『織田作之助コレクション』 (重里哲也 編)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2026/09/10
『織田作之助コレクション』 (重里哲也 編), 作家別(さ行), 書評(あ行), 重里哲也編
『織田作之助コレクション』 重里哲也 編 ちくま文庫 2026年7月10日 第1刷発行
男女、放浪、孤独、デカダンス、死 - 文庫未収録作品多数収録 戦中戦後を駆け抜け、散った無頼派作家の魅力とエッセンス

「織田の笑い顔は私たちを元気づける。勇気づける。実は厳しい視線を交えて地上を丸ごと肯定する。ほんで、どないすんねんと、問いかけるように。」 (編者解説より)
ああこの女は身投げするに違いない - 南紀白浜で遭遇した奇妙な関係の男女をめぐる心理を描いた小説第一作 「ひとりすまう」、急死した一度会ったきりの許嫁のもとに駆け付ける二十歳の女性を通して人情と運命の厳しさを描く 「許嫁」 など全十八編。徹底して生を肯定し、戦中戦後を疾走した無頼派・織田作の新たな魅力を堪能できる、文庫未収録作品を中心とした傑作集。編者解説 重里哲也 (ちくま文庫)
何人かいる好きな作家の本はもちろんですが、それ以外にも私には、決まって 「買う」 本があります。「織田作之助賞」 の受賞作がそうで、特に、2006年以後の作品についてはほぼほぼ全部読んでいるのではないかと。
つい最近読んだのが、第40回受賞作、乗代雄介の 『それは誠』 で、第39回受賞作、滝口悠生の 『水平線』 や 第38回受賞作、岸政彦の 『リリアン』、第37回受賞作、温又柔の 『魯肉飯 (ロバプン) のさえずり』 など、比較的新しい作品のどれもが、強く印象に残っています。
なぜ織田作之助賞に強く惹かれるのかと問われると、正直よくわかりません。そもそも織田作之助の小説は読んだことがなく、その来歴も人柄もよく知らないままに、作家としてのイメージだけがありました。雑多で、偉そぶらず、我が道を行くような。シャイで儚げで、放っておけないような。そして何より気になったのが、大阪の人、ということでした。
またとない機会だと思いました。人となりを知るには、もってこいの本だと。十八編読んで、それが正解だったとわかりました。
織田作之助には笑顔が似合う。
そう言ってしまうと、単純に過ぎるだろうか。でも、十代から五十年以上、この作家を愛読してきて、そんなことを思うのだ。(後略)もとより、勝手な妄想である。そして、それではどんな笑顔なのかと尋ねられると返答に困る。さまざまな映像が乱反射して、目に浮かんでくるのだ。もちろん会ったことはない。写真のイメージだ。作品から受ける感触だ。彼の残した文章から、いろいろと想像するだけのことなのだ。周囲の人たちの描写から、こんな感じなのかなと思うだけだ。
жжж
織田の笑い顔は私たちを元気づける。勇気づける。背骨を伸ばして歩かんかい、と叱咤してくれる。これも、私の勝手な妄想だ。
なぜ私がそんな妄想を抱くのか。そこには肯定する態度があるからだと言いたい。地上を丸ごと 「それもよし」 と受け入れる姿勢があるからだ。しかし、私たちを甘やかすというのとは違う。実は厳しい視線を交えて肯定する。ほんで、どないすんねんと、問いかけるように。жж
生涯の多くを大阪と京都で暮らした。学生時代から肺病を抱えていた。絶えず、自分を地面に近いところに置いた。私は筋が通っていると思うのだが、どうだろうか。
吉本隆明は生前、太宰治や坂口安吾と比較して、織田のことを私にこういうふうに語ってくれた。「いくら戯作者を装っても、太宰や安吾はいつも大知識人しか持っていない全面性を引きずっていた。織田作はそういうところを一切、見せなかった。本当に戯作者に徹していて、彼が影響を受けた井原西鶴に似ている。わざと下等にふるまい、生命を燃やした。私は大層、好きだった」 (解説より抜粋)
※「織田作」 と呼ばれて親しまれる理由の一端が知れたように思います。話は色々で、突き放したままに終わる作品が中にあったりするのですが、冷たくは感じません。どないもこないもない、それが現実なんだと。ほんで、どないすんねんと。
収録作▶ ひとりすまう/探し人/写真の人/立志伝/家風/航路/許嫁/大人の童話/事始め/婦人/周囲/訪問客/見世物/奇妙な手記/饗宴/冴子の外泊/影絵/死神
この本を読んでみてください係数 85/100

◆織田作之助
1913年大阪市生まれ。同人雑誌 「海風」 を青山光二らとともに発行。39年 「俗臭」 が芥川賞候補、翌年 「夫婦善哉」 が改造社の第一回文藝推薦作となる。戦後は当時の世俗を活写した短編 「世相」 で無頼派作家として売れっ子に。「土曜夫人」 執筆中喀血、47年逝去。
◆重里哲也
1957年大阪市生まれ。大阪外国語大学ロシア語学科卒。毎日新聞記者を経て、聖徳大学教授・文芸評論家。著書に 『文学館への旅』、共著に 『村上春樹で世界を読む』 『教養としての芥川賞』 『つたえるエッセイ』 など。
関連記事
-
-
『Iの悲劇』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文
『Iの悲劇』米澤 穂信 文藝春秋 2019年9月25日第1刷 序章 Iの悲劇
-
-
『存在のすべてを』(塩田武士)_書評という名の読書感想文
『存在のすべてを』塩田 武士 朝日新聞出版 2024年2月15日第5刷発行 本の雑誌が選ぶ2
-
-
『十字架』(重松清)_書評という名の読書感想文
『十字架』重松 清 講談社文庫 2012年12月14日第一刷 いじめを苦に自殺したあいつの遺書
-
-
『入らずの森』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文
『入らずの森』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2016年12月31日第6刷 陰惨な歴史
-
-
『風葬』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文
『風葬』桜木 紫乃 文春文庫 2016年12月10日第一刷 釧路で書道教室を営む夏紀は、認知症の母
-
-
『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』(大島真寿美)_書評という名の読書感想文
『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』大島 真寿美 文春文庫 2021年8月10日第1刷
-
-
『憧れの作家は人間じゃありませんでした』(澤村御影)_書評という名の読書感想文
『憧れの作家は人間じゃありませんでした』澤村 御影 角川文庫 2017年4月25日初版 今どき流
-
-
『あおい』(西加奈子)_書評という名の読書感想文
『あおい』西 加奈子 小学館文庫 2007年6月11日初版 西加奈子のデビュー作です。「あお
-
-
『女ともだち』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文
『女ともだち』真梨 幸子 講談社文庫 2012年1月17日第一刷 「その事件は、実に不可解で
-
-
『渡良瀬』(佐伯一麦)_書評という名の読書感想文
『渡良瀬』佐伯 一麦 新潮文庫 2017年7月1日発行 南條拓は一家で古河に移ってきた。緘黙症の長女
















