『走れ! タカハシ』(村上龍)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/14
『走れ! タカハシ』(村上龍), 作家別(ま行), 書評(は行), 村上龍
『走れ! タカハシ』村上龍 講談社 1986年5月20日第一刷
あとがきに本人も書いているのですが、村上龍には珍しく「普通の人々」が登場する短編小説です。
全てにプロ野球・広島カープの(往年の名選手)高橋慶彦選手が絡んで、誰かが必ず「走れ! タカハシ」と叫ぶか祈るかする、という話です。
あとがきの続きですが、本人は軽快な「スポーツ小説を書いたつもり」だと言うのですが、こちらは少々異論のあるところです。
そこは村上龍も承知していて、決して「書いた」とは断定していないわけです。ワタシ的には、スポーツ小説の「名を借りた」くらいが丁度良い案配だと思います。
総じて明るく元気で、何より分かりやすい。相変わらず下ネタは豊富ですが、これも淫靡と言うよりカラッと乾いて笑えます。
何度も言うようですが、村上龍が書く小説じゃないみたいな明快さです。
私が気に入った話をひとつだけ。
PART 10「あれはちょうど一年半くらい前のことだった」
中年のトラック運転手が失業してオカマになる話です。
男は所謂昔気質の仕事人間で、家庭を顧みることも妻を気遣うこともありません。
そのあげく妻には別居され、中学生の娘と二人で暮らすことになります。
妻が嘆く理由が今一ピンとこない男は娘にそのことを問うと、「おとうちゃん、ケンキョじゃないじゃん?」と言われてしまうのでした。
そんな矢先、勤めていた会社が倒産、男は失業者となります。
あれはちょうど一年半くらい前のことだった...社長と行った六本木のゲイ・バー。
そこにいたトマトちゃんに「あんたは、すごくいいオカマになると思うわ」と言われたことなど忘れていたのに、
トマトちゃんと再会したことがきっかけで、気付けば男はオカマになっていたのです。
嫌な客が店に来たのは、ある雨の夜でした。
あまり有名でない大学のラグビー部の部長だというその客は、「昔のオレみたい」に男を売りものにしているような奴でした。
トマトちゃんに嫌がらせをするのに我慢できず、奴に向かって「店を出ろ!」と叫んでしまい、挙句にボトルで頭を割られてしまいます。
入院して5日目に娘が見舞いに来ます。オカマになってゲイ・バーで働いていたことがすべてバレてしまうのですが、
娘はさほど驚いた様子もありません。呆れて母親の所へ行くかと思いきや、行く気はないと言い、今度一緒におかあちゃんを誘って野球を観に行こうと言うのでした。
野球の話はわざとらしさがなくもないですが、ちょっとホロッとする話で心地よく、まるで重松清さんみたい。
村上龍も今はもう60歳を過ぎたオジサンですが、この小説は随分と若かった頃に書かれた分、元気で溌剌とした勢いが感じられます。
読後感が良いので、多くの方にオススメです。
この本を読んでみてください係数 90/100
◆村上 龍
1952年長崎県佐世保市生まれ。本名は村上龍之助。父は美術教師、母は数学教師だった。
武蔵野美術大学造形学部中退。
作品 「限りなく透明に近いブルー」「コインロッカー・ベイビーズ」「愛と幻想のファシズム」「五分後の世界」「インザ・ミソスープ」「希望の国のエクソダス」「半島を出よ」他多数
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