『仮面病棟』(知念実希人)_書評という名の読書感想文

『仮面病棟』知念 実希人 実業之日本社文庫 2014年12月15日初版


仮面病棟 (実業之日本社文庫)

強盗犯により密室と化す病院 息詰まる心理戦の幕が開く!
療養型病院に強盗犯が籠城し、自らが撃った女の治療を要求した。事件に巻き込まれた外科医・速水秀悟は女を治療し、脱出を試みるうち、病院に隠された秘密を知る - 。閉ざされた病院でくり広げられる究極の〈本格ミステリー × 医療サスペンス〉。著者初の文庫書き下ろし!  解説/法月綸太郎 (実業之日本社文庫)

『仮面病棟』の舞台となる田所病院は、かつて精神科病院だった時の名残で、刑務所のような鉄格子の窓と扉が備えつけられた薄気味悪い建物である。当直バイトの秀悟が病院の構造を知りつくしていないことや、寝たきりの患者たちを見捨てられないことなど、脱出ゲームかゾンビ・ホラーを思わせる状況だが、読み進めていくうちに、作者の狙いがはっきりと見えてくるはずだ。本書はクローズド・サークルを舞台にした、トリッキーな本格ミステリーなのである。(解説より)
※「クローズド・サークル」とは、外部との連絡が断たれた場所に複数の人間が閉じこめられ、その閉ざされた空間内で殺人(往々にして連続殺人)が発生する設定のことをいう。
・・・・・・・・・
「もう知っていることは全部話しましたよ。なにが不満なんですか? 」
すでに十時間以上も陰鬱な空気が充満した部屋に閉じ込められている。この狭い空間で、暑苦しい刑事たちと過ごすのもそろそろ限界だった。机に片肘をついた金本という名の中年刑事は、疑わしげに目を細めながら秀悟を睨め上げてくる。

「不満っていうわけじゃないんですよ、速水先生。ただね・・・・・・・」
「先生の話と現場の状況で、合致しない点があるでしょう。それがどういうことなのかなと思いまして」

事件解決から三日後。思いもしない拉致現場から生きて戻った秀悟は、警察にいて、繰り返し同じ内容についての事情聴取を受けています。

事実に即して言うと、秀悟はある一点につき、「嘘」の供述をしています。彼は繰り返しそう言い、譲ろうとしません。しかし、秀悟がいたというもう一人の被害者、「川崎愛美」なる人物は、どこをどう捜そうと見つかりはしなかったのです。

端からありもしない話に、刑事の金本は、あまりの衝撃のせいでか、秀悟が夢の中の出来事を語っているようにしか思えません。

刑事になだめられ、秀悟は黙り込む。自分の記憶に間違いはない。そう確信していた。しかし、刑事に繰り返し質問をされるうちに、その自信はゆっくりと、しかし確実にすり減ってきていた。悪夢のようなあの夜の出来事、あれはどこまで現実だったのだろうか?

たった三日、あの夜からそれだけしか経っていないというのに、秀悟にはそれが遙か昔の出来事のように感じられます。

犯人に狙撃され下腹に傷を負い、そのまま病院に拉致された彼女に対し縫合手術を行い、籠城する犯人に対し共に戦ううちに、いつしか愛しくてならなくなった愛美。後にも先にもそんな人物は現場にいなかったと言われても、秀悟はにわかに信じられないでいます。

「・・・・・・・ あの夜、俺は当直をするために、車で田所病院へ向かいました」
ゆっくりと喋りはじめながら、秀悟は瞼を落とす。記憶の海に意識がゆっくりと溶けていく。
脳裏でピエロが醜悪な笑みを浮かべた。

物語は、こんなプロローグから始まってゆきます。

〈構成〉
プロローグ
第一章 ピエロの夜
第二章 最初の犠牲者
第三章 開く扉
第四章 仮面の剥落
エピローグ

 

この本を読んでみてください係数 80/100


仮面病棟 (実業之日本社文庫)

◆知念 実希人
1978年沖縄県生まれ。
東京慈恵会医科大学卒業。

作品 「誰がための刃」「天久鷹央」シリーズ、「優しい死神の飼い方」「螺旋の手術室」「時限病棟」「崩れる脳を抱きしめて」他

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