『高架線』(滝口悠生)_書評という名の読書感想文

『高架線』滝口 悠生 講談社 2017年9月27日第一刷


高架線

そうやって元のところに留まらないで、次々動いて移動していくようなものなんだな、人が生きるということは

風呂トイレつき、駅から5分で家賃3万円。
古アパート・かたばみ荘では、出るときに次の入居者を自分で探してくることになっていた。部屋を引き継いだ住人がある日失踪して・・・・・・・。人々の記憶と語りで綴られていく16年間の物語。

帯に - 思い出すことで、見出され、つながっていくもの。注目の芥川賞作家、初めての長篇小説 - とあります。

物語は、東京の西武池袋線・東長崎駅から江古田方面に歩いて5分ほどのところにある古アパート「かたばみ荘」を舞台に、そこで暮らす住人や、住人と関わりのある男女7人が話を繋いでいきます。

語り手は、「軸」になる物語 (というものが存在すればということですが) とは別に、それぞれが、それぞれの思うところを思うままに語ります。誰に向かって語っているかはわかりません。

それは元来「余分な」ことで、それで脱線し、停滞もし、関係なさそうな逸話や描写は、(それ自体にことさら意味はなくとも) しかしどこか誰もにありそうな、行き合い、語らう内でのあるおかしみを感じさせます。

あっと驚くドラマがないわけではありません。震災の話があり、小出しのように、中にクスッと笑える話もあります。何気にリアルで、

取り立ててなんでもなさそうな普通の人間の普通の人生の一断面を切り取って、それほど普通ではない小説に変成させる滝口のセンスは抜群だと思う。(東京新聞の文芸時評/佐々木敦氏の文章より)- そう言わしめる、事の気配を感じ取ってほしいと思います。

「かたばみ荘」の家賃は月3万円。大家の方針で、住人は部屋を出るとき、次に入る人を連れてくることになっています。

最初の語り手の「新井田千一」がかたばみ荘を出るとき、彼の部屋を引き継いだのが「片川三郎」なる人物で、彼がある日忽然と姿を消したことから話は始まってゆきます。三郎が失踪したことで、新井田は大家の万田から次の住人を探してほしいと頼まれます。

新井田がかたばみ荘を出てから2年以上が経った後のことです。連絡があった時、彼はすぐに万田のことを思い出せません。その上不条理に思える依頼に、いっそ電話を切ろうとします。しかし聞く内少し気の毒になり、結果新井田は三郎の行方を捜すことになります。

三郎のバンド仲間の”タムラックス”こと田村と出会い、次に、三郎の幼馴染みである「七見歩」へと語り手が代わってゆきます。歩の次は、彼の妻となった「七見奈緒子」、奈緒子の次が「峠茶太郎」- 彼はよんどころない理由で偽名を使っています。

次が「木下目見(まみ)」- 目見は茶太郎がよく行く喫茶店の店員で、彼は目見に対し、「いい名前だよね」と言ったあと、「なんかさ、木登りしてる女の子を下から見上げたらパンツが見えた、みたいな名前だよね」- そう言い、目見を憮然とさせます。(余談ですが私はこういうことをさらりと言う茶太郎の気質がとても好きです)

そしてあと2人、最後に「日暮純一」と「日暮皆美」の夫婦が登場します。茶太郎がよく行く喫茶店にいて、日暮純一は、偶然かたばみ荘の住人がいるのに出くわします。先に書いた、それが峠茶太郎という人物です。

※「かたばみ荘」を巡る人々の物語は、実はそこに至る少し前から始まっています。付いたタイトルがヒントになりますが、しかし、だからといって何がどうだということもありはしません。そこを過ぎ、先にあるのがかたばみ荘、そんな感じで読めばいいと思います。

 

この本を読んでみてください係数  90/100


高架線

◆滝口 悠生
1982年東京都八丈町生まれ。埼玉県入間市出身。
早稲田大学第二文学部入学。(約3年で中退)

作品 「寝相」「愛と人生」「ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス」「死んでいない者」「茄子の輝き」など

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