『やりたいことは二度寝だけ』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『やりたいことは二度寝だけ』津村 記久子 講談社文庫 2017年7月14日第一刷


やりたいことは二度寝だけ (講談社文庫)

毎日アッパッパー姿で会社に行き、仕事の合間に1.5Lの紅茶を飲み、帰りは商店街をふらふら歩く。検索やノート集め、炭水化物、サッカーをこよなく愛し、からあげ王子に思いを馳せ・・・・・・。日々のささやかでどうでもいい出来事を〈マヌケ面白い〉視点で綴る、超庶民派芥川賞作家による脱力系初エッセイ集。(講談社文庫)

最初読んだのが 『まともな家の子供はいない』 という小説で、読むとたちまち好きになり、その後何冊かを続けて読みました。

小説に出てくる人物のうち、特に私は彼女(津村記久子)が描く「独身女性」がとても好きです。(そしてそれはもう「彼女自身」であるとしか思えないのですが)折に触れて吐く(彼女の)自虐を込めた「本音」。その毒舌ぶりが、たまらなく快感なのです。

おしなべて彼女は、これ見よがしに女の武器を使い男に媚びる女子に対して許し難い感情を抱いているように見受けられます。それはあまりに見え透いた態度で、同じ性を持つ人間として見るに堪えない恥ずべき行為ではないかと。

家にいるとき着ているのは決まってよれよれのスウェットの上下。化粧もせずスッピンでいるのに、いざ外出となると、それまでとは人が変わったように着飾って出かけて行きます。男と逢うとなれば尚更で、まさかに備え、下着まで替えてゆきます。

彼女は、おそらくその「落差」に堪えられないのではないかと思います。あまりの変わり身に唖然とし、あざと過ぎて、とてもじゃないが自分はそんなふうに振る舞えない。

お色気ムンムンのフェロモン女とは真逆の自分をして、一方では否定しながら、しかしまた一方で、確かに自分もそんなことではありはしまいかと、密かにそれを羨んでいるのではないかと・・・・・

こんな人は、当たり前ですが、ひどく生き辛い。一皮むいた人の本音がわかりすぎるくらいにわかるというのはむしろ負の才能で、普通なら見なくていいもの、感じなくていいことに一々反応し、一人勝手にショックを受けたり落ち込んだりする。その挙句、

職場で、電車やバスの中で、友達同志の飲み会の席で、休みの日に一人いる自分の部屋で、人知れず世間に対して毒舌を吐き、それでいっとき溜飲を下げ、思い通りにいかない人生をそれでもどうにかこうにか立て直そうと躍起になる。

どちらかといえば、(他人から見ると)それは悲劇というより喜劇に思え、笑えるのですが、本人にしてみれば、間違っても笑わそうなどとは思っていないということです。

真面目であるがゆえに、他人には尚更滑稽に思えることもあるわけで、自らの経験を元に、それをあますところなくみせてくれているのが、この人(津村記久子)が書く小説ではないかと。

そんな彼女が、日々どんなことに関心を寄せ、何を思って生きているのか。それがとてもよくわかる内容になっています。

「あとがき」には、

本書のどうでもよさについて、自虐も言い訳もしない。何も残らないし、ひたすら地味で意味も無いけれど、読んでる間少し楽になった、と感じていただけたらこれ幸いである。

とあり、帯にでっかく「地味でも、アホでも、生きてゆけます」とあります。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


やりたいことは二度寝だけ (講談社文庫)

◆津村 記久子
1978年大阪府大阪市生まれ。
大谷大学文学部国際文化学科卒業。

作品 「まともな家の子供はいない」「君は永遠にそいつらより若い」「ポトスライムの舟」「ミュージック・ブレス・ユー!! 」「とにかくうちに帰ります」「浮幽霊ブラジル」他多数

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