『ヒロイン』 (桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2026/09/10 『ヒロイン』 (桜木紫乃), 作家別(さ行), 書評(は行), 桜木紫乃

『ヒロイン』 桜木 紫乃 毎日文庫 2026年7月25日 発行

みんな誰かを演じてる 次はいったい誰になればいいのだろう。

世間を震撼させた白昼のテロ事件から17年。名を変え他人になりすまし、“無実“ の彼女はなぜ逃げ続けたのか?

1995年3月某日。東京・渋谷駅で毒ガス散布事件が発生。実行犯として指名手配されたのは宗教団体 「光の心教団」 の男性幹部と、何も知らされず行動を共にしていた23歳の信者岡本啓美。この日から、無実の啓美の長い逃亡劇が始まった。他人を演じ続けて17年、流れ着いた地で彼女が見つけた “本当の罪“ とはいったい何だったのか・・・・・・・。解説・梶原阿貴 (毎日文庫)

みなさんは解説の (脚本家で作家の) 梶原阿貴という人のことをご存じでしょうか? 私は今回初めて知ったのですが、知ると、彼女がこの作品の解説を引き受けた (ある滅多とない) 理由がわかります。詳しく知りたい方は、ぜひ調べてみてください。

優れた作家というのは、想像力だけでここまで繊細に、経験したことのない逃亡生活を描き切ることができるのか、とショックを受けた。2023年10月のことである。当時、新聞広告で見た、『桜木紫乃最新刊! 17年間逃げ続けた指名手配犯 - 』 の文字に、鼓動が速くなり、急き立てられるようにして近所の書店に走ったことを覚えている。

『ホテルローヤル』 に出てくる女たち、『裸の華』 の元ストリッパー、フジワラノリカを始め、桜木作品のヒロインの多くは、抗えなかった過去に抗うように生きる。そのヒロイン像に読者は魅了される。そして今回のタイトルは、ズバリ、ヒロインだ・・・・・・・なぜ急き立てられるように書店に走ったかといえば、私自身が、かつての爆弾事件で指名手配された父親と一緒に14年の逃亡生活 (そのうちの12年) を送った経験があったからだ。

もし、私の人生と、似たようなストーリーだったらどうしよう。え? もしかして私がヒロイン? でも・・・・・・・先にこんな本を出されちゃったら私がやがて描くであろう半生記が売れなくなってしまうじゃないか、と。一文字も書いていないし、書く予定もないし、誰からも頼まれていないのに私の中で勝手に妄想が膨らんで、慌てたのだ。

そして、一気に読んだ。読み始めてすぐにヒロイン岡本啓美と私は一体化し、富士山のふもとから目黒、渋谷、新潟、埼玉にあるとされる鬼神町、池袋北口、釧路、要町、神奈川のダム湖近くにある見知らぬ町、網走、そしてまた見知らぬ町に戻った17年間を、啓美と転がり落ちるように読んだ。もったいないから最後の一章を翌日に取っておこうと思ったのに、それも忘れて一日で読み終えてしまった。

そして最初のページに戻る。(以下略/解説より)

※そう、読み終えた直後、きっとあなたは最初のページに戻るはずです。戻らざるを得ない、そんな心境になるに違いありません。長い長い17年に及ぶ逃亡生活を経て、啓美が今何を思うのか。改めて想像せずにはいられないと思います。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆桜木 紫乃
1965年北海道釧路市生まれ。

作品 「起終点駅/ターミナル」「凍原」「氷平線」「ラブレス」「ホテルローヤル」「硝子の葦」「星々たち」「ブルース」「霧/ウラル」「砂上」「家族じまい」「ブルース Red」他多数

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