『百年の時効』 (伏尾美紀)_書評という名の読書感想文

『百年の時効』 伏尾 美紀 幻冬舎 2026年1月20日 第8刷発行

第28回大藪春彦賞 第47回吉川英治文学新人賞 第79回日本推理作家協会賞 (長編および連作短編集部門) 受賞作 

3冠! 22年ぶりの快挙達成! 令和を代表する警察小説の金字塔

嵐の夜、夫婦とその娘が殺された。現場には四人の実行犯がいたと思われるが、捕まったのは、たった一人。謀略、テロ、宗教問題・・・・・・・警察は犯人グループを追い詰めながらも、罠や時代的な要因に阻まれて、決定的な証拠を摑み切れずにいた。五十年後、この事件の容疑者の一人が、変死体で発見される。
現場に臨場した藤森菜摘は、半世紀にも及ぶ捜査資料を託されることに。上層部から許された捜査期間は一年。二〇二五年、昭和が始まって百年にあたるこの年までに犯人を捕らえることはできるのか? 真相解明に足りない最後の一ピースとは何か?

頭脳派の鑑識志望、敵の多いマル暴、閑職に追いやられた捜査員、新米の女性刑事。昭和、平成、令和。四人の警察官が三つの時代で捜査を繋ぎ、一つの真実を追い求める。(幻冬舎)

書店で見た時、これは、と思う本があります。よく確かめもせず買ってしまうのはいつもの癖で、そんなときは (培われてきたであろうほんのささやかな) 自分の勘を信じるしかありません。

本の表紙の “面構え“ と、何よりその “分厚さ“ が気に入りました。緻密な構成で面々と綴られる長編が私は大好きで、きっと期待を叶えてくれるだろうと。どんな作品をイメージしていたのかと言いますと、(著者には少々荷が重いかもしれませんが) これまで読んだ中でパッと頭に浮かぶのは、たとえば、高村薫の 『レディ・ジョーカー』 や 『照柿』 であったり、奥田英朗の 『無理』 や 『邪魔』 であったり、横山秀夫の 『64ロクヨン)』 であったりの、誰もが認める傑作中の傑作でした。それらを凌駕して余りあるような、そんな小説ならと念じながら読み出しました。

『百年の時効』 は昭和四十九年 (一九七四年) に起きた 「佃島一家四人殺傷事件」 を平成、令和の各時代において警察官が追及していく警察捜査小説である。

物語は令和六年、ある老人の変死体の発見から始まる。警察にあてた手紙があり、そこで佃島事件を告白しているのだが、謎も多かった。現場に臨場した葛飾警察署の若き女性刑事、藤森菜摘は半世紀以上にわたる捜査資料を手渡される。

こうして時間は過去にとび、昭和四十九年の昭和編に移り、当時の刑事たちの佃島事件捜査が緻密に描かれるのだが、そこで浮上してくるのが昭和二十五年に起きた函館一家惨殺事件。さらに平成元年の平成編では、別の刑事たちが事件関係者の因縁を戦前の満州国での政治結社にまで探し求める。まさに昭和百年の深層を掘り下げる構成だ。

推理小説としてのひねりもどんでん返しもあり読み応え充分 (昨年各誌のミステリ・ベストテンの上位を賑わせた)。各時代を彩る有名事件の数々も紹介されるし、人々の生活や価値観も語られて懐古趣味もたっぷり。昭和の魂をもった刑事たちの熱き執念と、令和のクールな女性刑事の科学的捜査に基づいた必死な追求の対比も魅力的。刑事以外の人物像も深く、復讐と家族愛という主題も強力で、作品の密度も濃い。(「好書好日」 より/一部割愛)  

目 次

第一章 令和編 - 二〇二四 令和六年
第二章 昭和編 - 一九七四 昭和四十九年
第三章 平成編 - 一九八九 平成元年
第四章 令和編 - 二〇二四 昭和九十九年

※全部で553ページ。主な登場人物だけでも二十八人います。(安心してください。最初にちゃんと “名簿“ があります) 誰の、いつの時代の話なのかを留意しつつ読まなければなりません。それが少ししんどいと思いますが、頑張って読み切ってください。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆伏尾 美紀
1967年北海道生まれ。北海道在住。

2021年、第67回江戸川乱歩賞受賞作 『北緯43度のコールドケース』 (受賞時タイトル 「センパーファイ - 常に忠誠を -」) でデビュー。その他の著書に 『数学の女王』 『最悪の相棒』。

関連記事

『不時着する流星たち』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『不時着する流星たち』小川 洋子 角川文庫 2019年6月25日初版 私はな

記事を読む

『歌舞伎町セブン 〈ジウ〉 サーガ6 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『歌舞伎町セブン 〈ジウ〉 サーガ6 』誉田 哲也 中公文庫 2021年6月25日 6刷発行 

記事を読む

『ホテル・ピーベリー 〈新装版〉』(近藤史恵)_書評という名の読書感想文

『ホテル・ピーベリー 〈新装版〉』近藤 史恵 双葉文庫 2022年5月15日第1刷

記事を読む

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発行 朝日、読売、毎日、日

記事を読む

『春の庭』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『春の庭』柴崎 友香 文春文庫 2017年4月10日第一刷 東京・世田谷の取り壊し間近のアパートに

記事を読む

『半島へ』(稲葉真弓)_書評という名の読書感想文

『半島へ』稲葉 真弓 講談社文芸文庫 2024年9月10日 第1刷発行 親友の自死、元不倫相

記事を読む

『僕はただ青空の下で人生の話をしたいだけ』(辻内智貴)_書評という名の読書感想文

『僕はただ青空の下で人生の話をしたいだけ』 辻内智貴 祥伝社 2012年10月20日初版 6年ぶ

記事を読む

『爆弾』(呉勝浩)_書評という名の読書感想文

『爆弾』呉 勝浩 講談社 2023年2月22日第8刷発行 爆発 大ヒット中! 第16

記事を読む

『ボクたちはみんな大人になれなかった』(燃え殻)_書評という名の読書感想文

『ボクたちはみんな大人になれなかった』燃え殻 新潮文庫 2018年12月1日発行

記事を読む

『爪と目』(藤野可織)_書評という名の読書感想文

『爪と目』藤野 可織 新潮文庫 2016年1月1日発行 はじめてあなたと関係を持った日、帰り際

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『織田作之助コレクション』 (重里哲也 編)_書評という名の読書感想文

『織田作之助コレクション』 重里哲也 編 ちくま文庫 2026年7月

『怖い客』 (矢樹純)_書評という名の読書感想文

『怖い客』 矢樹 純 PHP文芸文庫 2026年7月17日 第1版第

『いい子のあくび』 (高瀬隼子)_書評という名の読書感想文

『いい子のあくび』 高瀬 隼子 集英社文庫 2026年5月30日 第

『家庭用安心坑夫/猿の戴冠式』 (小砂川チト)_書評という名の読書感想文

『家庭用安心坑夫/猿の戴冠式』 小砂川 チト 講談社文庫 2026年

『プレデター』 (あさのあつこ)_書評という名の読書感想文

『プレデター』 あさの あつこ 集英社文庫 2026年5月30日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑