『神様の裏の顔』(藤崎翔)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/03/13 『神様の裏の顔』(藤崎翔), 作家別(は行), 書評(か行), 藤崎翔

『神様の裏の顔』藤崎 翔 角川文庫 2016年8月25日初版

神様のような清廉潔白な教師、坪井誠造が逝去した。その通夜は悲しみに包まれ、誰もが涙した。・・・・・のだが、参列者たちが「神様」を偲ぶ中、とんでもない疑惑が。実は坪井は、凶悪な犯罪者だったのではないか・・・・・。坪井の美しい娘、後輩教師、教え子のアラフォー男性と今時ギャル、ご近所の主婦とお笑い芸人。二転三転する彼らの推理は!?  どんでん返しの結末に話題騒然!!  第34回横溝正史ミステリ大賞 《大賞》 受賞の衝撃ミステリ! (角川文庫)

坪井誠造(享年68)は、元教師。物語は彼を弔う通夜に始まり、通夜の終わりとともに幕を閉じます。読経、焼香、法話・喪主挨拶と続き、通夜ぶるまいへと場面を変えます。さらに控室での一幕があり、それで終わりかと思いきや、実は・・・・・

2013年11月某日。舞台は、東京都杉並区〈阿佐ヶ谷葬祭センター〉。葬儀場には大勢の弔問客が参列し、本気の涙を流しています。故人の坪井誠造は、中学校の教師として多くの教え子たちに慕われた、誰もが認める人格者でした。

退職後は就学困難な子どもたちを支援するNPOに参加。家の敷地の一部を利用して建てたアパートは格安の家賃で貸し出し、店子の面倒もよくみる、善良この上ない管理人でもありました。

参列した人々は、口を揃えてこう言います。あの人は、「神様」のような人だった、と。
・・・・・・・・・
通夜のはじめ、そこにいる皆がそう思っていたのが、法要が進むにつれ、生前の坪井の言動に思いもしない疑念が生じます。参列者の一人が呟いたことが発端となり、それを聞いた別の参列者が、(坪井に対して)自分も似たような経験があるのを思い出します。それを言うと、聞いたまた別の人物が、そういえば私にもそんなことがと、話は次第に幾重にも連なってゆきます。

坪井が「神」などというのはまるでデタラメで、実は〈裏の顔〉を持つ凶悪な犯罪者だったのではないか? ・・・・・その真偽について、教員時代の同僚や教え子、実の娘やアパートの店子、はては坪井家の隣家に暮らす主婦までが登場し、喧々諤々の議論にまで発展します。

彼らは坪井の正体を暴こうと躍起になるのですが、それは同時に、彼ら自身の知られたくない過去、できれば隠しておきたい恥ずべき行状を吐露する結果ともなります。

誰もが正直にすべてを告白し、誰かが、何かを隠そうとしています。

控室に集まるメンバーを紹介しましょう。

 坪井晴美 坪井誠造の娘。父の後を追い小学校教師となる。容姿端麗で生真面目な性格。

 坪井友美 晴美の妹の、売れない女優。姉とは正反対の自由奔放な性格。

 斎木直光 坪井誠造の教え子。端整な顔立ちの、スーパーの店長。晴美とは高校の同級生。

 根岸義法 坪井誠造の元同僚の体育教師。厳しい生徒指導で鬼教師と恐れられていた。

 香村広子 坪井家の隣家に住む年輩の主婦。太り気味で少々お節介な性格。

 鮎川茉希 坪井誠造の教え子で、坪井家の敷地内のアパート「メゾンモンブラン」の住人。

 寺島 悠 「メゾンモンブラン」の住人の、売れない若手芸人。

彼ら7人の話は行ったり来たりします。一度に全部を言いません。誰もが本当のことを小分けにして白状します。怖いのは最後だけ。あとは結構笑って読めます。

この本を読んでみてください係数  80/100

◆藤崎 翔
1985年茨城県牛久市生まれ。
東京都在住。高校卒業後、6年間お笑い芸人として活動。

作品 2014年に本作(受賞時「神様のもう一つの顔」)で第34回横溝正史ミステリ大賞を受賞しデビュー。他に「私情対談」「こんにちは刑事(デカ)ちゃん」がある。

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