『十六夜荘ノート』(古内一絵)_書評という名の読書感想文
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『十六夜荘ノート』(古内一絵), 作家別(は行), 古内一絵, 書評(あ行)
『十六夜荘ノート』古内 一絵 中公文庫 2017年9月25日初版
英国でこの世を去った大伯母・玉青から、高級住宅街にある屋敷「十六夜荘」を遺された雄哉。思わぬ遺産に飛びつくが、大伯母は面識のない自分に、なぜこの屋敷を託したのか? 遺産を受け取るために、親族の中で異端視されていた大伯母について調べるうちに、「十六夜荘」にこめられた大伯母の想いと、そして「遺産」の真の姿を知ることになり - 。(中公文庫)
何だか散漫な気持ちのまま読み終えてしまいました。書いてある内容ほどには感動できないでいます。思うに、偏にそれは「表紙」と「タイトル」のせいではないかと。そんな感じがします。
(とりあえず大まかなところを言いますと)
一方は、華族という身分に翻弄されながらも、戦前から戦中、戦後という激動の時代を生き抜いた、笠原玉青という女の人生。
もう一方が、マーケティング会社で、エリート社員として効率と結果に固執し最年少の管理職となり、がむしゃらにやってきた己が道以外の道を否定してきた、大崎雄哉という男の人生。玉青は雄哉の大伯母で、けれど雄哉は、およそ玉青を知らないでいます。
物語は、昭和十三年から後の玉青と今を生きる雄哉 - 二つの人生を追いながら交互に綴られ、はじめ何も知らずにいた雄哉は、やがて、かつて幼い自分を抱いた玉青の深い愛情と、終生変わらぬ固い決意を知ることになります。
言われてみれば、たしかにこれは「大河小説」で、後半にかけての玉青の生きざまなどはいたく胸を突かれもします。であるからこそ、
いっそ玉青に限っての物語ならと思うのは、私ばかりでしょうか。雄哉の話が余計で、あげく極端に過ぎ、鼻に付いて離れません。それが玉青の印象を軽くも薄くもしているように思えてなりません。
(それはともかく、それとは別に、ここで特に言いたいのは)
あの、違和感満載の「表紙」のことです。(これは文庫のことですが)中央に大きく描かれている女性は、まさか玉青なのでしょうか? およそ中に登場する彼女のイメージとは違う女性をなぜ表紙にしたのか、その意図がまるで理解できません。
表紙の絵がそうなら「タイトル」もそう。『十六夜荘ノート』というタイトルに秘められたある深い想い - というのもわからぬではないですが、(それは読んだから言えるのであって)こんなタイトルでは、ぜひにも読んでみたいという気持ちが湧いてきません。
外面(そとづら)と内容が著しくアンバランスで落ち着かず、結果ちぐはぐな、中途半端な印象だけが残ることになります。重厚な物語であるべきはずのものが、あれではまるでメルヘンチックな乙女の話のような、そんなひどい勘違いをされてしまうかもしれません。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆古内 一絵
1966年東京都生まれ。
日本大学芸術学部映画学科卒業。
作品 「快晴フライング」「風の向こうへ駆け抜けろ」「蒼のファンファーレ」「痛みの道標」「花舞う里」他
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