『からまる』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『からまる』千早 茜 角川文庫 2014年1月25日初版


からまる (角川文庫)

地方公務員の武生がアパートの前で偶然知り合った不思議な女。休日になるとふらりとやって来て身体を重ね帰っていくが、彼女の連絡先も職業も分からない。ある日、武生は意外な場所で彼女を目撃してしまう・・・・(第1話「まいまい」)。妻に浮気をされた中年男、不慮の妊娠に悩む女子短大生、クラスで問題を起こした少年・・・・。いまを懸命に生きる7人の男女。泉鏡花賞作家が複雑にからみ合う人間模様を美しく艶やかに描いた群像劇。(角川文庫)

第1話「まいまい」 20代後半の地方公務員・筒井武生の日常と謎の〈雨宿り女〉の話。
第2話「ゆらゆらと」 武生の職場で働く女性・田村の憂鬱とその親友、華奈子の話。
第3話「からまる」 武生の上司である係長が妻の不倫に悩む話。
第4話「あししげく」が武生の姉・恵の、第5話「ほしつぶ」が恵の息子・蒼真の話。
第6話「うみのはな」 第2話に登場する華奈子の生きざまについての話。
第7話「ひかりを」 第1話に登場する〈雨宿り女〉の焦燥とキリンレモンが飲みたくなる話。

大まかに書くとこんな感じになります。

最初イメージしたのはもっと違う感じだったのですが、意外にもハートフルでハッピーな話であるのに、何だか騙されたまま読み終えてしまったようで落ち着かないでいます。

期待していたのとは別の展開で、挙句、あんな(ありきたりな)終わり方をするとは。何があって彼女はこんな話を書いたのだろう。まるでらしくない。(と私は思う)  こんなことなら読まなければよかった。

からまる? そりゃあ、普通これだけ人がいればからまりもするわけで、普通にいる人のことを、わざとそうではないように書かないでほしい。あざといだけで、美しくも何ともない。

最初登場する武生は、まあよしとしましょう。彼は役所に勤めるごく平凡な地方公務員で、暇な福祉介護課で介護保険料の収納と還付の仕事をしています。受けた試験にたまたま受かってなった職員の彼はさしあたりの目標もなく、日々淡々と業務をこなしています。

武生は、時々、思います。「自分も気付けば係長のように穏やかな表情を貼りつけ、人畜無害の人間として扱われるようになるのかと。別に害のある人間になりたいわけではないが、なんだろう苦いものが込みあげる」と。

(話が始まったばかりの)この辺りは、先に続く展開にまだ期待もするわけです。

実は、この時点で既に〈雨宿り女〉は武生の部屋に上がり込み、早々に彼とベッドを共にします。- 正確に言いますと、女は武生のアパートの前で雨宿りをしており、それを見兼ねた武生が部屋へ招き入れたということ。女の正体は知れず、名前も名乗りません。

・・・って、あります? 地味で何を考えているのかわからない(これは私の主観です)、如何にも公務員らしい武生にはまだそれなりの共感(!? )が持て興味も湧きますが、〈雨宿り女〉はいけません。(先を読むまでもなく)  こんな女、いるわけがない!

もうネタバレもクソもなく言ってしまいますが(※ 知りたくない人はここから先は読まないでください)、この〈雨宿り女〉の正体はなんとなんと循環器内科を専門とする若手の女医で、名前を「葛月」と言い、至極真っ当な女性であるのがわかります。

歪んだところがまるでない。病院にいて、何度も死にかけた老人が唯一慕う「先生」として、最後まで老人を見守ります。彼と彼の妻に寄り添い、亡くなったあと、彼が伝えようとした大事なことに気付きます・・・・といったエンディングを迎えます。

そんな「先生」が、何があって武生風情とからまるの? 理由についての説明らしき文章があるにはありますが、読むと、それも何だか訳のわからぬ方便としか思えません。発端は理解できても、なぜそれが「武生」なのかがわからないのです。

武生とからまる田村、田村の親友の華奈子、武生の姉と息子の話についても、いまいち何だかなあという感じ。唯一、武生の上司の係長の話はちょっと読んでもいいかと思います。が、それもよくある話ではあるのですが・・・・

 

この本を読んでみてください係数  70/100


からまる (角川文庫)

◆千早 茜
1979年北海道江別市生まれ。
立命館大学文学部人文総合インスティテュート卒業。

作品 「魚神」「桜の首飾り」「あとかた」「眠りの庭」「森の家」「男ともだち」他

関連記事

『顔に降りかかる雨/新装版』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『顔に降りかかる雨/新装版』桐野 夏生 講談社文庫 2017年6月15日第一刷 新装版 顔に降

記事を読む

『青春ぱんだバンド』(瀧上耕)_書評という名の読書感想文

『青春ぱんだバンド』瀧上 耕 小学館文庫 2016年5月12日初版 青春ぱんだバンド (小学館

記事を読む

『後妻業』黒川博行_書評という名の読書感想文(その2)

『後妻業』(その2) 黒川 博行 文芸春秋 2014年8月30日第一刷 後妻業 ※二部構

記事を読む

『カソウスキの行方』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『カソウスキの行方』津村 記久子 講談社文庫 2012年1月17日第一刷 カソウスキの行方 (

記事を読む

『吉祥寺の朝日奈くん』(中田永一)_書評という名の読書感想文

『吉祥寺の朝日奈くん』中田 永一 祥伝社文庫 2012年12月20日第一刷 吉祥寺の朝日奈くん

記事を読む

『枯れ蔵』(永井するみ)_書評という名の読書感想文

『枯れ蔵』永井 するみ 新潮社 1997年1月20日発行 枯れ蔵 (新潮ミステリー倶楽部)

記事を読む

『合理的にあり得ない』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『合理的にあり得ない』柚月 裕子 講談社文庫 2020年5月15日第1刷 合理的にあり得ない

記事を読む

『死んでいない者』(滝口悠生)_書評という名の読書感想文

『死んでいない者』滝口 悠生 文芸春秋 2016年1月30日初版 死んでいない者 &nb

記事を読む

『朝が来る』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『朝が来る』辻村 深月 文春文庫 2018年9月10日第一刷 朝が来る (文春文庫)

記事を読む

『くちなし』(彩瀬まる)_愛なんて言葉がなければよかったのに。

『くちなし』彩瀬 まる 文春文庫 2020年4月10日第1刷 くちなし (文春文庫)

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『人間タワー』(朝比奈あすか)_書評という名の読書感想文

『人間タワー』朝比奈 あすか 文春文庫 2020年11月10日第1刷

『かか』(宇佐見りん)_書評という名の読書感想文

『かか』宇佐見 りん 河出書房新社 2019年11月30日初版

『希望病棟』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『希望病棟』垣谷 美雨 小学館文庫 2020年11月11日初版

『JR上野駅公園口』(柳美里)_書評という名の読書感想文

『JR上野駅公園口』柳 美里 河出文庫 2017年2月20日初版

『裏アカ』(大石圭)_書評という名の読書感想文

『裏アカ』大石 圭 徳間文庫 2020年5月15日初刷 裏アカ

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑