『続・ヒーローズ(株)!!! 』(北川恵海)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『続・ヒーローズ(株)!!! 』(北川恵海), 作家別(か行), 北川恵海, 書評(さ行)
『続・ヒーローズ(株)!!! 』北川 恵海 メディアワークス文庫 2017年4月25日初版
『 ヒーローになりたい方お手伝いします! 』 が売り文句のヒーローズ(株)。いろいろ不思議なこの会社の中で、修司は周りの社員に比べて〈普通〉であることには悩みつつも、仕事に奮闘する毎日を送っていた。ある日事務所に訪れた依頼人は、修司の顔を見るなり泣きだしてしまい・・・・。夢を抱えて、働き、生きる依頼人や同僚たち、それぞれの人生が交差して生まれる絆の物語。読んだ後はきっと、自分にも他人にもエールを送りたくなる、待望のシリーズ第二弾! (メディアワークス文庫)
『 ヒーローズ(株)!!! 』が世に出たのが、今からちょうど1年前。そのまた1年と少し前に発売されたのが『ちょっと今から仕事やめてくる』という傑作な小説で、二冊の本を読み、たちまち私は北川恵海という(未だ正体不明の)新人作家のファンになりました。
ちょうどよい具合の軽さでとても読みやすい。難しいことは何ひとつ書いてない。ドロドロ感がまるでなく、ありそうもない話とわかりつつ、そのうち段々と(そんなことはおかまいなしに)夢中になって読んでいる・・・・
それで十分だと思うのですが、腹が立つことに(これ、褒め言葉です)最後あたりになると、胸が詰まって泣きそうになります。こんな出物(!? )を見つけた偶然に、ちょっと「得をした」ような気持ちになります。
『ヒーローズ(株)!!! 』を読んだとき、私は、中に登場する老紳士の〈道野辺さん〉とチャラ男を絵に描いたような〈ミヤビ〉という人物、この二人がとてもいいと思い、ブログにもそう書きました。
その気持ちは今でも同じなのですが、今回、二人の他にさらに「いい奴」がいたのがわかります。一見ちゃらんぽらんで、脇役としか思っていなかった佐々木拓という若者 - 彼こそが、この続編における一番の主役と言っていいでしょう。
拓は、修司 - 修司は拓に頼まれて最初一週間だけヒーローズで働くことになりその後社員となるこの小説の語り手です - が暮らす安アパートの近所に住む大学生。コンビニでアルバイトをしながらコンパ三昧、だとばかり(修司は)思っていたのですが、
実は、拓はヒーローズに元からいる社員で、中でもスカウトを中心とした業務を行うアンダーグラウンドな存在で、つまりは、修司は拓が意図した巧みな誘導で、(かなりの難関を自力でクリアしたとはいえ)まんまと術中に嵌まり、なるべくしてヒーローズの社員となったわけです。
修司は何も知らされていないのですが、拓は、道野辺さんとも、ミヤビとも、実は深くて太い関係を持っています。「関係」と言うより、むしろそれは「絆」と言った方が良いような間柄で、知る度に、修司は大いに驚くことになります。
その過程の中で、いくつかのエピソード(=ヒーローズへの依頼事)が語られてゆきます。
※どちらが面白いですかと訊かれたら、迷わず私は『ヒーローズ(株)!!! 』、つまり最初に出た方を挙げます。でもこれは仕方ない。最初がすごく良かったので、次はもっと大きな期待をしてしまう。悲しいかな、それは続編が持つ運命というもので・・・・、残念!!
この本を読んでみてください係数 80/100
◆北川 恵海
大阪府吹田市生まれ。
作品「ちょっと今から仕事やめてくる」「ヒーローズ(株)!!! 」
関連記事
-
-
『スクラップ・アンド・ビルド』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文
『スクラップ・アンド・ビルド』羽田 圭介 文芸春秋 2015年8月10日初版 スクラップ・アン
-
-
『神様』(川上弘美)_書評という名の読書感想文
『神様』川上 弘美 中公文庫 2001年10月25日初版 神様 (中公文庫) なぜなんだろうと。
-
-
『大きな鳥にさらわれないよう』(川上弘美)_書評という名の読書感想文
『大きな鳥にさらわれないよう』川上 弘美 講談社文庫 2019年10月16日第1刷 大きな鳥
-
-
『土に贖う』(河﨑秋子)_書評という名の読書感想文
『土に贖う』河﨑 秋子 集英社文庫 2022年11月25日第1刷 明治30年代札幌
-
-
『夜の谷を行く』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文
『夜の谷を行く』桐野 夏生 文芸春秋 2017年3月30日第一刷 夜の谷を行く 39年前、西
-
-
『太陽と毒ぐも』(角田光代)_書評という名の読書感想文
『太陽と毒ぐも』角田 光代 文春文庫 2021年7月10日新装版第1刷 太陽と毒ぐも (文春
-
-
『さよなら、ビー玉父さん』(阿月まひる)_書評という名の読書感想文
『さよなら、ビー玉父さん』阿月 まひる 角川文庫 2018年8月25日初版 さよなら、ビー玉父
-
-
『地獄への近道』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文
『地獄への近道』逢坂 剛 集英社文庫 2021年5月25日第1刷 地獄への近道 (集英社文庫
-
-
『ぼくの死体をよろしくたのむ』(川上弘美)_書評という名の読書感想文
『ぼくの死体をよろしくたのむ』川上 弘美 新潮文庫 2022年9月1日発行 うしろ姿
-
-
『ウィステリアと三人の女たち』(川上未映子)_書評という名の読書感想文
『ウィステリアと三人の女たち』川上 未映子 新潮文庫 2021年5月1日発行 ウィステリアと