『顔に降りかかる雨/新装版』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文
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『顔に降りかかる雨/新装版』(桐野夏生), 作家別(か行), 書評(か行), 桐野夏生
『顔に降りかかる雨/新装版』桐野 夏生 講談社文庫 2017年6月15日第一刷
親友の耀子が、曰く付きの大金を持って失踪した。被害者は耀子の恋人で、暴力団ともつながる男・成瀬。夫の自殺後、新宿の片隅で無為に暮らしていた村野ミロは、耀子との共謀を疑われ、成瀬と行方を追う羽目になる。女の脆さとしなやかさを描かせたら比肩なき著者の、記念すべきデビュー作。江戸川乱歩賞受賞! (講談社文庫)
桐野夏生の小説で、今一番の注目は『夜の谷を行く』(文芸春秋)という作品。既に多くの方がご存じでしょうが、これはかつて日本中を震撼させた過激派組織〈連合赤軍〉にいた名もなき一人の女同志を主人公に、彼女の内なる葛藤とその後の人生を描いた物語です。
その前に(桐野夏生が)書いたのが『猿の見る夢』 という小説で、そのまた前に書いたのが『バラカ』 という小説です。どれもが傑作で、どれかを読んで(桐野夏生の)ファンになったという人が大勢いるのではないかと思います。
これらの本を読む限りにおいて、最初彼女はミステリー作家としてデビュー、江戸川乱歩賞を受賞しているなどとは想像もできないことでしょう。それほどに彼女の書く小説は時と共に変容し、より社会性を帯び、尚切迫した物語となって今に至っています。
最近になって桐野夏生の本を読み出したという人は、『顔に降りかかる雨』 という小説にひどく驚くに違いありません。他に『OUT』 や『柔らかな頬』、『グロテスク』 などといった作品を、(私なんかは)どれほど胸躍らせて読んだことでしょう。
個人的には『玉蘭』 が好きでした。途中やや間延びして読まずにいた時期があるにはあったのですが、『夜また夜の深い夜』 が出てからというもの、また目が離せなくなりました。読まずにいると落ち着かず、読めばいいのにと急かされているような気持ちになります。
※ちなみに、この小説の主人公・村野ミロが登場するシリーズは、このあと『天使に見捨てられた夜』『ローズガーデン』『ダーク』と続いてゆきます。
『顔に降りかかる雨』の単行本第一刷が出たのは1993年9月15日。『夜の谷を行く』は本年(2017年)3月30日の発行です。気付くと初めて読んだときから24年という年月が経過しています。私はもうじき満60歳になります。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆桐野 夏生
1951年石川県金沢市生まれ。
成蹊大学法学部卒業。
作品 「OUT」「グロテスク」「錆びる心」「東京島」「IN」「ナニカアル」「夜また夜の深い夜」「奴隷小説」「バラカ」「猿の見る夢」「夜の谷を行く」他多数
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