『ブルー ハワイ』(燃え殻)_書評という名の読書感想文

『ブルー ハワイ』燃え殻 新潮文庫 2026年4月1日 発行

特別じゃないあの日の記憶が、いまの僕を支えている

不登校の友がベランダであげた花火 病室の母との最期の時間 いつかの体温がよみがえる51話。

哀しみの中にいる人を支えるのは、特別でもなんでもない、ささやかな記憶の断片なのかもしれない。「とにかく体には気をつけなさい」 と言い続けた母。反抗期の頃に通った駄菓子屋のじいさん。五反田のラブホ街で泣いている僕にセブンスターを差し出した入れ墨の男。情けなくも愛おしい日々のきらめきを掬いあげたエッセイ集。大橋裕之氏のマンガとBE:FIRST=LEO氏が著者に宛てたエッセイも収録。解説・俵万智 (新潮文庫)

エッセイの大半は日常のありふれた、誰にでもあるような出来事なのに、読むと一々立ち止まり、大事な何かに気づかされたような気持ちになるのは著者のエッセイの、どこに秘密があるのでしょう。

燃え殻さんのエッセイを人体にたとえてみるとして、その魅力はレントゲンには写らないし、外見からも説明できない。 - という文章から始まる俵万智さんの解説を読むと、著者のエッセイの魅力がとてもよくわかります。(先の文章に続く) それを紹介しようと思います。

とはいえ、せっかくこういう貴重な場所を与えてもらったので、自分なりにその 「あとを引く感じ」 について考えてみようと思う。

まず、日常のなかに扉はいくつもある・・・・・・・ということを、教えてもらった。燃え殻さんのエッセイは 「何でもないこと+何でもないこと」 であることが多い。そしてその取り合わせが、いつのまにか足し算ではなく掛け算になっている。一つのキーワード (的な存在) が蝶つがいのように、二つの何でもないできごとを結び、最終的に本当にふわっと心の蝶が飛び立つ感じだ。

(ここで例として示されるエッセイが 「ブルーハワイ」 と 「五反田セブンスター」 です。但、内容は割愛します)

そのどれもが日常の中で埋もれてしまいそうな何でもないできごとで、ああ、こんなふうに連想の扉というのは無数にあるのだなあと思わされる。たぶん誰にでも、扉は無数にある。けれどその扉に気づいて二つの場面や世界を繋げることができるのが、燃え殻さんのすごいところなのだ。何でもない日常を、大切に丁寧に生きている人にちがいない、と私は確信する。そうでなければ、こんなに何でもないことと何でもないことのあいだを、自由に行き来できないだろう。

エッセイの中には、かなり非日常的なできごとが描かれているものもあるのだけれど、これはこれで凄い。なぜならそれが、他の日常もの (と仮に名付けよう) と同じテンションで描かれている。(中略) まるで映画か短編小説かという素敵なエッセイなのだが、こんなに起伏のある大ごとを、こんなに低いテンションで書ける (だからこそ共感し、ぐっとくるのだが) って、なんなん? と思う。(以下略)

燃え殻さんの、忍法 「重いできごとを軽く書いて重みを伝える術」 あるいは、忍法 「濃い経験を薄く書いて濃さを伝える術」 とでもいうべき筆致、ほんとうに素晴らしい。

(ここで示されるのは 「『ヌードの夜、竹中直人さんに会った」 というエッセイで、解説中には他に 「喫茶室、東京」 「僕たちには僕たちのルールがあった」 「あなたは勝ち組で、わたしは負け組です」 「鍵をかけ忘れた日記」 についてが挙げられています)

※著者の本を読んだのは、これで五冊目になりました。若い頃によく読んだ原田宗典さんにちょっと似ているような。そんな気がするのは、私だけでしょうか。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆燃え殻
1973年神奈川県生まれ。
テレビ美術制作会社 企画、小説家、エッセイスト。

作品 「ボクたちはみんな大人になれなかった」「すべて忘れてしまうから」「湯布院奇行」「断片的回顧録」「夢に迷ってタクシーを呼んだ」「これはただの夏」「それでも日々はつづくから」など

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