『月蝕楽園』(朱川湊人)_書評という名の読書感想文

『月蝕楽園』朱川 湊人 双葉文庫 2017年8月9日第一刷


月蝕楽園 (双葉文庫)

癌で入院している会社の後輩。上司から容態がよくないことを知らされ、伝えてほしいことがあると言われた私は、激しい抵抗を感じながら病院に行く。そして病室を前に、逡巡した。- このまま帰ったほうがいいのかもしれない。なぜなら・・・・・・・(「みつばち心中」)。みつばちのほか、金魚、蜥蜴、猿、孔雀が短編の題名になった作品集。そのどれもが重く、切なく、登場人物たちの「その後」が気になる恋愛小説。(双葉文庫)

みつばち心中
噛む金魚
夢見た蜥蜴
眠れない猿
孔雀墜落

以上、五話からなる短編集。『月蝕楽園』 がそうなら、各々に付いたタイトルがまた妖しい。不穏なような、ありもしない世界のことが書いてあるような感じがします。人はそれを 〈ノスタルジック・ホラー〉 などと呼びます。

全編に共通するのは 「恋愛」。但し、見た目それはとても 〈アブノーマル〉 なかたちをしています。倒錯した性愛であるとか、夫婦であるのに端からセックスレスであるとか、異形にしか愛を感じない男であるとか、

多数派に対し、どこか歪な、少数の人のことが語られています。猿のような顔に生まれ、何ひとつ取り柄もない男の恋愛の顛末であるとか、身体と心の性が違う青年の、(あくまでも女性であろうとする) 切ない思いが招く災いであるとか、

描き出しているのは、望んでそうなったわけではない人たちの、望んでもいない事態に対する行き場のない〈感情〉と、それ故自分を縛り、自分を否定するしかない言いようのない〈悲しみ〉です。

彼女らは傷つき、自分を責めます。彼らは一縷の望みを託し彼女に賭けるのですが、事は願うようには成就しません。ただでさえ痛めつけられているのに、彼ら彼女らは、結局のところそれを上積みされ、報われず、しばし言葉を失うことになります。

※中でオススメなのは 「夢見た蜥蜴」 でしょうか。ちょっと昔懐かしい江戸川乱歩の短編を読んでいるような気分になります。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


月蝕楽園 (双葉文庫)

◆朱川 湊人
1963年大阪府生まれ。
慶應義塾大学文学部国文学科卒業。

作品 「フクロウ男」「花まんま」「白い部屋で月の歌を」「太陽の村」「鏡の偽乙女 薄紅雪華紋様」「遊星ハグルマ装置」「さくら秘密基地」「なごり歌」他多数

関連記事

『回遊人』(吉村萬壱)_書評という名の読書感想文

『回遊人』吉村 萬壱 徳間書店 2017年9月30日初刷 回遊人 (文芸書) 妻か、妻の友人

記事を読む

『グ、ア、ム』(本谷有希子)_書評という名の読書感想文

『グ、ア、ム』本谷 有希子 新潮文庫 2011年7月1日発行 グ、ア、ム (新潮文庫)

記事を読む

『グラニテ』(永井するみ)_書評という名の読書感想文

『グラニテ』永井 するみ 集英社文庫 2018年2月25日第一刷 グラニテ (集英社文庫)

記事を読む

『グロテスク』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『グロテスク』桐野 夏生 文芸春秋 2003年6月30日第一刷 グロテスク  

記事を読む

『隠し事』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『隠し事』羽田 圭介 河出文庫 2016年2月20日初版 隠し事 (河出文庫) &nbs

記事を読む

『岸辺の旅』(湯本香樹実)_書評という名の読書感想文

『岸辺の旅』湯本 香樹実 文春文庫 2012年8月10日第一刷 岸辺の旅 (文春文庫)

記事を読む

『カソウスキの行方』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『カソウスキの行方』津村 記久子 講談社文庫 2012年1月17日第一刷 カソウスキの行方 (

記事を読む

『玉蘭』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『玉蘭』桐野 夏生 朝日文庫 2004年2月28日第一刷 玉蘭 (文春文庫)  

記事を読む

『私の息子はサルだった』(佐野洋子)_書評という名の読書感想文

『私の息子はサルだった』佐野 洋子 新潮文庫 2018年5月1日発行 私の息子はサルだった (

記事を読む

『彼女がその名を知らない鳥たち』(沼田まほかる)_書評という名の読書感想文

『彼女がその名を知らない鳥たち』沼田 まほかる 幻冬舎文庫 2009年10月10日初版 彼女が

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『ユートピア』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『ユートピア』湊 かなえ 集英社文庫 2018年6月30日第一刷

『暗幕のゲルニカ』(原田マハ)_書評という名の読書感想文

『暗幕のゲルニカ』原田 マハ 新潮文庫 2018年7月1日発行

『もう「はい」としか言えない』(松尾スズキ)_書評という名の読書感想文

『もう「はい」としか言えない』松尾 スズキ 文藝春秋 2018年6月3

『あこがれ』(川上未映子)_書評という名の読書感想文

『あこがれ』川上 未映子 新潮文庫 2018年7月1日発行 あこ

『泥濘』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『泥濘』黒川 博行 文藝春秋 2018年6月30日第一刷 泥濘

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑