『ぼくは悪党になりたい』(笹生陽子)_書評という名の読書感想文

『ぼくは悪党になりたい』笹生 陽子 角川書店 2004年6月30日初版


ぼくは悪党になりたい (角川文庫)

 

この小説は、多感な17歳の高校生・兎丸エイジ君の青春記です。

タイトルから想像するに、若者の病んだ精神がズタズタに切り刻まれるような凄惨さに溢れた話かなと思ったのですが、ひどい勘違いでした。

笹生陽子が元来児童文学作家であることが影響してかどうか、作品は全体として善意に包まれた暖かい色調の仕上がりになっています。

良く言えば、軽やかで最後までストレスなく読めます。逆に悪く言ってしまうと、薄味で刺激不足ということでしょうか。

・・・・・・・・・・

エイジの家は母子家庭で、家族は母親のユリコ、父親の違う弟のヒロトの3人家族です。

母親のユリコは、シングルマザー。輸入雑貨のバイヤーとして、年に数回世界各地に新商品を買いつけに行くというキャリアウーマンです。

若い頃からユリコは奔放で、エイジもヒロトも実の父親が誰なのか知らないまま育っています。

エイジは日頃から母親代わりで、炊事洗濯、ゴミ捨てなど家事全般をこなす、いまどき珍しい「できた」高校生でした。

ユリコが長期の海外出張で家を留守にした途端、事は発生します。

まず、弟のヒロトが熱を出して寝込んでしまいます。

修学旅行をまじかにしたエイジは考えあぐねた末、母親の「緊急時用」のアドレス帳から適当に選んだ「杉尾ヒデノリ」という男性に電話をして窮状を訴えます。

杉尾はすぐに駆けつけるのですが、「こんなに早く出会えるとは思ってなかった。驚いた」...妙なせりふを呟きます。

 

一方、エイジには羊谷という、めっぽうイケメンの親友がいました。ある日、羊谷の恋人・アヤからエイジは相談を受けます。

羊谷の様子が最近おかしい、浮気の調査をしてほしいとアヤは言うのです。

エイジが直接羊谷に問い質すと、羊谷はおよそ予想もしない奇妙なことの経緯を説明し出すのでした。

羊谷のことで頻繁に連絡を取り合うようになったエイジとアヤはやがて男女の仲になり、それは思わぬ事態へと展開して行きます。

・・・・・・・・・・

羊谷、杉尾、そしてアヤのキャラが際立ちます。母親のユリコは、思ったほどの絡みがなくて少々影が薄い感じです。

最初に書いたように、登場人物は基本的に善意ある常識人ばかりです。

アヤだけは最後までワルなのですが、家がかなりの資産家で親があっさりと娘の尻拭いをしてしまうところなどはちょっと拍子抜けしてしまいます。

いずれにせよ、読む前に勝手にイメージした悪意はどこにも見当たりません。(あくまでも私のイメージです)

エイジが『ぼくは悪党になりたい』などと思うこと自体が、彼がすこぶる真っ当で年齢に相応しい若者である何よりの証拠なのです。

 

この本を読んでみてください係数 70/100


ぼくは悪党になりたい (角川文庫)

◆笹生 陽子

1964年東京都生まれ。

慶應義塾大学文学部人間関係学科人間科学専攻卒業。

作品 「きのう、火星に行った。」「ぼくらのサイテーの夏」「さよならワルガキング」「楽園のつくりかた」「世界がぼくを笑っても」「空色バトン」など

◇ブログランキング

応援クリックしていただけると励みになります。
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ

関連記事

『ひざまずいて足をお舐め』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『ひざまずいて足をお舐め』山田 詠美 新潮文庫 1991年11月25日発行 ひざまずいて足をお舐め

記事を読む

『ハレルヤ』(保坂和志)_書評という名の読書感想文

『ハレルヤ』保坂 和志 新潮文庫 2022年5月1日発行 この猫は神さまが連れてきた

記事を読む

『ばにらさま』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『ばにらさま』山本 文緒 文春文庫 2023年10月10日 第1刷 日常の風景の中で

記事を読む

『本と鍵の季節』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『本と鍵の季節』米澤 穂信 集英社 2018年12月20日第一刷 本と鍵の季節 (単行本)

記事を読む

『放課後の音符(キイノート)』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『放課後の音符(キイノート)』山田 詠美 新潮文庫 1995年3月1日第一刷 放課後の音符(キ

記事を読む

『白昼夢の森の少女』(恒川光太郎)_書評という名の読書感想文

『白昼夢の森の少女』恒川 光太郎 角川ホラー文庫 2022年5月25日初版 地獄を見

記事を読む

『本を読んだら散歩に行こう』(村井理子)_書評という名の読書感想文

『本を読んだら散歩に行こう』村井 理子 集英社 2022年12月11日第3刷発行

記事を読む

『ぼぎわんが、来る』(澤村伊智)_書評という名の読書感想文

『ぼぎわんが、来る』澤村 伊智 角川ホラー文庫 2018年2月25日初版 ぼぎわんが、来る (

記事を読む

『浮遊霊ブラジル』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『浮遊霊ブラジル』津村 記久子 文芸春秋 2016年10月20日第一刷 浮遊霊ブラジル

記事を読む

『風葬』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『風葬』桜木 紫乃 文春文庫 2016年12月10日第一刷 風葬 (文春文庫) 釧路で書道教

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『汚れた手をそこで拭かない』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『汚れた手をそこで拭かない』芦沢 央 文春文庫 2023年11月10

『小島』(小山田浩子)_書評という名の読書感想文

『小島』小山田 浩子 新潮文庫 2023年11月1日発行

『あくてえ』(山下紘加)_書評という名の読書感想文

『あくてえ』山下 紘加 河出書房新社 2022年7月30日 初版発行

『ママナラナイ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『ママナラナイ』井上 荒野 祥伝社文庫 2023年10月20日 初版

『猫を処方いたします。』 (石田祥)_書評という名の読書感想文

『猫を処方いたします。』 石田 祥 PHP文芸文庫 2023年8月2

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑