『遊佐家の四週間』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『遊佐家の四週間』朝倉 かすみ 祥伝社文庫 2017年7月20日初版


遊佐家の四週間 (祥伝社文庫)

羽衣子(ういこ)の親友・みえ子が遊佐家に四週間ほど居候することになった。みえ子は異様な容貌だが、大富豪の娘。美しく貧しい家庭で育った羽衣子とは正反対。二人で支え合ってきたが、やがて羽衣子は 「まともな家庭」 を手に入れる。その遊佐家に住み始めたみえ子は家族の心を掴み、完璧だったはずの家庭に徐々に綻びが見え始め・・・・。二人の女の歪な友情が家族に与えたものとは?(祥伝社文庫)

羽衣子とみえ子の友情は、「見た目はいいがろくでなしの弟・孝史」 と 「催促無しの金銭的援助」 を間に挟み、薄皮一枚の危うさで成り立っているのではないか -

いずれ何かの拍子に思いもかけない不都合が生じて、まるでそんなものはなかったかのように跡形もなく消え去ってしまうのだろう。そう思って読んでいました。

みえ子と出合うまでの羽衣子は、目を瞠るばかりの美貌を持ちながら、それに気付かず、只々極貧の生活を耐え忍んでいます。母は必要以上に働こうとしません。弟・孝史は見た目はいいのですが、ろくに学校にも行かず不良仲間とつるんでばかりいます。

そのうち孝史は家に帰って来なくなり、みえ子の家に行くようになります。母は一切仕事をしなくなり、寝てばかりになります。父はとうにいません。すべてが八方塞がりで、どうにも立ち行かなくなりかけたとき、みえ子が羽衣子に救いの手を差し伸べます。

みえ子の家は大の資産家で、羽衣子の苦境を知ると、みえ子は羽衣子に対し督促なしの金銭的援助を申し出ます。みえ子の両親はそれをいたく喜びます。娘のみえ子にとって羽衣子ははじめてできた友だちで、何より両親はそのことを喜んだのでした。

それまでのみえ子には - じつは羽衣子も(別の理由ではあったのですが)- 友だちと呼べる人物が誰一人いません。不幸にもみえ子は、それはそれは「醜女」だったのです。みえ子にはじめて相対したときの羽衣子の息子 - 高校生の正平曰く、

特徴がありすぎて、見ているだけで、目と脳がフル回転する - 驚くより先に呆然とし、動揺し困惑する。言語化が追いつかず、〈なんかすげえ〉と思う - そんな事態であったわけです。

自分のことを〈提灯お岩〉と称し、ゆでダコ色の歯茎をのぞかせてだらしなく笑い、べちゃべちゃした喋り方をする、異様な風貌の43歳の女 - みえ子が居候としてはじめて羽衣子の家にやって来たとき、

羽衣子を除く家族の面々 - 遊佐家の主の賢右と娘のいずみ、そして正平 - は、羽衣子のかつての同級生で友だちだというこの中年女の、想像を絶する異様な容貌を前にして、どう対処していいかがわからずに激しく動揺します。

中年女が腕にかけていたコートに顔をうずめ、くくくっと笑う。女と至近距離で話すことに慣れていない、うぶな坊やをからかうような笑い方だった。- ちがうし。正平は口のなかで言った。ていうか、ありえないし、もうほんと、いろんな意味でありえないし。

という、それは甚だしく感情を掻き乱されるほどの容姿だったのです。
・・・・・・・・・
みえ子は一人住まいのマンションをリフォームするため、四週間の間、遊佐家に居候することになります。実家は窮屈で嫌だというみえ子に対し、それは羽衣子が一方的に提案したことでもありました。

羽衣子にはある企みがあり、家族には内緒で、わざとそうなるように仕向けたことでした。ところがみえ子の同居は、羽衣子の思いとは裏腹に、遊佐家にとってこれまで経験したことのない違う空気をもたらすことになります。

みえ子はすぐに遊佐家の家庭に馴染んでゆきます。賢右がそうならいずみもそう、正平までもがみえ子とえらく仲良くなってゆきます。(羽衣子にない)みえ子の明け透けな態度に、打てば響くもの言いに、次第次第に好意を抱くようになります。

その過程こそが圧巻で、裏に隠された(羽衣子とみえ子の)歪な関係がいつバレるかとハラハラしながらも、そうはならない不思議な友情。その機微をとくとご賞味ください。但し、それが友情と呼べるものなら、ということですが。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


遊佐家の四週間 (祥伝社文庫)

◆朝倉 かすみ
1960年北海道小樽市生まれ。
北海道武蔵女子短期大学教養学科卒業。

作品 「田村はまだか」「夏目家順路」「玩具の言い分」「感応連鎖」「肝、焼ける」「声出していこう」「ロコモーション」「恋に焦がれて吉田の上京」など

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