『ユリゴコロ』(沼田まほかる)_書評という名の読書感想文

『ユリゴコロ』沼田 まほかる 双葉文庫 2014年1月12日第一刷


ユリゴコロ (双葉文庫)

ある一家で見つかった「ユリゴコロ」と題された4冊のノート。それは殺人に取り憑かれた人間の生々しい告白文だった。この一家の過去にいったい何があったのか - 。絶望的な暗黒の世界から一転、深い愛へと辿り着くラストまで、ページを繰る手が止まらない衝撃の恋愛ミステリー! 各誌ミステリーランキングの上位に輝き、第14回大藪春彦賞を受賞した超話題作! (双葉文庫)

ある日実家に立ち寄った亮介は、偶然押入れから数冊のノートを発見します。表紙に〈ユリゴコロ〉と書いてあります。意味はわかりません。捲るとこんな文章があります。

私のように平気で人を殺す人間は、脳の仕組みがどこか普通とちがうのでしょうか。(中略)殺したいから殺すというだけで、罪悪感など持たない私ですが、それでも人殺しが止まるというのなら、(治る薬というのを)やっぱり飲んでみたいものです。どうしてなのか、我ながら不思議です。

読むと、それは幼い頃から衝動に駆られて殺人を繰り返す何者かの〈告白文〉であるのがわかります。書いたのは誰なのか。父か、亡くなった母なのか、あるいは別の誰かの手によるものか。書いてあるのは事実なのか、それとも創作?・・・・

物語は、告白文の内容と(亮介を語り手に)今ある状況とが交互に語られてゆきます。末期がんの父親、施設にいる祖母、彼が経営する〈シャギーヘッド〉(ドッグランを備えた喫茶店)は必ずしも順調とは言えず、更には、将来を誓ったはずの千絵が、ある日突然姿を消して行方知れずになります。

多くの問題を抱え、亮介は言いようの無い絶望感に打ちひしがれています。〈ユリゴコロ〉と題された、異様な書き出しで始まる手記を見つけたのはそんなときのことです。

ノートの他に見覚えのないハンドバッグがあり、中に短く切ったひと束の黒髪が入っています。まるで遺髪のような黒髪に、亮介は先々月に亡くなった母を思い、幼い頃母に感じたある〈違和感〉を思い出します。

今から20年以上昔、彼が4歳くらいの頃、肺炎か何かで長く入院したあとようやく退院して家に帰ったときに、母が別の人に入れ替わってしまったような気がしたのを思い出します。髪の束を見なければ一生思い出すこともなかったであろう奇妙な記憶に促され、亮介は誰が手記を書いたのかをつきとめようと決意します。
・・・・・・・・・
この『ユリゴコロ』という小説は、勿論のこと、単に「ノートを書いたのは誰なのか」を見つけて終わるだけの物語ではありません。見つけた先、そのまた先にある「真実」が何なのかを問いかける物語であるわけです。

謎の人物は、手記の中でこんなことを語ります。

将来の職業のことで悩んだり、甘い恋愛に憧れたりしている学生たちのなかにいると、ユリゴコロのことなど知りもしない彼らに、強い優越感と、もの悲しい羨望とを同時に感じたものです。(中略)子供の頃の医師はきっと、〈拠りどころ〉と言ったのだと、今では思っています。〈感覚的なヨリドコロ〉とか〈認識のヨリドコロ〉とか〈気持ちのヨリドコロ〉とかが、この子にはないと。

おかしな聞き間違いをしたのだといい、けれど、今となってはそんなことは全然問題ではないといいます。ユリゴコロは私のなかに、私だけの言葉として、根を下ろしてしまったのだからと。それはもう訂正もできない、どうすることもできないのだと。

この謎の人物が誰なのかを探る過程で、秘められた家族の謎が明かされてゆきます。描かれているのは途方もない現実、おそらくは誰もしたことがない非道と味わったことのない不幸の連続です。

ここまで痛々しい話を、(沼田まほかるは) なぜ書こうとしたのか。彼女の何がそうさせたのだろう。それこそを知りたいと思います。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


ユリゴコロ (双葉文庫)

◆沼田 まほかる
1948年大阪府生まれ。
大阪文学学校に学ぶ。離婚後、得度して僧侶となる。会社経営等も経験、小説デビューは56歳。

作品 「九月が永遠に続けば」「アミダサマ」「猫鳴り」「彼女がその名を知らない鳥たち」「痺れる」他

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