『冷蔵庫を抱きしめて』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『冷蔵庫を抱きしめて』荻原 浩 新潮文庫 2017年10月1日発行


冷蔵庫を抱きしめて (新潮文庫)

幸せなはずの新婚生活で摂食障害がぶり返した。原因不明の病に、たった一人で向き合う直子を照らすのは(表題作)。DV男から幼い娘を守るため、平凡な母親がボクサーに。生きる力湧き上がる大人のスポ根小説(「ヒット・アンド・アウェイ」)。短編小説の名手が、ありふれた日常に訪れる奇跡のような一瞬を描く。名付けようのない苦しみを抱えた現代人の心を解き放つ、花も実もある8つのエール。(新潮文庫)

単純な私は、タイトルを見てすぐに竹内まりやの『家に帰ろう』という歌を思い出しました。

恋するには遅すぎると
言われる私でも
遠いあの日に
迷い込みたい気分になるのよ
キスすることもなくなった
初恋のあなたが

嫌いになったわけじゃないけど
素直になれないの
冷蔵庫の中で凍りかけた愛を
温めなおしたいのに
見る夢が違う 着る服が違う
いちどは信じ合えたふたりなら

心帰る場所はひとつ
いつものMy sweet sweet home

単に冷蔵庫つながりというだけで、もちろんのこと、この通りの小説というわけではありません。しかし、あながち別ものだとも言い切れない。どこか似たような雰囲気があります。

表題作の「冷蔵庫を抱きしめて」は、新婚旅行から帰国したばかりの新妻・直子が、夫・越朗に関して、付き合った当初から今に至るまで知ることのなかった「異質な存在」としての彼を、如何様に取り込んで、どう「消化」してゆくかという物語です。

同い年で、何もかもが相性抜群だと思っていた越朗との新生活で、直子は、実は越朗の日常的な食事の好みが彼女とはまるで違うとわかり、ひどく混乱することになります。それを気にするあまり、彼女はかつて患っていた摂食障害をぶり返します。

最初は拒食症。それが反転し、次は過食症になります。仕事帰りのスーパーで、直子は大量の食料を買うようになります。料理を頑張るつもりで買った冷蔵庫は大型で、使い始めの頃はがらんとしていたものが、今はぎっしりと、余すところなく食材が詰まっています。

結局は吐き出してしまうのですが、今の直子は、冷蔵庫が隙間なく埋まっていないことには安心できません。そこにある食べものたちが自分の体の中の隙間も埋めてくれる。彼女はそんな気持ちになっています。

(と、まあ)直接的には摂食障害の話でありながら、この物語が言わんとするのは、好みや趣味や考え方がまるで一緒に思えた夫・越朗でさえも、一皮むけば自分が知らない世界の「異人」であるということ。

「異人」=「異物」をそれとして受け入れ、いかに馴染み、馴染ませてゆくのか。それが「愛」本来の形で、互いの夢や着る服の好みが違えども「だから一緒に暮らせない」などということはないのだということ - 直子より先に、越朗はそれを十分理解しています。

幻だけの恋ならば
100回でもできる
それならふたりここで暮らそう
100才になるまで

居心地のよさに
決して甘えないで
やさしさも忘れないで
好きな歌違う 選ぶ絵も違う
でもいちばん私を知っている

見飽きたはずのあなたでも
いとしいMy sweet sweet home
いつものMy sweet sweet home
いとしいMy sweet sweet home

 

この本を読んでみてください係数 85/100


冷蔵庫を抱きしめて (新潮文庫)

◆荻原 浩
1956年埼玉県大宮市生まれ。
成城大学経済学部卒業。

作品 「オロロ畑でつかまえて」「コールドゲーム」「明日の記憶」「誰にも書ける一冊の本」「あの日にドライブ」「四度目の氷河期」「二千七百の夏と冬」「海の見える理髪店」他多数

関連記事

『新装版 人殺し』(明野照葉)_書評という名の読書感想文

『新装版 人殺し』明野 照葉 ハルキ文庫 2021年8月18日新装版第1刷 新装版 人殺し

記事を読む

『さよなら、ビー玉父さん』(阿月まひる)_書評という名の読書感想文

『さよなら、ビー玉父さん』阿月 まひる 角川文庫 2018年8月25日初版 さよなら、ビー玉父

記事を読む

『八月は冷たい城』(恩田陸)_書評という名の読書感想文

『八月は冷たい城』恩田 陸 講談社タイガ 2018年10月22日第一刷 八月は冷たい城 (講

記事を読む

『悪寒』(伊岡瞬)_啓文堂書店文庫大賞ほか全国書店で続々第1位

『悪寒』伊岡 瞬 集英社文庫 2019年10月22日第6刷 悪寒 (集英社文庫) 男は

記事を読む

『クジラの彼』(有川浩)_書評という名の読書感想文

『クジラの彼』有川 浩 角川文庫 2010年6月25日初版 クジラの彼 (角川文庫) &

記事を読む

『1ミリの後悔もない、はずがない』(一木けい)_書評という名の読書感想文

『1ミリの後悔もない、はずがない』一木 けい 新潮文庫 2020年6月1日発行 1ミリの後悔

記事を読む

『連鎖』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『連鎖』黒川 博行 中央公論新社 2022年11月25日初版発行 経営に行き詰った

記事を読む

『オロロ畑でつかまえて』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『オロロ畑でつかまえて』 荻原 浩 集英社 1998年1月10日第一刷 オロロ畑でつかまえて

記事を読む

『4TEEN/フォーティーン』(石田衣良)_書評という名の読書感想文

『4TEEN/フォーティーン』石田 衣良 新潮文庫 2005年12月1日発行 4TEEN (新

記事を読む

『東京零年』(赤川次郎)_書評という名の読書感想文

『東京零年』赤川 次郎 集英社文庫 2018年10月25日第一刷 東京零年 (集英社文庫)

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『自転しながら公転する』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『自転しながら公転する』山本 文緒 新潮文庫 2022年11月1日発

『呪い人形』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『呪い人形』望月 諒子 集英社文庫 2022年12月25日第1刷

『騒がしい楽園』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『騒がしい楽園』中山 七里 朝日文庫 2022年12月30日第1刷発

『モナドの領域』(筒井康隆)_書評という名の読書感想文

『モナドの領域』筒井 康隆 新潮文庫 2023年1月1日発行

『ザ・ロイヤルファミリー』(早見和真)_書評という名の読書感想文

『ザ・ロイヤルファミリー』早見 和真 新潮文庫 2022年12月1日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑