『続・ヒーローズ(株)!!! 』(北川恵海)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/11
『続・ヒーローズ(株)!!! 』(北川恵海), 作家別(か行), 北川恵海, 書評(さ行)
『続・ヒーローズ(株)!!! 』北川 恵海 メディアワークス文庫 2017年4月25日初版
『 ヒーローになりたい方お手伝いします! 』 が売り文句のヒーローズ(株)。いろいろ不思議なこの会社の中で、修司は周りの社員に比べて〈普通〉であることには悩みつつも、仕事に奮闘する毎日を送っていた。ある日事務所に訪れた依頼人は、修司の顔を見るなり泣きだしてしまい・・・・。夢を抱えて、働き、生きる依頼人や同僚たち、それぞれの人生が交差して生まれる絆の物語。読んだ後はきっと、自分にも他人にもエールを送りたくなる、待望のシリーズ第二弾! (メディアワークス文庫)
『 ヒーローズ(株)!!! 』が世に出たのが、今からちょうど1年前。そのまた1年と少し前に発売されたのが『ちょっと今から仕事やめてくる』という傑作な小説で、二冊の本を読み、たちまち私は北川恵海という(未だ正体不明の)新人作家のファンになりました。
ちょうどよい具合の軽さでとても読みやすい。難しいことは何ひとつ書いてない。ドロドロ感がまるでなく、ありそうもない話とわかりつつ、そのうち段々と(そんなことはおかまいなしに)夢中になって読んでいる・・・・
それで十分だと思うのですが、腹が立つことに(これ、褒め言葉です)最後あたりになると、胸が詰まって泣きそうになります。こんな出物(!? )を見つけた偶然に、ちょっと「得をした」ような気持ちになります。
『ヒーローズ(株)!!! 』を読んだとき、私は、中に登場する老紳士の〈道野辺さん〉とチャラ男を絵に描いたような〈ミヤビ〉という人物、この二人がとてもいいと思い、ブログにもそう書きました。
その気持ちは今でも同じなのですが、今回、二人の他にさらに「いい奴」がいたのがわかります。一見ちゃらんぽらんで、脇役としか思っていなかった佐々木拓という若者 - 彼こそが、この続編における一番の主役と言っていいでしょう。
拓は、修司 - 修司は拓に頼まれて最初一週間だけヒーローズで働くことになりその後社員となるこの小説の語り手です - が暮らす安アパートの近所に住む大学生。コンビニでアルバイトをしながらコンパ三昧、だとばかり(修司は)思っていたのですが、
実は、拓はヒーローズに元からいる社員で、中でもスカウトを中心とした業務を行うアンダーグラウンドな存在で、つまりは、修司は拓が意図した巧みな誘導で、(かなりの難関を自力でクリアしたとはいえ)まんまと術中に嵌まり、なるべくしてヒーローズの社員となったわけです。
修司は何も知らされていないのですが、拓は、道野辺さんとも、ミヤビとも、実は深くて太い関係を持っています。「関係」と言うより、むしろそれは「絆」と言った方が良いような間柄で、知る度に、修司は大いに驚くことになります。
その過程の中で、いくつかのエピソード(=ヒーローズへの依頼事)が語られてゆきます。
※どちらが面白いですかと訊かれたら、迷わず私は『ヒーローズ(株)!!! 』、つまり最初に出た方を挙げます。でもこれは仕方ない。最初がすごく良かったので、次はもっと大きな期待をしてしまう。悲しいかな、それは続編が持つ運命というもので・・・・、残念!!
この本を読んでみてください係数 80/100
◆北川 恵海
大阪府吹田市生まれ。
作品「ちょっと今から仕事やめてくる」「ヒーローズ(株)!!! 」
関連記事
-
-
『螻蛄(けら)』(黒川博行)_書評という名の読書感想文
『螻蛄(けら)』黒川 博行 新潮社 2009年7月25日発行 信者500万人を擁する伝法宗慧教
-
-
『このあたりの人たち』(川上弘美)_〈このあたり〉 へようこそ。
『このあたりの人たち』川上 弘美 文春文庫 2019年11月10日第1刷 この本に
-
-
『それもまたちいさな光』(角田光代)_書評という名の読書感想文
『それもまたちいさな光』角田 光代 文春文庫 2012年5月10日第一刷 【主人公である悠木
-
-
『名短篇、ここにあり』(北村薫/宮部みゆき編)_書評という名の読書感想文
『名短篇、ここにあり』北村薫/宮部みゆき編 ちくま文庫 2008年1月10日第一刷 「少女架刑」
-
-
『老後の資金がありません』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文
『老後の資金がありません』垣谷 美雨 中公文庫 2018年3月25日初版 「老後は安泰」のはずだっ
-
-
『国境』(黒川博行)_書評という名の読書感想文(その2)
『国境』(その2)黒川 博行 講談社 2001年10月30日第一刷 羅津・先鋒は咸鏡北道の北の果
-
-
『リリアン』(岸政彦)_書評という名の読書感想文
『リリアン』岸 政彦 新潮社 2021年2月25日発行 街外れで暮らすジャズ・ベー
-
-
『しろいろの街の、その骨の体温の』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文
『しろいろの街の、その骨の体温の』村田 沙耶香 朝日文庫 2015年7月30日第一刷 クラスでは目
-
-
『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』(中山七里)_書評という名の読書感想文
『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』中山 七里 講談社文庫 2013年11月15日第一刷 御子柴礼司は被
-
-
『父からの手紙』(小杉健治)_書評という名の読書感想文
『父からの手紙』小杉 健治 光文社文庫 2018年12月20日35刷 家族を捨て、