『幻夏』(太田愛)_書評という名の読書感想文

『幻夏』太田 愛 角川文庫 2024年5月15日 28版発行

23年前の夏、失踪した親友は何を求め、何を失ったのか -

「俺の父親、ヒトゴロシなんだ」 毎日が黄金に輝いていたあの夏、同級生に何が起こったのか - 少女失踪事件を捜査する刑事・相馬は、現場で奇妙な印を発見し、23年前の苦い記憶を蘇らせる。台風一過の翌日、川岸にランドセルを置いたまま、親友だった同級生は消えた。流木に不思議な印を残して・・・・・・・。少年はどこへ消えたのか? 印の意味は? やがて相馬の前に恐るべき罪が浮上してくる。司法の信を問う傑作ミステリー。日本推理作家協会賞候補作。(KADOKAWA 「公式レーベルサイト」 より)

テーマは 「冤罪」 ですが、描かれているのはタダの 「冤罪」 ではありません。よくよく読んで、考えてみてください。もしも。もしもあなたが当事者だったとしたら。どんな形で恨みを晴らすのでしょう。あとに残った家族を、どんなふうに護るのでしょう。

無実の人間が、やっていない犯行の自白を強要され有罪判決を受ける。その場合の自白とは、捜査員によってつくりあげられたものということになり、場合によっては証拠が捏造されたり、隠蔽されたりすることもある。冤罪もまた、警察・検察・裁判所それぞれの組織的な病理によって引き起こされるもので、どこかでチェック機能が正しく働けば多くは防げたはずのものだ。

司法への信頼性を脅かす、あってはならないこの冤罪が、じつは繰り返し起きていることを、報道を通して私たちは知っている。幼女殺害の足利事件、県議ら十三人が公選法違反などに問われた志布志事件、小学六年生の女児が焼死した東住吉事件など、逮捕された容疑者の無罪判決が出るたびに、大きく報じられる。その行き過ぎた取り調べや予断をまじえた捜査手法は、不思議に思うほどどれも似通っている。

その一方で、無罪判決が出ても報道の扱いが小さく見過ごされたり、無実のまま刑に服したりした人も少なからずいるはずなのだ。やってもいない犯罪の加害者にされるのは、犯罪の被害者になる以上に恐ろしいことだが、その恐ろしさはわが身に降りかからない限りなかなか実感できない。自分にはそんなことは起きず、たとえ何かあっても法治国家ならば適正に法は運用されると考えてしまう。

累は当然、家族にもおよび、悲劇は、さらなる悲劇を引き起こす。現在だけでなく、未来までも根こそぎ奪い去る誤認逮捕の残酷さを、『幻夏』 という小説はあますところなく描いてみせる。(解説より)

※よく読まれているのはわかります。ただ、この小説が日本推理作家協会賞の受賞作ではなかったのも、なんとなくではありますが、わかるような気がします。これとよく似た作品が、過去にきっとあったのだろうと。工夫が過ぎて、いまいち没入できません。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆太田 愛 1964年香川県高松市生まれ。青山学院大学文学部仏文科卒業。

2012年、『犯罪者 クリミナル』 で小説家デビュー。13年には第2作 『幻夏』 を発表。日本推理作家協会賞 (長編及び連作短編集部門) 候補になる。17年 『天上の葦』 では、高いエンターテイメント性に加え、国家によるメディア統制と権力への忖度の危険性を予見的に描き、大きな話題となる。20年刊行の 『彼らは世界にはなればなれに立っている』 で、高知市の 「TSUTAYA中万々店」 の書店員、山中由貴さんが、お客様に 「どうしても読んで欲しい」 一冊に授与する賞、第4回山中賞を受賞。24年、グローバル企業に闘いを挑む若者たちを描いた社会派群像劇 『未明の砦』 (本作) で大藪春彦賞を受賞。他の著書に 『最初の星は最後の家のようだ』 がある。

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