『みどりいせき』 (大田ステファニー歓人)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2026/09/10
『みどりいせき』 (大田ステファニー歓人), 作家別(あ行), 大田ステファニー歓人, 書評(ま行)
『みどりいせき』 大田ステファニー歓人 集英社文庫 2026年2月25日 第1刷
音楽のような言葉のリズムに酔いしれろ! 文学新時代の到来を告げる衝撃のデビュー作!

すばる文学賞、三島由紀夫賞 W受賞作
屋上で授業をサボっていた僕は帰りぎわ眉ピの三年生に 「予約の人? 」 って聞かれた。唖然としてたら 「一個二千でいいよって」 「え、カツアゲ? 」 「はぁ? タダなわけねぇじゃんて話」。一瞬にして、僕は怪しい闇バイトに巻き込まれ・・・・・・・。ドラッグを手段に秩序に反抗し、ささやかな連帯を模索する若者を描く、中毒性あふれる世界観。第47回すばる文学賞、第37回三島由紀夫賞受賞、圧巻のデビュー作。解説/高橋源一郎 (集英社文庫)
この本を手に取った十人が十人共にまず思うのは、「〈みどりいせき〉 って何なん? 」 という、付いたタイトルに対する “不可解さ“ ではないでしょうか。そのうちわかるだろうと読み出したものの、「はっはあぁ、このことか」 と私が気が付いたのは、読了まで残り僅かになってからのことでした。
それはさておき、この小説にはいまどきの若者なら大抵が知っている - つまりは日常あたり前に使われているであろう - 隠語のような、短く省略された言葉や単語がこれでもかとばかりに登場し、主人公を含む闇バイトの仲間たちが交わす会話はまるで異世界のそれのようで、理解するのに大層骨が折れます。話がドラッグ絡みに及ぶに至り、もはや勘を頼りに追うことだけで精一杯で、理解するには繰り返し読み直さなければなりません。
類のない文体。そこへ知らない言葉が次々現れ、読んでいる間中スマホを手放せなかった。
まず 「ペニー」 がわからない。ググると、小型スケートボードのブランド名だった。「ワッペ」 もわからなかった。野球グローブのメーカーが出しているスクールバックのこと。一九九五年生まれの新人作家による高校生描写は、はじめて見る世界が広がる。
主人公の僕はある日、小学生のころに野球のバッテリーを組んでいた、一つ年下の 「春」 と再会する。僕だけが彼女の球を捕れた。が、久々に会うなり、あっという間に大麻がらみの闇バイトに引き込まれてしまう。
不可抗力でバッドトリップし、すぐさま常習になるあたりから、未知の言葉はさらに降り注ぐ。ブリる、フォグる、キャパる。スラングが横溢 (おういつ)しこちらも悪酔いしながら追体験していく。無論、ドラッグを是認するわけではないが、言葉による身体感覚の喚起力には驚く。ひどい体験だった。ダメ。ゼッタイ。ニュースで聞く以上に大麻や闇バイトは若者の身近に潜み、彼らを捕食する。その責任は誰にある?
父を亡くし不登校寸前だった主人公にとって、闇バイトつながりの絆は、家でも学校でも得られなかったホームリーな居場所となる。みんなで大麻を吸って楽しくなっちゃって、溜 (たま) り場のヤサ (家) で煙をもくもくさせながら 「やっぱし愛だわ」 とか言い出すところが妙にいい。場に漂うムードには、いつか味わった青春の手触りがある。
青春小説であり、まごうことなき大麻小説。そして意外にも、野球小説だ。それもとびきりイノセントな。逃げ、殴られ、恐怖を味わう闇バイトは、通過儀礼めいた地獄めぐり。そこを生き延びた果てに辿り着いたラストの美しさは、筆舌に尽くしがたい。
時代を背負った本書はある種の若者にとって、はじめて出会う 「自分たちの物語」 だろう。大人は黙って祝福を。(山内マリコ/「好書好日」 より全文 朝日新聞掲載:2024年04月20日)
※どうか皆さん、めげないでください。文庫の解説の高橋源一郎さんも、「好書好日」 の山内マリコさんも、二人共が、「わからない言葉がいっぱいだ」 と言っています。スマホで調べるなり、自分で予想するなりしながら読んでください。高橋氏が激賞する小説の 「書き出し」 に、読んだ私は正直途中で読むのを止めるかも、と感じつつ、読むうち段々と止められなくなって最後に至りました。タイトルが何を指すのか - それもわかったような気でいます。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆大田ステファニー歓人
1995年東京生まれ。2023年 「みどりいせき」 で第47回すばる文学賞を受賞しデビュー。24年同作で第37回三島由紀夫賞を受賞。
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