『ゾンビ回収婦』 (小砂川チト)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2026/09/10
『ゾンビ回収婦』 (小砂川チト), 作家別(か行), 小砂川チト, 書評(さ行)
『ゾンビ回収婦』 小砂川 チト 講談社 2026年7月7日 第1刷発行
第175回芥川賞受賞作

この世界の秘密をあなたに教えたい --。わたしはこのホテルの、たったひとりの清掃婦。殺されたゾンビの骸を拾い集めて、世界を美しく保つのだ。一気読み必至の圧倒的虚構世界 〈リアルライフ〉。AI (やつら) に侵食された世界で、夫とともに職を失ったわたし -- の前にもうひとつの現実がたち顕れた。三十数年良い子で大人になったわたしは、これまでと変わらずに、賢明にひたむきに役割をこなしていく。感謝されず、褒められもしない。それこそまるで 「 」 みたいに? (講談社)
受賞作を読む前に、二作共が芥川賞候補となった 『家庭用安心坑夫』 と 『猿の戴冠式』 を読みました。読むには読んだのですが、読んで理解できたかと問われると、いささか自信がありません。こんなことなら読まずに済ませたかった。本音を吐けば、そんな思いでいました。
なら、(三作目もたぶん同じだろうに) 急いで買いに行ってまでなぜ読みたいと思ったのか --- 妙なタイトルに惹かれたのは確かでした。リベンジするという気持ちがあったかも知れません。本の紹介等を読むと、今度こそは 「読める」 のではないかと。薄っすらとではありますが、そんな予感がありました。
人間を巡る想像力の拡張 評・渡邉英理 (大阪大教授)
「全部AIのせいだよ」。本作のヒロイン 「わたし」 が口にするこの言葉は、未来のわたしたちの常とう句になるかもしれない。
現在、人間がしている仕事の少なくない部分は、人工知能 (AI) に代替されると予想されている。テレビニュースの一部は、すでにAIによって読み上げられている。「わたし」 と夫は、AIに仕事をとられた。それを労働からの解放と見なす夫は、好きなことをしようと演奏旅行に出かけてしまう。
残された 「わたし」 は、仮想現実 (VR) ゲームの世界にのめり込む。ゲームの中は、戦闘に明け暮れる終末世界。そこで 「わたし」 は、ホテルの 「ゾンビ回収婦」 になる。
倒されたゾンビを拾い集めるその役目は 「わたし」 に与えられたものではない。むしろ奪取したというべきものだ。AIの管理下にあった端役を、VRゲームの中で奪い取る。そこに兆すのはAIへの復讐であろう。
とはいえ、「わたし」 がAIに抱くのは憎しみだけではない。戦うことを忌避する心優しきゾンビを、「わたし」 は 「アラスカ」 と呼び交流し、そこに愛すら感じてもいる。無論、このゾンビもまたAIが生むキャラクターのひとつである。
著者はデビュー以来、人間ならざるものとの交流を一貫して描いてきた。デビュー作 「家庭用安心坑夫」 ではマネキン人形、次作の 「猿の戴冠式」 ではボノボが、その相手であった。これら前2作に続き3度目のノミネートで芥川賞に決まった本作でも、そのテーマは健在だ。
もはや物質性を持たないVR世界の非人間たちと 「わたし」 の交流を通じて、小説の言葉は、心とは何か、生命とは何か、という問いを浮き彫りにする。心や生命は、人間とは何かという問いの核心部を占める。
虚構である小説は、読み手に想像力の駆使を促す。本書は、人間を巡る想像力を鍛え拡張させる卓抜のレッスンとして読まれるだろう。(京都新聞 2026年8月2日掲載/全文)
※結論:渡邉先生の解説を読んでもよくは理解できない私は、もはや降参するしかありません。苦し紛れに言いますが、書いた本人 (著者) こそが 「ゾンビ」 ではないかと。
この本を読んでみてください係数 80/100

◆小砂川 チト
1990年岩手県生まれ。
慶應義塾大学文学部卒業、同大学院社会学研究科心理学専攻修了。
2022年、「家庭用安心坑夫」 で第65回群像新人文学賞を受賞。同作が第167回芥川賞候補に。さらに’24年、「猿の戴冠式」 で第170回芥川賞候補、単行本化された 『猿の戴冠式』 で第37回三島由紀夫賞候補、第46回野間文芸新人賞候補となる。
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