『カナリアは眠れない』(近藤史恵)_書評という名の読書感想文

『カナリアは眠れない』近藤 史恵 祥伝社文庫 1999年7月20日初版


カナリヤは眠れない (ノン・ポシェット)

変わり者の整体師合田力は “身体の声を聞く” 能力に長けている。助手を務める屈託のない美人姉妹も、一皮剥くと何がしかの依存症に罹っていた。新婚七ヵ月目の墨田茜を初めて診たとき、力は底知れぬ暗い影を感じた。彼を驚愕させたその影とは? やがて不安が現実に茜を襲うとき、力は決死の救出作戦に出た! 蔓延する現代病理をミステリアスに描く傑作、誕生。(祥伝社文庫)

整体師〈合田力〉シリーズの中の一冊。様々な〈依存症〉を抱えた女性たちの苦悩と回復を主題にしたシリアスな小説でありながら、重からず、軽すぎず。初めて読んだのですが、癖がないのですらすら読めます。

少々物足りなく感じるかもしれませんが、言うべきことは言い、感じていてもうまく表現できないことが上手に書いてあります。緩いわけではありません。尖ったもの言いが、さりげなく、あいだ間に挟まっています。

十万円のワンピースだなんて、きっと彼は目を丸くするだろう。けれども、正直に話す必要なんてない。五万円、もしくは三万円くらい、と言っておけばいい。どうせ彼には女性の服の値段なんてわからないんだから。

あるいは、このあいだ買ったばかりで気が引けるのなら、タンスに隠しておいて、結婚前から持っていたけど着なかった、というふうに嘘をついたっていいのだ。少し心は痛むけど、これから生活費を切りつめてうまくやりくりすればいい。彼は、カードの明細に目を通したりもしない。

心の中でもう一方のわたしが叫ぶ。
どうして、彼はそんなにわたしを信じているのだろう。

あれほど固く決心し、一度は立ち直ったかに思えた茜は、結婚後、またもやあの〈忌まわしい性癖〉を繰り返すことになります。彼女は、何かに追い立てられてでもいるかのようにして、物を買います。それらはおしなべて高価で、しかも、ほとんどが無用の品々です。

それを茜は誰にも言わず隠し通しています。幸い、夫の真紀夫には十分な収入があります。彼は細かいことには拘らない性格で、それをよいことに、茜は自分がしていることを適当に誤魔化しています。彼女は、夫が作ってくれたカードで好き放題に買い物をしています。

自分を莫迦だと思うのですが、退屈やいらいらにとりつかれると、ふらふらと街に出てしまいます。街には美しいものがたくさんあります。華やかな服や、可愛らしい靴、いい香りの化粧品。

見ているだけで楽しいはずなのに、なぜか、茜はそれを持っていないことが恥ずかしくなります。街を歩く女性は、みんな、わたしよりきれいで、わたしよりお洒落な服を着ていて、わたしより堂々としている。

それが幻覚だなんて、わたしにはどうしても思えない。だのに、どうして夫はわたしを選んだのだろう。

茜は、真紀夫に見初められて結婚しています。真紀夫は理解ある夫で、彼女は何不自由のない暮らしをしています。しかし、それでも彼女は、なぜか言い知れぬ不安を感じています。
・・・・・・・・・
さて、このあと茜は、ひょんなことから「合田接骨院」を訪ねることになります。そこで、まるで商売気はないのですが腕の立つ整体師・合田力と知り合います。合田は、身体があげる「悲鳴」を聞くことができるといいます。

接骨院には、江藤恵(めぐむ)と歩(あゆむ)という美人の姉妹がいます。茜と時を同じくして接骨院にやって来るのが、「オリジナル新社」という関西のローカル雑誌社で働く小松原という若い男性。彼は歩にひとめぼれし、姉の恵とは会ってすぐにホテルへ行きます。

小松原は最初何も知らなかったのですが、実は恵と歩は、人に言えない辛い病気を抱えています。歩は摂食障害。姉の恵はセックス依存症。歩は拒食と過食を繰り返さずにはいられないといい、恵は男と寝ることでしか自分の価値を確認できないといいます。

合田から二人の事情を聞いて、小松原は唖然となります。おれ、あいつらはカナリアやと思っている - 合田はそんなことを言います。

そして、茜。合田は茜と出逢ったはじめから、彼女もまた一羽のカナリアではないかと思っています。

 

この本を読んでみてください係数  85/100


カナリヤは眠れない (ノン・ポシェット)

◆近藤 史恵
1969年大阪府生まれ。
大阪芸術大学文芸学科卒業。

作品 「凍える島」「サクリファイス」「ねむりねずみ」「巴之丞鹿の子」「天使はモップを持って」他多数

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