『本屋さんのダイアナ』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/11 『本屋さんのダイアナ』(柚木麻子), 作家別(や行), 書評(は行), 柚木麻子

『本屋さんのダイアナ』柚木 麻子 新潮文庫 2016年7月1日発行

私の名は、大穴(ダイアナ)。おかしな名前も、キャバクラ勤めの母が染めた金髪も、はしばみ色の瞳も大嫌い。けれど、小学三年生で出会った彩子がそのすべてを褒めてくれた - 。正反対の二人だったが、共通点は本が大好きなこと。地元の公立と名門私立、中学で離れても心はひとつと信じていたのに、思いがけない分かれ道が・・・・・・・。少女から大人に変わる十余年を描く、最強のガール・ミーツ・ガール小説。(新潮文庫)

この小説は、小学三年生からほぼ二十歳に至る、少女から大人に変わる二人の女性の心の変遷を、世界の児童文学(=「少女小説」)の名作になぞらえて描かれた物語です。

ガール・ミーツ・ガール小説(!?)、というらしい。何をもって「最強」なのかはわかりませんが、いずれにせよ、本を読む習慣のない人にはちょっと敷居が高い、そんな感じがする本です。

さて、今回の『本屋さんのダイアナ』は広い意味で、『赤毛のアン』の本歌取り作品と言ってもいいと思う。ただのパスティーシュではない。(パスティーシュ:作風の模倣のこと)

まずはガーリッシュ(派手な。けばけばしいの意)な装丁とタイトルだが、そんなイメージは読み始めてすぐに、心地よく裏切られる。ダブルヒロインのひとりの登場シーンから見てみよう。小学校三年生、新しいクラスでの自己紹介の場面だ。(解説より抜粋)

「矢島ダイアナです。本を読むのが好きです」
出来るだけ小さな声で言い、すぐさま椅子に腰を下ろす。周囲と目を合わさないように膝小僧を見つめた。皆がひそひそ話しているのがわかる。

「ダイアナだって! あの子、外国の子? 」
「違うよ。私、二年の時一緒だったけど、日本人だよ。確か、公園の近くのアパートにお母さんと二人で住んでるの」
「へえ、でも、髪が金色だよ」

「あれ、根っこは黒いじゃん」
(中略)
「ねー、ダイアナってどういう字書くの? カタカナ? 」
「・・・・・・・大きい穴」
消え入るような声でつぶやくと、どっと笑いが起きた。

16歳でダイアナを産み、その後キャバクラで働いている彼女の母は、それがかっこいいので(本名ではなく)自分のことを「ティアラ」と呼んでいます。ダイアナの髪が金髪なのは、それが良いと信じ、ティアラがさせていることです。

ダイアナという名前については、彼女が赤ん坊の頃に離別した父親が競馬狂いで、世界一ラッキーな名前だというので付けられたのですが、当の本人はそれをひどく恨みに思っています。おかしな名前と金髪のせいで、彼女はいつもいじめられてばかりいます。

それまでのダイアナには友だちがいません。「彩子ちゃん」はまさにダイアナの救世主のごとくに彼女の前に現われます。それまではダイアナが忌み嫌っていた(自分に纏わる)すべてのことを、生まれも育ちも違う良家の娘・彩子は、逆に羨ましいと言い、ダイアナのする事なす事全部を褒めてくれます。

ダイアナと彩子は、すぐに「腹心の友」となります。ところが二人が公立と私立、別々の中学校へ進学し、(当然ながら)高校もまた別で、会わないうちに10年近くが経つと、二人はまるで人が違ったように変化を遂げます。

名前や母親のせいで萎縮してばかりいたダイアナは望む書店の店員となり、大学生になった彩子は、やるべきことが見つけ出せずに、チャラい男の餌食になります。

※この小説には『秘密の森のダイアナ』という架空の物語が登場します。そこに出てくる「自分の呪いを解くことができるのは、自分だけ」というメッセージが、とても重要なモチーフになっています。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆柚木 麻子
1981年東京都世田谷区生まれ。
立教大学文学部フランス文学科卒業。

作品 「終点のあの子」「ナイルパーチの女子会」「ランチのアッコちゃん」「伊藤くんA to E」「その手をにぎりたい」他多数

関連記事

『ポラリスが降り注ぐ夜』(李琴峰)_書評という名の読書感想文

『ポラリスが降り注ぐ夜』李 琴峰 ちくま文庫 2022年6月10日第1刷 レズビア

記事を読む

『夫婦一年生』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『夫婦一年生』朝倉 かすみ 小学館文庫 2019年7月21日第2刷発行 新婚なった夫

記事を読む

『ハレルヤ』(保坂和志)_書評という名の読書感想文

『ハレルヤ』保坂 和志 新潮文庫 2022年5月1日発行 この猫は神さまが連れてき

記事を読む

『ひなた弁当』(山本甲士)_書評という名の読書感想文

『ひなた弁当』山本 甲士 小学館文庫 2019年3月20日第9刷 人員削減を行うこ

記事を読む

『ふる』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『ふる』西 加奈子 河出文庫 2015年11月20日初版 繰り返し花しすの前に現れる、何人も

記事を読む

『ひざまずいて足をお舐め』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『ひざまずいて足をお舐め』山田 詠美 新潮文庫 1991年11月25日発行 SMクラブの女王様が、

記事を読む

『デッドエンドの思い出』(よしもとばなな)_書評という名の読書感想文

『デッドエンドの思い出』よしもと ばなな 文春文庫 2006年7月10日第一刷 以下は、アマゾン

記事を読む

『本と鍵の季節』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『本と鍵の季節』米澤 穂信 集英社 2018年12月20日第一刷 米澤穂信の新刊 『

記事を読む

『百年泥』(石井遊佳)_書評という名の読書感想文

『百年泥』石井 遊佳 新潮文庫 2020年8月1日発行 豪雨が続いて百年に一度の洪

記事を読む

『かわいい結婚』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『かわいい結婚』山内 マリコ 講談社文庫 2017年6月15日第一刷 結婚して専業主婦となった29

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『僕の神様』(芦沢央)_書評という名の読書感想文

『僕の神様』芦沢 央 角川文庫 2024年2月25日 初版発行

『存在のすべてを』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『存在のすべてを』塩田 武士 朝日新聞出版 2024年2月15日第5

『我が産声を聞きに』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『我が産声を聞きに』白石 一文 講談社文庫 2024年2月15日 第

『朱色の化身』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『朱色の化身』塩田 武士 講談社文庫 2024年2月15日第1刷発行

『あなたが殺したのは誰』(まさきとしか)_書評という名の読書感想文

『あなたが殺したのは誰』まさき としか 小学館文庫 2024年2月1

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑