが待ち受ける傑作ミステリ。(新潮文庫)

まさきとしかさんは私の大好きな作家の一人で、出れば必ず読んでいます。十冊以上になると思うのですが、期待外れだったことは一度もありません。

さて今回は・・・・・・・、どうなんでしょう、読むには読んだのですが正直よくわかりません。薄っすらとではありますが、こうなんじゃないかという “意図“ は理解できるのですが、それが正しく読み手に伝わっているかどうかは疑問です。

(失礼ながら) 手が込み過ぎてというか、策に溺れてというか - “らしさ“ はわかるのですが、何やら作り物めいてうまく感情移入することができません。パートのおばちゃんたちのはっちゃけぶりなどはそこまでやるかというほど極端で、逆に興覚めしてしまいます。その挙句、南田蒼太という青年の 「存在感のなさ」 が意味するところが、結局最後までよくわからないままに物語は幕を閉じます。

『大好きな人、死んでくれてありがとう』 このキャッチーなタイトルに触れたとき、心がざわつきました。誰にとっての 「大好きな人」 なのでしょうか。この言葉を言っている本人にとって大好きな人なのか、その人のそばに居る誰かなのか、それとも世間か。そして 「死んでくれてありがとう」 という、大嫌いな人にもなかなか言わないであろう衝撃的な台詞。このタイトルから想像を膨らませるだけで、人間の様々な感情を覗き見られるようです。

七人組の男性アイドルグループ、ファンキーカラーズ。目標であった武道館でのライブを達成しつつも、その後はパッとせず解散。そんなグループの名前が、十年後に突如として世間を賑わせました。メンバーの一人が亡くなってしまったのです。グループのなかで一番存在感のなかった南田蒼太が、何者かにめった刺しにされ、死んでしまった。そんな元アイドルのセンセーショナルなニュースによって、世の中はざわつきました。目立たない存在だった彼のイメージは悲劇の王様へと一気に変化したのです。

そして、もう一つ変わったことがありました。引退した蒼太と同じ職場で働いていた従業員たち、ファンキーカラーズの元メンバーなどが好き勝手に南田蒼太とのエピソードを他者に話し始めたのです。彼の話をすると、まるで自分自身も彼と同じ 「時の人」 になったような気分を味わえるからでしょう。

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一編ごとに変わる語り手は、どろどろとした心のうちを吐露していきますが、南田蒼太本人の心のうちは、作中で一度も描かれません。何を考えていたのか最後までわからないのです。南田蒼太という人物について、どんなに掘り下げようとしても本当の姿が見えてきません。親しくなった人間が一番欲しい言葉を投げられる彼は、たやすく人の心に入っていけた。大多数に対しても、より良い印象を持たれるように接することができた。そんな生き方だったのは、彼が早くに親を亡くしたからでしょうか。何も出来ない子供の時期に孤独になってしまったことで、他者に好かれないと生きていけず、無意識に人から愛される最適解を選べるようになったのではないかと感じます。

愛されたい、好かれたい、認められたい、そんな欲求が本作の根本になっています。(以下略/解説より)

※結局私の読み方が浅いということでしょうが、今回は 「書き方」 の問題でもあるような気がしなくもありません。だって、これまでこんな中途半端な気持ちで読み終えたことなどなかったのですから。

人として当然あるべき感情を、蒼太はとうに失くしています。そんなものはことごとく捨て去ったかにみえる彼の生きざま、その魂の在り処。そんな人間にならざるを得なかった彼の - 書くなら、生きた軌跡をもっと詳しく書いてほしかった。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆まさき としか
1965年東京都生まれ。北海道札幌市育ち。

作品 「完璧な母親」「いちばん悲しい」「熊金家のひとり娘」「あの日、君は何をした」「祝福の子供」「彼女が最後に見たものは」「あなたが殺したのは誰」「レッドクローバー」「スピーチ」他多数

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