『疫病神』(黒川博行)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/14
『疫病神』(黒川博行), 作家別(か行), 書評(や行), 黒川博行
『疫病神』黒川博行 新潮社 1997年3月15日発行
黒川博行の代表的な長編が並ぶ「疫病神シリーズ」の原点となる作品です。
シリーズ5作品の内3作品が直木賞候補になり、5作目の『破門』で遂に受賞の栄誉に輝いたのは2014年、つまり本年2月のことでした。
作品の特徴を一言で表すと「笑えるハードボイルド小説」ということになるでしょうか。後ろにカッコで(関西編)と入れたら完璧です。
このシリーズに限らず、黒川作品には必ずと言ってよいほど凸凹コンビが登場します。「疫病神シリーズ」では、建設コンサルタントの二宮と暴力団二蝶会幹部の桑原です。
二人の掛けあい漫才のようなボケとツッコミの妙は他の追随を許しません。只々、笑ってください。二人が仲良しかというと、決してそうではありません。
二人は互いに相手のことを「疫病神」だと罵り、できればお付き合いは御免被りたいのですが、そう思えば思う程深間にはまって行く腐れ縁で結ばれています。
西心斎橋に事務所を構える二宮企画へ、富田林の小畠という産廃業者が訪ねて来るところから話は始まります。
小畠は、建築廃材の最終処分場を作る計画を進めているのですが、申請間際になって地元の水利組合から補償金の上積みを要求されたことに頭を抱えていました。
上積みを回避して、何とか組合長から同意書を取り付けてほしいというのが小畠の依頼内容です。
二宮は手始めに橋本という水利組合長から調査を始めますが、橋本は本蔵環境開発の水谷という男と会っていることが分かります。水谷は白耀会という暴力団の幹部で、
本蔵環境開発は暴力団の実態を隠したフロント企業だったのです。
一方で橋本と水谷は何者かに尾行されているのですが、実はこちらも薫政会傘下の陵南会という暴力団の組員によるものでした。
白耀会−本蔵環境開発−そして松浦土建 対 薫政会−陵南会−そして神栄土砂
小畠の建設計画の裏には、暴力団とフロント企業、系列の土建業者、そして予定地を仲介したブローカーの倉石までもが大きく関わっていたのです。
処分場建設から生じる利権に絡んで暴力団同士が対立する状況が分かると、同じ輩の桑原は素早く儲けを掠め取る算段を始めます。
関係者を見つけては容赦なく追い詰めていく、いかにも桑原の“ヤクザ”らしい追込みに、否応なく連れ回される役目が二宮です。
二宮だけが堅気で、あとは強面のお兄さんばかり。お兄さんのなかでも群を抜いてイケイケなのが桑原、という面子で丁々発止が繰り広げられます。
ためらいなく振るわれる暴力、恫喝や脅迫、逆に捕まっては監禁されたり、ロープで吊るされたり...迫力満点の追込みは、本編でお楽しみください。
「疫病神シリーズ」はこの後『国境』『暗礁』『螻蛄』、そして『破門』へと続きます。
『国境』では、二宮と桑原は詐欺師を追って何と北朝鮮へ行ってしまうのです。中国国境での活劇は言うまでもありませんが、
知られざる北朝鮮という国の実状が克明に描写されており、『国境』こそがシリーズ最高傑作だという声もある名作です。
本作が気に入られた方は、ぜひ続けて第二作目も読んでみてください。さらに疫病神コンビのファンになりますよ。
この本を読んでみてください係数 90/100
◆黒川 博行
1949年愛媛県今治市生まれ。6歳の頃に大阪に移り住み、現在大阪府羽曳野市在住。
京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒業。妻は日本画家の黒川雅子。
スーパーの社員、高校の美術教師を経て、専業作家。無類のギャンブル好き。
作品 「二度のお別れ」「雨に殺せば」「キャッツアイころがった」「カウント・プラン」「悪果」「文福茶釜」「国境」「暗礁」「螻蛄」「破門」「後妻業」他多数
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