『田舎でロックンロール』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/14
『田舎でロックンロール』(奥田英朗), 作家別(あ行), 奥田英朗, 書評(あ行)
『田舎でロックンロール』奥田 英朗 角川書店 2014年10月30日初版
これは小説ではありません。ロックに目覚め、ロックと共に過ごした青春時代が、小説家・奥田英朗の原点であることを証明した洋楽体験記です。
1972年の春、13歳のオクダ少年は念願のラジオを買います。親にねだって手に入れたのではなく、お年玉と貯金で自分が買ったものでした。
現在のように家電量販店があるでなし、ましてインターネットのイもない時代の話ですから、オクダ少年がラジオを買ったのは町の小さな電気店でした。
展示品も在庫もなく、カタログで選んで注文するわけです。当時田舎町ではどこも似たようなもので、オクダ少年が暮らす岐阜の各務原もまた同様の田舎町だったのです。
あぁ、分かるなぁ。これ私とそっくり一緒の記憶。私の場合はレコードプレーヤー。高校入学前の休みにアルバイトして、やっと手に入れたのです。
ラジオを手に入れたことで、オクダ少年の生活はガラリと一変します。晩御飯を済ませるとただちに二階の自分の部屋にこもり、ラジオを聴きながら自分の時間を過ごすようになります。
これ、親離れの瞬間ですよね。夕食の後家族揃ってテレビを観ていた団欒はあっさりと魅力を失い、ひたすら独りになりたくなる人生の季節が到来したのです。
オクダ少年の音楽遍歴は岐阜放送の「ヤングスタジオ1430」からスタートを切ります。
まずは、歌謡曲..南沙織、麻丘めぐみ、天地真理..あぁ、やっぱりこれも同じだぁ。私が初めて買ったレコードは、天地真理の『水色の恋』でした。
そして次は、フォーク..吉田拓郎、泉谷しげる、あがた森魚..私は、吉田拓郎と井上陽水。まだLPレコード捨てずに持ってます。何と言ってもNO.1は『氷の世界』なのだ。
この段階を早々にクリアしたオクダ少年の次なる関心は、外国のポップスへと向かいます。大変自然な流れです。
まずはキャッチーなポップスナンバーに惹かれるのですが、その理由がまことに素直に語られています。正直に言うと、私もそうならあなただってきっとそうだったに違いありません。
「惹かれた理由は・・、なぜかしらん。自分でもよくわからん。西洋に対する憧れがあったのか、外国の曲を聴くという行為がインテリっぽく思えたのか、単純に曲がよかったのか・・
たぶんその全部だろう。外国のポップスを聴くと、日本の音楽はどれもみすぼらしく感じ、もう歌謡曲にもフォークにも戻れなくなった。」
かくして彼のフェイヴァリット・プログラムは、ヤンスタから「ホリデイ・ヒット・ポップス」へと移行し、毎週ヒットチャートをチェックしてはせっせと記録するまでになります。
執拗な懇願が功を奏して、遂に父親がステレオを購入すると決めたことにオクダ少年は狂喜します。
これでやっと好きなレコードが死ぬほど聴けるようになる。この日のために貯金をし、最初に買うべきレコードも既にリストアップ済みのオクダ少年でした。
彼が買った最初のレコードは、3枚。
まずビートルズの「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」、ELP「展覧会の絵」、そしてピンク・フロイドの「狂気」でした。
買ったレコードを繰り返し聴く毎日のオクダ少年ですが、彼のコレクションは瞬く間に周囲を圧倒するまでになり、学業はそっちのけで更にロックに傾倒して行くのでした。
中学生からロック音楽にハマったオクダ少年は、高校生の頃になるともはやロックに関する知識は一般のレベルの遥か上を行く領域に達していました。
単に聴いて心地よいものに留まらず、ミュージシャンや楽曲の背景を成す物語にも関心は及んでいくのですが、私の理解はこの辺りが限界です。
最初からマニアを想定して書いていると言う通り、後半のロック談は作者同等もしくはそれ以上の同好の士にお任せしたいと思います。
奥田英朗はその頃台頭してきたパンクや社会派のミュージシャンが嫌いだったと言い、それは今もそうだと書いています。
作家に例えると、好きなのは職人タイプ。口数が多くてテーマ性に頼る作家は、表現力のなさの言い訳に聞こえる、と批判的に書いています。
表には出なくとも、バックできっちりと自分流儀のプレイを見せる奏者になぞらえて、誰か目利きに気づいてもらいたい..。
そんな作家を密かに目指しておるのだよ、と最後は結んでいます。
(参考)
各コマの最後のページでは、当時のアルバムが写真付きで紹介されています。往年のファンにはさぞ懐かしいと思いますよ。
ボーナス・トラックとして、巻末には短編小説『ホリデイ・ヒット・ポップス!』が収録されています。
この本を読んでみてください係数 90/100
◆奥田 英朗
1959年岐阜県岐阜市生まれ。
岐阜県立岐山高等学校卒業。プランナー、コピーライター、構成作家を経て小説家としてデビュー。
作品 「ウランバーナの森」「最悪」「邪魔」「東京物語」「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」「町長選挙」「ララピポ」「オリンピックの身代金」「ナオミとカナコ」他多数
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