『祝山』(加門七海)_書評という名の読書感想文

『祝山』加門 七海 光文社文庫 2007年9月20日初版


祝山 (光文社文庫)

ホラー作家・鹿角南のもとに、旧友からメールが届く。ある廃墟で「肝試し」をしてから、奇妙な事が続いているというのだ。ネタが拾えれば、と軽い思いで肝試しのメンバーに会った鹿角。それが彼女自身をも巻き込む戦慄の日々の始まりだった。一人は突然の死を迎え、他の者も狂気へと駆り立てられてゆく - 。著者の実体験を下敷きにした究極のリアルホラー! (光文社文庫)

「著者の実体験を下敷きにした」というのが何とも薄気味悪い。実体のない「祟り」が主題の話で、それゆえ、目に見えてわかる恐怖以上の怖さがあります。

彼らが面白半分の「肝試し」で行ったという廃墟は、群馬といっても、埼玉との県境近くにあります。山と山とに囲まれた谷筋に近い所で、側に沢が走っています。山を背にして麓にあるという廃墟は、朽ち果てた製材所のことでした。

正面には横長の事務所らしき建物があります。右手は鉄骨で組まれた作業場。左側には、その建物だけが木造の伝統的な日本家屋である住居があります。それらすべては傾ぎ、ひび割れ、錆び、壊れ、蔦を始めとした様々な植物で覆い尽くされています。

そこは最近、〈出る〉と有名な廃墟であるらしい。元から曰くのある土地で、それを知らずに村外から土地を買い、住居と製材所を置いたのだが、従業員、家族が次々におかしくなって、自殺や病人、異常者が続出したのだといいます。

そして会社も倒産し、結局、最後に残った社長も首を吊ってしまったと。 - 但し、これはネットの掲示板にありがちな人から聞いた噂話で、実は読んだ当人も得た情報の半分も信じてはいません。彼らは、あくまで興味本位で行ってみようと言い出したのでした。

ある人は、事務所の中に作業員の影が見えると言い、別の人間は、住居の中から女の声がすると言います。建物の外でも、黒い塊が動いていたとか、材木が倒れる激しい音が聞こえただとか、バラエティに富んだ噂があります。

しかしながら、それを語る本人でさえ本気で怖がってなどいません。掲示板に書き込んだ連中のほとんどは、実は何を見たというわけでもありません。彼らは、自分は怖がってなどいない。あくまで遊びのひとつだというポーズを保ち続けています。

しかし、私は話を聞いて、胃の辺りに不快な重みを感じた。この感覚は不安に似ている。だが、私は、
(気味悪い)
その感覚を分析した。

田崎はただ、掲示板の情報を羅列しただけだ。そして、それらが体験者の登場しない、噂話だと告げたのだ。にも拘らず、私は話に、リアリティを感じていた。原因はわからない。

元来臆病者の「私」は、勝手に想像力を膨らませ、怖くなっただけかもしれません。「いや、そう思うことこそ、臆病の証だ」- 鹿角は「この感覚を知っていた」と思い出します。

道の向こうから、急ブレーキと濁った悲鳴が聞こえてきたとき。
独り暮らしの老人の家に、救急車が停まったとき。
感じたことのないうねりとして、阪神淡路大震災の揺れを東京で感じたとき・・・・・・・。

- 凶事を控えた胸騒ぎ。
その感覚を、私は今、感じている。

引き込まれてしまうのが、ホラー作家である鹿角南(かづのみなみ)。引き込んでしまうのが、鹿角の薄い友人・矢口朝子と朝子の職場の同僚、田崎正人と小野寺淳の二人の男性。それともう一人、同じ職場で働く若尾木綿子(ゆうこ)という女性です。

調べるうち、矢口は支離滅裂なことを言うようになります。廃墟で虫に刺された田崎は、刺された右腕が腐ったようになります。小野寺が事故で死に、鹿角と若尾だけがかろうじて正気を保っています。

廃墟の奥に「山神社」があります。そのまた奥には「祝山」が聳えています。後にわかるのですが、「祝山」にはもうひとつ、別の名前があります。

 

この本を読んでみてください係数  80/100


祝山 (光文社文庫)

◆加門 七海
1962年東京都墨田区生まれ。
多摩美術大学大学院修了。伝記作家、エッセイスト。

作品 「美しい家」「オワスレモノ」「心理MAX」「怪談徒然草」「うわさの人物 神霊と生きる人々」「女切り」「203号室」など多数

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